詩人:ハト | [投票][編集] |
ぐちゃぐちゃになって
どろどろになって
もう嫌だと
何度も何度も泣きたくなって
日々という砂粒
落ちては引っくり返して
日のもとにでて
私たちは笑おう
美しいものを愛そう
今この時流れる涙でさえ
わたしは愛そう
尽きては返す砂時計
尽きては返す砂時計
懐かしいと思える程
私たちが大人になるまで
それからはもう
手にとったりしないで
愛でるだけ
ぐちゃぐちゃにもならない
どろどろにもならない
嫌になっても泣いたりしない
日々という砂粒
両手一杯にすくって
空に流そう
そしてまた笑って
美しいものを探そう
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あなたの思い出とともに
繰り返す落日の
小春日和
リセット出来ることは
限られていて大抵
取り返しなんてつかない
最低
去年の今日よりも寒い
今年の今日
思い出が埃を
被っているのではなくて
きっと
思い出自体が
埃を産み出しているんだろう
今日食べるなら
茗荷にして
たくさんたくさん
悲しい日は茗荷
お吸い物で
きっと私自体が思い出
去年の今日より寒い
今年の今日より
埃を被るんだろう
明日の今日
きっと私自体が思い出
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あなた、ねえあなた
口をぬぐって
知らぬ振り
するのがお上手なのね
お薬を下さいな
治りかけた
傷口が痒いの
器用にも皮だけ裂いた
あったのは衝撃だけ
遊んでさしあげます
あなたが本気で噛みつきたくなるくらい
傷跡が残ろうが
構わないのです別に
今更惜しむものでもなし
ねえ、あなた
彼岸花に埋もれて
きれいな思い出だけ
残して消えてしまえたら
どんなに楽かしらね
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からまわってるんだ
考えの足りない頭だから
君は言い訳だと怒るだろうか
君はきっと今も一生懸命に
生きているだろうから
僕はすぐに流されてしまう
そしていつも君が
引っ掛けてすくってくれるんだ
好きなものを自信をもって
好きと言える君だから
流れにも逆らわず流されず
静かに佇んで
枯れ葉のような僕を力強く
受け止められるんだね
君は君の言葉で
好きなものの名前を
指折り数えている
僕は誰かの言葉で
君が喜びそうな言葉を
ひたすら探している
君はいつも怒っているね
流れの中に波紋を残して
僕の方にやって来て
そして言うんだ
あなたの言葉を聞かせてと
ごめんね
からまわってるんだ
考えの足りない頭だから
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生け垣や塀の隙間や
あなたの指先から
覗くのは彼岸
今年は
秋が来るのが早くて
前栽のもみじが早くも
あれもそうね
彼岸の色
私の中指と
あなたの中指の間
沈黙は饒舌ですが
何とも苦く
何とも不味く
今年は
飽きが来るのが早く
あなたの指先から
覗くのは悲願
冷たい雨のカーテンが
私たちを仕切って
見えなくしてしまう
何もかも
何もかもをです
生け垣や塀の隙間や
あなたの指先から
覗くのは彼岸
赤く染まる視界の角
あなたが苦く
笑うのが見えた
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畔を埋めるのは彼岸花
飛び交うのはアキアカネ
君を染めるのは夕焼け
いや、私だろ
彼岸花燃やし尽したら
ねぇ、私たち
ひとつの影になれる?
くるくると回りながら
溶けていくよ
君は紅茶の香り
私はミルクがいい
君に溶けていきたい
溶けて生きたい
クタバレと立てた中指
間違えて留まったよアキアカネ
このユビ留まれは
サヨナラの合図
君はステキに憎らしい
君を染めるのは夕焼け
君を染めるのは夕焼け
畔を埋めるのは彼岸花
摘んで帰ると火事になるよ
秋は燃えている
君が燃やしている
私は燃やされている
君に燃やされている
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何の虫かな
ちりちりと鳴いているのは
カーテンレールが
落ちてしまった私の
窓から見えるのは
絵画のような
時々やって来てチリンと
残ったカーテンを揺らす風
電車が遠ざかっていく
家から駅までは
歩いて七分
今日も営む
スーツを着て歩いていく
君を見下ろす
時々やって来てチリンと
君は涼しいを
寒いという
今
ないているのは、何の虫ですか
通りすぎていく車
くるりベニシジミ
今日も営む
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雑草と選り分けたあの日の
小さなコスモスの芽は今
こんなにも逞しく伸び
あれは確かまだ寒い時期の
誰もがその先に不安を感じ
曇り空の下黙々と
むしった草は山ほどに
その雲の上は
青空何てことに
想いをはせる余裕もなく
懐かしむモラトリアム
黙々と
山ほどに
あれからまた
冬に向かおうとしています
この秋は
誰のモラトリアムなのか
水をやります
黙々と
分かれていく茎や葉や
私からは見えない根っこ
あの日曇っていた空は
今日は穏やかに鱗雲を浮かべて
忙しいながらも私は
ちゃんと生きています
あのコスモスのようにすぐには
空には近付けはしませんが
あの日黙々と
選り分けた未来の
その先はまだ
分からずにいますけれど
青空に混じる夕焼けを
素直にきれいだと
言えるようになりましたよ
あのモラトリアム
もうすぐコスモスの花が咲きます
何色かはまだ知りません
今はただ黙々と水をやります
もうすぐコスモスの花が咲きます
コスモスの茂みに
ベニシジミが舞っています
冬までのモラトリアム
やって来る秋を待っています
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受話器を置くまでの
沈黙
耳をすましている
笑い声を漏らすと
君もまた
笑い声を漏らす
待っているんですけど
待ってはいないんですけど
意味もなく
前屈み
親機のコードを
くるくると
巻いてみたりして
待っているんですけど
やはり沈黙ですか
待ってはいないんですけど
やはり沈黙ですか
私から受話器を置く
勇気もなく
耳をすましている
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あの日見上げた茜空
夕焼け色のエンドロール
きれいと誰かが呟いた
きれいなもんか、私は、
もっときれいなものを知ってる
細切れの窓から見える
曇り空の隙間からこぼれる
光はあいつの
居場所を示してるんだ
そうに決まっている
そうでなくては、困る
こうして
ほつれ始めた
未定ばかりの毎日でも
それなりに続いてゆくもので
持ち上げてくぐったロープ
黒と黄色は警告の色
私達は何かを侵したか
どちらがあっちで
どちらがこっちなの
何をやっても
間違いに繋がる
あれがきっと境界線だった
暮れてゆく茜空
あいつが空を染めたのか
空があいつを染めたのか
見え始めた星と星つないで
ありもしない星座を作る
つけるのはあんたの名前
いつもそうだよ
きれいと呟いた誰かも
もうお家へ帰る時間だよ
そうさ
本当にきれいなものは
目に触れてはいけないから
またねぇ、と
振り上げられた手に
私の延びた影がくっついて
殴られたようだよ
きれいなもんか、私は、
本当にきれいなものを知ってる
夕焼け色のエンドロール
エンドクレジット
あれは昇ってるのか
視界いっぱい夜色の
真ん中に踊り出すのは
エンドマークではなく
あんたの笑顔であってほしい