詩人:しゅんすけ | [投票][得票][編集] |
そこに在ったのは
「穴」だった
開いた
というよりも
初めからそこにあるように思えた
「穴」は目の前の空間に拳大の真円を描き
そこを切り抜いたような
二次元の黒い円盤だった
不意に男は
自分の足に問うて見る
どれ程歩いてこれたのか?
自分で思うほど
歩いてはいないようだ
振り返ると目の前に
スタート地点
もう一歩踏み出してみた
「穴」は先程よりも一回り大きくなった
濃淡の無い景色に遠近感を奪われている
夜空の星に手が届くような錯覚をする事がある
今まさにそれだった
「穴」はすぐ目の前にあるような気もする
しばらく進み
「穴」がかなり大きなものであることに気付く
次第に「穴」の真意に対する興味が失せていく
いつの間にか
それに近付くことが
目的になっていた
幾日歩いても
ただ「穴」の大きさを知るばかり
ある日男はふと思った
近付いているのではない
成長しているのではないか?
「穴」とは逆の方向へ走った
やはり
それは大きくなった
男はついに
足を止めた
その時
「穴」は消えた
と同時に
男は「穴」の真意に気が付いた
己の眉間のしわを撫で
道すがら出会った人の言葉を思い出した
「戦わなければ、負けないのにね」
男は
今日は眠ろうと心に決めた