プロフィール
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長編詩置き場
2010/07/09(Fri) 【葬重夜:IMPERIAL NIGHT】 神はゲロだった 美しい吐瀉物だった 信仰は蝿だった 汚れた純白のコトバを産む虫けらだった 俺は便所で俯きそれを見ていた ゲロは光あれ!と泡立った 蝿が舞った 舞ながら忘却を歌った 俺は泣いていた 心が泥流にさらわれたように深く詰まり 折れた手首はやがて早鐘を打ちだした 地獄がゆっくりと現われた それは死を司る罪深い額をしていた 救いをください 泣きながら何度も請うた 救いはまだですかと 跪きキツツキの鳴き真似だってした 地獄は白いゲロを掬い飲み込めと云った (…血は無限の活力になるとも…) 地獄はゲロを掬い眼に塗りたくれと、蛇の中指を揺らして嗤った (…血は無限の渇きを癒すとも…) 子供が見えた 大人も見えた 細い窓から笑い声が忍び込んだ 俺は床の黒い聖書を手に取った それは触ると無数の蝿が飛び立ち錆色に変わった 地獄は蛇と交わって熱い舌を伸ばした また笑い声が隙間からヒソヒソと忍び込んだ 夜が一声グゥと鳴き ゲロが口に満ちた…… そいつはこう云った 盗人は獲た代償を欠けた月に差し出さねばならない 宝石には指を 剣には腕を 花には葩を 命には血を 差し出せッ!!!赤い月下のライオンが猛々しく吠えた 俺は震えていた 救いはまだですか 何度でも聖書を破いては飲み込んだ その度に蛆が唇から零れ、舌先で囁いた 地獄は翼を広げ俺を包みこんだ 捜し物はここにあると 喪った火はまだ消えてはいないと 誰かの心臓を刻んだ夜がまた優しく鳴いた 盗人は俺の持ち得ないモノばかり振りかざし、隠れて頬笑んでいた 大人がいた 子供もいた 恋人達が主婦が警官がいた 両親は砂漠の塔の上で焼かれていた 俺は最後に言った これが救いですか? コレガスベテノコタエデスカ? 俺は夜の翼を広げた 赤いライオンに跨り穹へと舞い上がった 手には鋼の聖書と鎌のような蛇が握られていた その額には幾重にも茨が絡みつき、裂けた口からは孵化した蝿たちが無限に湧き出してきた 振り向くと地獄は消え、ただ地面に灰だけが残されていた サシダセッッ!!! 彼らはその言葉を聞きながら黒く眼を見開いて眠った サシダセッッ!!! 人々は笑いながら油のような黒い水溜まりに沈んだ オレニモワケテクレ…… 少女は何かを求めるように手を上げ、俺の黒い穴のような胸を虚しく引っ掻いた それでも血は真夜中に乾いて消えた ゲロは飲んでも飲んでも吐き戻された 癒される渇きなどなかった 溶かされる痛みなど何処にもなく 猛る焔は止む事を知らなかった 震える少年がいた 少年は俯き何かを見ていた 少年は夜に縋り、ただ光を求め言葉を吐いていた その祈りは地面に落ち、やがて干からびたゲロに変わった…… その声を聴く者はいなかった その声に応える者は私しかいなかった 夜は風を帯び私は静かに彼の前へと降り立った 少年は泣きながら跪き、夜の翼に抱かれ灰となった トケルネコ
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