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ハトの部屋  〜 新着順表示 〜


[27] 吸収
詩人:ハト [投票][編集]

何度も何度も齟嚼して

刷り潰して刷り潰して
私自身の唾液と混ぜて
ごくりと飲み込んで

顎が痛くて
動かなくなる
ギリギリまで

何度も何度も齟嚼して

そうして自分の
血肉としても
それは当たり前のこととなり

軽々しく
弱肉強食を唱う輩

そんなやつは
自分も食われてしまえばいい

食われる後ろから
仕方ないさと言ってやるよ

強さとは何で決まるのだ
足の早さか
体の丈夫さか
遺伝子の配列か

犠牲にして
犠牲になり
そうして生きているんだろ
陳腐な言葉で
片付けるなよ

想像以上に
私達は生きているんだ
胸を張れよ
命を見ろよ

齟嚼しろ
そして飲み込め
それが命だ

もっとよく見ろ

2006/08/15 (Tue)

[26] あの娘の音色
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あの娘のトランペットから
悲しみの音色が消えた日
あの娘は感情を手放した

あの娘のトランペットから
怒りの音色が消えた日
あの娘は無関心を装うようになった

座る位置も
音楽の中の役割も
あまりに掛け離れすぎて私達
お互いの音が聞こえなかった

君の高らかな
始まりのファンファーレ
涙が出たんだよ

息を吸ってよ

君のハイベーが聞きたいんだ

それは私には
出せない音だから

私は私の
音を出すから

だからお願い

もう一度息を吸ってよ

2006/08/10 (Thu)

[25] コスモス
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君が種であったころ
舞い降りた大地は
不運にも白いプランター

気まぐれに注がれる
善意の雨だけが
君の喉をわずかに潤し

乾と湿を
不定期に繰り返す大地が
吹く風から君を繋ぎ止める
しかしそれは
伸びやかに生きる君には
狭い大地であり
乏しい恵みであり

それでもなお
君は空を目指し
伸びやかに
伸びやかに

君が種であったころ
舞い降りた大地は
不運にも白いプランター

茶色く縮れた小さな葉
それでも
集められるだけの
水を取り込み

緑であろうとする
健気な葉っぱ

プランターの外の種は
逞しい茎を作り上げ

その根は
どこまでも
どこまでも伸ばされ
惨めな葉っぱなど
一つとしてない

それでも
咲かす花は同じ

気まぐれな善意が
君を忘れない限り

プランターの中の君が
一生懸命であろうとする限り

君が種であったころ
舞い降りた大地は
不運にも白いプランター

それでも君が目指すのは
秋に向けて遠くなる空

その時咲かす花は
誰よりも美しいと
いうわけにはいかないけれど

一生懸命に咲かす花は
負けず劣らず美しい

2006/08/08 (Tue)

[20] バチックかスクラッチ
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授業用のノートの隙間になら
いくらでもできた落書き
まっしろな紙を手にして初めて
怖いと思っただろ

この紙を
この空間を
汚す価値がお前にあるのか?

いくら色を使い分けても
芸術にはなれないんだぜ

情けなくて
消しゴム掛けたってな
その強い筆圧じゃ
キレイになんて
なりやしないのさ

取り返しのつくものは
どれくらいあるんだ?

その消しゴムは
どれくらいキレイにけせるんだ

あんたの絵筆が欲しいんだよ
ベタベタと塗り潰したいんだよ

笑っちゃうだろ

それでも情けない落書きは浮かび上がって来るもんなんだぜ

2006/07/28 (Fri)

[19] 種の中の胚
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わたくしは
雇われる者であります

そうして日々生き延び
食い繋ぐ者であります

今時賃金手渡しの
そんな職場でありますが

昼休みもなく
雑務の多い仕事でありますが

好んで選んだ仕事であります

大人になどなれなくていいと
望んだ日々は遥か遠く

今はただ
未来の種を育てている
そんなわたくしであります

この種たちがこの先
より良い土に
より良い水に
より良い光にめぐりあい
立派に伸びて行けるよう

その胚のなかに少しでも
土に落ちる力を
水を取り込む力を
光を吸い込む力を
少しでも、少しでも

わたくしは
雇われる者であります

土でも
水でも
光でもございませんが

未来の種を
預かる者であります

時に間違い
時に叱られ
迷うこともございますが

好んで選んだ仕事であります

わたくしは
雇われる者であります

そうして日々生き延び
食い繋ぐ者であります

今時賃金手渡しの
そんな職場でありますが

昼休みもなく
雑務の多い仕事でありますが

好んで選んだ仕事であります

わたくしは
雇われる者であります

2006/07/23 (Sun)

[18] ゲルインク
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私は孤独を知らないし
世の中のことも知らないし
知識は浅く
意識は低く
どちらかというと消極的で
自分で思うよりもインドアだ

詩が何を意味するかなんて
本当はこれっぽっちも気にかけてやしないし

あの娘の後を追う私は
どこまで行っても副産物でしかないのだから

それでも私が
このボールペンのゲルインクが尽きるまで
言葉を書きなぐるのは

その事に対する
ささやかな抵抗なのである

2006/07/18 (Tue)

[16] バケツのなかのメダカ
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バケツのなかのメダカ
それは比喩などではなく
そこにある現実

今日も暑いですね
日陰で遊びなさいね

バケツのなかのメダカ

嬉しそうに連れてきた子どもに
悪意などみじんもなく
それは紛れもない真実

今日も暑いですね
水分補給を忘れずに

生温い川水
バケツのなかのメダカ

玄関の鍵を掛け
休日の計画を練る

雷雨が終われば
もう疑いようもなく夏になる

バケツのなかのメダカ
それは比喩などではなく
そこにある現実

2006/07/16 (Sun)

[15] 仮縫い
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大雑把に縫い付けられた
二枚の布切れ

片方は七宝柄が美しく
片方は目が痛くなるような朱色

不規則に出ては引っ込む
黒い糸

赤い糸なら良かったのにと
手に取って眺めてみる

仮縫いだからいいと言って
君の手が引っ張ったら

大雑把に縫い付けられた
二枚の布切れ

片方は君の手に
片方は私の手に

黒い糸を引きながら分かれた

赤い糸なら
良かったのにと

残念になる

2006/07/12 (Wed)

[14] 私の世界はここしかない
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昭和橋の
錆びて赤茶けた手摺
その高さは
私の膝よりも下しかなく

通る度に
下を覗きこんでは

この景色を愛しく思い
そんな自分に
少し酔う

年々広くなる川原と
狭くなるにつれて
深くなってゆく天の川

知らぬ間に形がかわり
泣きたい衝動にかられても
この場所が
美しいところであるには
変わりなく

橋に腰掛け
膝よりも下しかない手摺に
腕をのせ顎をのせ
足が宙に浮いている
その感覚を楽しむ

渡って行く人々に
それなりに挨拶を交し
振り返っては
影が傾くのを確かめる

山並みの輝く輪郭に

闇に紛れていこうとする
紫陽花の色合いに

少ないながらも
道を照らす外灯に

私を包むその音楽に

この世界の
美しい部分を感じる

感じられる幸福

泣きたい衝動にかられる

2006/07/11 (Tue)

[13] まつりの夜の子ども達
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思い出は
セピアでも白黒でもなく
驚く程色鮮やかで

まつりの夜のネオンや
延々と続く
道標のちょうちんの色
捕まえ損ねて夜空に消えた
蛍の光の色でさえ

目を閉じなくても
思い浮かべることが出来てしまう

君と手をつないで
あのちょうちんが
途切れるところまで
行ってみたかったな

その先に何があるのか
知っていても
私は君となら
行ってみたかったな

かえるが鳴いている
雨の音みたいに

草が萌えている
鼻が痛いと笑った

君の手はあたたかい

懐中電灯は要らない

思い出は
セピアでも白黒でもなく
泣きたくなる程
色鮮やかだ

2006/07/10 (Mon)
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