詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
炎をもって
寒さをしのぎましょう
ただし炎は
燃えるものです
くべるなにかを
必要とします
燃やさなければ
燃えません
きみの炎は
燃やしていますか
なにを
なくして
燃えていますか
うらみがあります
怒りがあります
憎悪もあります
それゆえ人は
震えます
よろこびのあと
約束のあと
人は
無形に抗(あらが)います
それゆえ夢に
震えます
炎をもって
寒さをしのぎましょう
罪なきものは
罪なきままに
やさしいことを
難しくせず
煙は
その目にしみますか
疑う人と
おそれる人と
誤ることをさまよう人へ
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つなぎ忘れた何かを探そうとして
それすら不意に
忘れてしまう
星空は
いつでもその名を受け取りながら
毎夜を必ず終えさせる地図
瞳がうつす一瞬を
嘘かと惑い
ときには真逆に
小さな器の泡立ちさながら
旅の定義が旅に出る
ステラ、
思いのままにすべてが動くなら
世界は魔法を語らない
ステラ、
孤独はいつも氷のそばにある
ぬくもりを知らずにはいられない
上手な氷のそばにある
夜を
たどれぬ指の奥底に
うつくしく残された夜を
あこがれながらも
訪れぬ夜
失うことを拾い集めて
未明を眠る
明白に
遙か
とおくに響く歌声の
なじみの理由を知らないままで
ステラ、
みあげる胸は空っぽで
ステラ、
許されたいから
染まらない
ただ一度だけ
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水色のそらを眺めていると
水ではないのに水であるような
或いは逆でも済むような
忘れものの気楽さを
ひとつふたつと
思い出す
降るものは
雨なのだろうか
不思議そのものが
降っているようにも見える
わたしはときどき
思うがままに泳いだあとは
風をもとめるわたしであるから
引き潮ばかりを語ってしまう
満たすことばに
満たされもせず
ふりをしてしまう
わたし、違うのに
漂うもののあれこれは
すくわれることを
待つのだろうね
とかく気高い魚(うお)ならば
上手な距離をのぞむのだろうね
ほほえむことを
天国と呼ぶために
それが壊れてしまわぬように
たとえばまことの綺麗な器は
つくりて冥利に尽きるもの
残念なことは
せめられ上手に落ち着いたこと
教わり過ぎた子孫のわたし
しあわせというものを
よく知らない、ほんとうは
敢えて恥じらうこともなく
水色のそらを眺めている
溶けてゆくように
わたしは
眺めている
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
くじらはどこかと
島が問う
空をよこぎる鳥の背中も
きっとだれかは
島と呼ぶから
雨は
もうじき
降るだろう
あまつぶは
ふね
乗るも乗らぬも
うたのいのちの
さだめさながら
あまつぶは
ふね
やがて
雨は帰りのみちを
あまりにしずかに
なくすだろう
ほんとはなくしていなくても
それはおおきな無言となろう
友を知るか
あるいは
幾億の
くじらはどこかと
島を問う
かつての人に
うといばかりに
勝手なかつての向こうみず
雨は
もうじき降るだろう
孤独のために
あるいは
あまく
海のかぎりに
恵むだろう
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運ばれてゆく
ものがたりについて
ずっと聴けずにいたことを
ようやく受け取ったのは
はやすぎた夏、の
たてがみ辺りの
なごり風
眠る、ということが
どれほどの守りであったのか
薄れてしまう手触りを
つめたくさせながら
僕たちは
うばってしまう
かなしみを
抱きしめるたび
まるで同じくすり減るように
うばってしまう
正しいすべで
けれども
認めず
ここを
あした、と呼ぶことの
ほんの少しの
違和感を
誰かの
きのうが
受け取るだろう
まぼろしと似た
熱の在りように
震えるほどに
僕たちは
また、
迎えることは
おそれとちがう
やさしい手だけに
傾いただけ
あらゆる孤独を灯せる頃に
あらゆる水の
香につつまれる
かなた、七月
たなびきを
追い
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夜を、
わたしの、夜を、
誰かがたやすく追い越して
ちがう、
誰か、は、
待ちぶせる
かけら、
手のひら、かけ、ら、
わたしの言葉は瞳を閉じ、て
もうじき嘘になる
空、から、空、へ、
いつまでも
したい、たい、
けれども微熱を
その名に分け、
て
おろかさは
どれほどの遊戯か、と
くり返す
叫び、のような日、を
ささやくこと、で
薄さを
保ち
王道で、す、か、
見劣ること、なく
あなたの
うら
が
わ
待て、とはいわず
待つとも、いえ、ない
つぎ、から
つぎの最後まで
はじめまして、に
透かされる
夜、
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わたしの肩が
知らず知らずに
雪を溶かす、ということ
それは
もしかすると
物語ることを知らない
ほんとうの物語
容易には
何事も信じないけれど
疑うとなれば
それもまた
難しい
時々
あなたが見えなくなって
そのくせ時々
よく見える
さびしさは
よく出来た熱、と
おもいませんか
溜息のなかに
わたしを放り込めるのは
他ならぬわたし自身だ、と
そっと空から聴いている
震えてみせる指先を
たとえば耳の
あかさに
寄せて
絡みあう意味の
真ん中あたり
冬にも冬が
訪れます
あなたの胸が
知らず知らずに
雪を溢れる、ということ
それは
もしかしなくても
失うべくして失った
探しもの
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理由はありません、っていう理由について
もう少しやさしくあれたら、
と思うんだ
さびしい時刻が生え出したのは
ぼくの、背骨を笑う
星のした
だれにも
飼い慣らせるはずのない
さかな、が破片、を
みとめた日
ごくごく普通に飲み込む海は
空からすると
真昼の戯れ
かくれんぼ、だね
知らない、ふりも
手慣れたふり、も
あまりに無防備な誘惑のようで
つつまれている
かこわれている
ねむりに
つい、ている
特別な歌たちは
いつか鳥へと帰るんだった、ね
きらきらとした
描ききれない言葉のように
燃えるんだった、ね
朝を迎えることから始まってゆくかなしみ
それがつまりはあらゆる種、と知っているなら
帰されていこう、時計のなかへ
偶然の横顔に
つまずきながらでいい、
だれもがそこだ、
と思うんだ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
きみの言葉の行く先を
わたしはひとつに
収めてしまう
無限に広がりそうな
孤独の定義の
予感に
おびえて
きみの言葉に
息づくものと息づかないもの
わたしはそれを
探りあてようとしたけれど
居場所が欲しかった、
ほんとうは
無数に取り残されたこの空を
自由、と呼ぶには
こころぼそい
一瞬の、
一瞬のすべてをもって
人はいくつも
人にうまれる
うしない続ける歓びを
受けとめかねて
確かめかねて
きみの言葉が
伝えきれなかったひとつに
取り込まれてわたしは、
残される
きみの言葉の哀しみに
わたしはわたしを
閉じてゆく
上手に囲われ消えてゆく
風の報せは
誰かの
時計
たとえばきみの
言葉の続きを
聴くための
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海が眠る
その貝殻を
ためらいもなく
拾い上げて
ひとは口々に
語り始めるだろう
春を
春のための春、に
何をも待たず
つとめて実直に
見失うだろう
名もなき
春を
描かれ過ぎた岸辺も雪も
かろうじて
ある
ひとつの重みに
凛として
隠れ、さまよう
目と耳に
うたう
生まれたばかりの
うそを温めて
いつしか影は
波音に
さらわれる、
風のその肉声の
古い痛みが
ようやく
ほどいた
諦めを
やわらかな、
檻
知らずにおけない
結晶の朝が
告げている
真正面から
背中へ
と