詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
手のなかに
ことばを握ることがあったね
あるはずもない質量に
身を任せてしまうことが
あったよね
どんなこころ模様にも
ときは流れてゆくものだから
いつか
わたしは
立ち止まる
おなじ景色の
おなじ重みに
正確な時刻を誰にも聞けぬまま
あのとき、とだけ
つぶやいて
いつかわたしは
立ち止まる
手を振るひとも
首をかしげるひとも
それはひとつの
反逆だったね
星の名をもらわずに
生きることをつとめる仲間としての
証だったよね
なんてことだろう
触れていたものが
ようやくみえる
ただいま、だとか
おかえり、だとか
どれも静かにこの内にある
ほんとうは
いまでも変わり続けているけれど
そういうことから
逃げないために
あるいは上手に逃げるため
すべての肩に
伝えよう
ありがとう、こそ
起源だったね
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綿毛に乗せた
ことばの行方を
わたしは知らない
それは
さほど深刻ではない心当たりで
暖かすぎる夏の日に
ときどきそっと
距離を置く
まっ白な
姿かたちは
どことなく汚れにおもえて
少しだけ哀しく
少しだけ大きく
背筋を伸ばす
風にはなれない午後に
逆らうでもなく
従うでもなく
不器用な戯れが
群れをなすだろう予感を
いっぱいに包んでいる
そうして
夢とよばれる境界線は
いつまでも見つからないままで
だれかの足元に
それを広げる
口笛の似合う季節の名前を
なんと呼ぶべきか
涙のような海と
海のような耳と目の
その傍らで
自由な羽を
わたしは持たない
綿毛のなかの
わたしとちがう体温に
不思議なひとつを確かめながら
ときどきそっと
空になる
解放されない
光の果てに
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雨とよばれる
雨とはちがうそれを
よける隙間も
したう境界線も
本能のなす
川かも知れない
浴びていることを
浴びせてしまうような
無知なる無知の
さらなる先に
雨は降る
ただ純粋に
雨は降る
過剰な飾りの
あわれにあらわな裸身の上を
こぼれる音は
こぼれただろうか
果てしない孤独を
友として持つ人たちは
空をよく見て
なお底に
なる
風は
どこですか
涙や怒りや諦めや
いつわることや
いたわることや
心はどうして
ここ、なのですか
雨とよばれない
雨を注いでゆくために
もしくは
しずかな吐息の
囁きの
ため
あらゆる昔の方位から
あらゆる昔に帰るさなかを
雨は
さがしている
川音たちの
ひとつの行方を聴きながら
雨はさがしている
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昔、
暗やみがまだ
鏡の名前を持っていた頃は
安堵という美しさが
ありました
魔性は
ていねいに拒んでいたのです
だれかの
定義の外側を
上手に棲んでいたのです
きみは
住人ですか
無実の仮面を
おそれるあまりの
来し方ですか
群れますか
磨いてゆかねばなりません
問いかけを待つ
真実を
疑うにせよ
追いかけてゆくにせよ
磨くということの
その意味を
重ねてゆかねばなりません
それはどこか
傷と似ていますが
同じことにはなりません
過不足なく
主従の関係にあるのです
この王国をあかす
語り部の
全てに
きみの順番は
どれくらい最後でしたか
今、
捨てがたく匂うものは
光の仕草だったかも知れません
道筋としての迷いのような
愛するべき帰属です
否応なく
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ひなになれない
わたしは
せめてもの抵抗として
日々を生まれ続け
翼はとうに
ぼろぼろ
飛べたためしなど無い
それなのに頑として
語り継ぐことを
断ち切らない
きれいなものを間違えて
間違えることから
あらたに覚えて
目も耳も
どんなに不純物だらけでも
真っ直ぐに立つための
二本の足は失わず
立とうとするのか
成りゆきなのか
わからないことも含めて
ここに在るのが
わたしだ
執拗(しつよう)に
厭(いと)うことはせず
馴れあうこともせず
よごれものは
よごれものなりに
手立てのわかりやすさを
続いてゆける
はずだろう
抱えきれない荷があるときや
かろやか過ぎる涙や笑みに
つぶやく言葉を
鳥の名に
わたしはまだ
幸福の途中
素顔を呼んで
素直に
呼んで
わたしは
わたしとして
あらわれる、ただ
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雨のなかに
すむさかなを
優しいひとくちでは
描けない
まだ
飲み干したはずの
模様がいつまでも海、で
花びらに
ふるえる風の光と影
それはもう
はるかに見失うような
幼さで満ちてゆく
かかとの下の
肩とよく似た土の匂い
やすみやすみでも
飛行の気配は
滞りなく
まあるい星の境界線に
ふれる隙間を
乾かさない
綺麗になりたかった日は
知らずにすまされない
ただひとつの源
それぞれに
発つべき時刻をさまよいながら
なすすべもなく
泳ぎつかれて
寝そべって
気がつけば
わかりやすい色合いで
横切る雲から
青空が
照る
こぼれ、つながる線路には
無限列車がふさわしい
だれかの窓に、指先に
輪がながれたら
夏のおと
わすれることを
わすれた頃に
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器の
壊し方を知っている
けれどもわたしは
外側にいない
器の
壊れ方をおぼえている
けれどもあなたは
内側にいない
朝と呼ばれるものや
愛と呼ばれるもの
わたしがそれを責めるとき
あなたは上手に
忘れてほしい
その代わり
終える花だとか
果てる星だとか
あなたの傾きに見合うような
耳の飾りにわたしはなろう
雲は
その名のための雲ではなく
清流は
その名のための流れではない
拒まれる祈りの
生命に触れ
響きは
いつでも澄んでゆく
ひとつを決めない
痛みのなかを
ただひとり
澄んで、
ゆく
飽きもせずに
無色のわたしと
不可能なわたし
時々あなたは
答の途中できれいに消えて
だから、
ほら、
いとしさが呼ぶ
どこまでも
呼ぶ
幾らでも間違えられる
器のように
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そこは空かと問うたなら
鳥はきれいに黙して
はばたく
そのたび言葉は
空から遠いわたしの胸を
いやしの為に
傷つける
幻はまだ
あこがれとしての痛み
選ぶ言葉を
余すところの不自由を嘆いては
羽に震わせている
ほんとうの自由
嘘にはなりきれない
その愚かさを離れられずに
届かないということの
疑わしさに
目を瞑る
誰かの背中が空を負うとき
なにを飛ぶべきだろうか
わたしの鳥は
誤った言葉が
とても近くにある
知らず知らずに親しめば
いつしか孤独が
怖くなる
それほどまでに
空を知りつつ
綴りは続く
まだまだ
遠く
届かない空に
わすれられた日は
知らない軌跡が
おとずれる
きれいに深まる
はじまりの
ため
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正しい人は
どこにもいないけれど
正しさを求める人は
たくさんいるね
むずかしい顔はやめにして
軽く、
答のようなものを
肩に乗せてみるのは
どうだろう
きみの知る雨風は
ぼくのそれとは重ならない
たとえば
明かりを必要とする夜のひと粒が
一枚の景色としてめぐるように
それは
だれにも責められない
不安のかたち
はじまりを知らない音楽のような
もう、
笑うよりほかに
すべなど無いような
強固なかたち
正しい人はどこにもいない
正しいことなら
空席のまま
軽やかにいつも
孤独のつもりと戦いながら
きれいな逃げ道に
なってゆく
はずむ、
明かりは短いとしても
そういうふうに束の間に
追いかけることで
すこやかに
ライト、ライト、ライト、
きみが
きみである理由を言ってごらん
ぼくは
それをひとつ
頂戴するよ
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泥を
振り払おうとする腕こそが
いつまでも拭えない
泥かもしれない
確かめようの無いその有様を
透明である、とは
誰も語らない
そこでまた
ひとつの泥の
可能性が
散る
それは
おそらく透明な
おそろしい鈍さの
広がりになる
片腕は
ほんとは誰とも重ならない
それゆえひとは
闘うのだろう
支えの形をなくさぬように
たとえ誰かが
泥まみれと
笑っても
様々に
守るのだろう
すべてのひとの
肩代わりをするように
いつでも風は
透明である
まるで
背負い過ぎたものを
放す手がかりのように
あまりに自由に
不透明である
もう
追えないだろうか
不自由でも
透明に