詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ひとり暮らしのテーブルに
しばらくぶりに野菜がいます
使い古された
タッパのいろと
サランラップのしわくちゃ加減
レンジひとつで済まされる手軽さは
とってもチープで笑えてしまう
それでいて、疲れたからだに
心底やさしい
ちゃんと食べてるのかい、だとか
からだをこわすんじゃないよ、だとか
どこにも売っていない言葉とこころとを
今夜、あらためて
いただきます
ありがとう、だなんて
けっして素直に言えやしないから
まだまだ心配していてください
育ち盛りのばかものを
ほどよい距離で
ずっと、元気で
満ち足りたふり
なに食わぬふり
弱くはないふり
それら、ごまかし全てを聞くように
今夜のご飯はあたたかいから
あしたもきっと頑張ります
あなたの子どもは元気です、
はい
わかる、ということは
ときどきとてもむずかしいのに
しばしばたやすくたずねます
あなたに生まれてよかった、と
とおく離れた食卓で
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
わたしたちを、
平等に迷わせる不規則性
未完成であることだけが
確かな終わりを撫でている
いつもいつも
こぼされてゆく気配のなかに
鵜呑みにされた
わたしたちが
いて
かき混ぜられて、
未来を
つぶやく
「やさしいわがままがあるとすれば、
「いいえ、
「それは軽んじられ過ぎた細やかさとして
「すでに
「手遅れに、
「そこかしこに千切れている、もの
透明にはずれてゆく疑い、
或いは
それらの重なりに
のせられてゆく過ち
よどみなく
けがれてしまう純粋さのわけは、
なぜだっただろう
日付をずっと消せないような
罠たちの永遠に
入口は、ない
なすがまま
出口を頼っていたのだろう
気づいていけない痛みを連れて
築いてしまう、
わたした
ち
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こみあげる、面影に
迷子にならずにすむように
素足をそっと
しのばせる
そこはことばの
向こう側としてのことば、
のような
汲みあげられたものにだけ
いたみのきらめく
癒しの水辺
とても
おそろしいことが
やさしく呼ばれる、いつか
裏切らないところから
逃げてしまった、
みずからの
疑問
いさり火を消すものが
もうじきここから見えるだろう
祈りのひとつとしての
黎明に
克明として
ならわし、として
こみあげる、楽章は
さまよえる舟
いくつもの
軽重の
めぐりあう掟、はなくて
素顔のままに
かよい合うゆるし、
のように
真実が、みな
はかりかねられている
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ページをめくると
とおく、の定義がお辞儀をみせる
わたしだけがみえない
わたしの仕草の輪郭が
えらばれた文字列のなかで
呼吸をしている
整然として
あきらめの途中だったり
秘密裏のみちくさ
だったり
それらは
漠然とよぶ宝石、のように
ほこりの底から
よみがえる
きれいに描く技法について
さがした指が染めていた、のは
落ち着きかおる
紙切れの色
窓のむこうに
そっと腰をおろすとき
じょうぶな椅子がわたしを試す
まるで無邪気に無言を誘って
ごきげんいかが、と
揺られて揺れる
インクをこぼしたあの空が
かき消す風を吹かせても
わたしは、わたし
一線を画して
幻をたつ
かろやかすぎず重すぎず
表紙をすべり
はだ色に
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終焉を
もてあそぶような三日月に
果実をおもう夜、
つめたさを傾いて
遠吠えがゆく
牙をおそれることの
その、狭義に背いてゆくなかで
切り立つ岩の寂しさに
みとれてしまう
刻一刻、
と
なだらかな平野には
触れられない視線の果ての
頂上が、
幾つも鋭く
嘆きのすべを失っている
拒絶を凪いだ難破船として
あまりに優しい集約は
草むらに、陰る
縛りつけられた内と外とに
見殺す爪をただ、
映えさせて
混ざりあうものたちの
聡明な双璧が、
純真と
息吹に砕かれ
蒼白になる
夢のはざまに濡れて匂いだす夜、
三日月たちが
燃えてゆく
瞳孔のなか、を
実直に
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昨日のために
誓いをたてよう
むかしはどこだ、と
きみが寂しく迷うとき
ここだ、とぼくは
立っていよう
延長線というものに
なじみきれない若さとは
なによりもかなしくて
なによりも
美しい、
ぼくは
そんな気がする
そういう意味において
傷つくすべてを、
ぼくは嫌わない
その逆は
嫌いだけれど
昨日のために
しるしていよう
影も
疑いも
わずらわしさも
正解だった、と
守っていよう
ちいさな声
でも
いくらでもある道に
敢えて背かずには
いられないから
たやすく選ぼう
むずかしい揺られ方を
昨日のために
ぼくたちは
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微笑みがこぼれると
それをよろこぶ
ひとがいます
わたしにはのぞけない手紙が
おそらくそこで広がるのでしょう
愚痴をこぼすときも、
そう
溜め息は
誰かのなかで
読めない文字へとかわります
乾ききらない気配となって
わたしを知らない
手紙、のように
汗や涙を飲み込んで
ことばか、こころか、
どちらとも言えそうな手触りに
わたしは濡れて
長らく雨天を
過ちました
一枚の切手として
出来うることは
何でしょう
確かなことは
運ばれ続ける日々のなか、
ときどきわたしも
運べることです
遠く、
おぼろな背中さながらに
頼りきれない温もりが
わたしの胸に
届くとき
愛、を呼んでもいいですか
ささやかながら
誇りをもって
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ぼくが、
ぼくだけが
知らずにいるこころは
どこにありますか
どんなふうに
転がっていますか
ぼくが
たずねることで
だれかを
知らずに傷つけるとしても
汚してしまうかも
知れなくても
きっと
ぼくは消えてゆくから
そうしてみんな
めぐるから
小さな限りに
叫びます、いま
何事も、
はじめもおわりも
境目をもたない空であった、と
気がついてみたい
もしも願いが叶うなら
翼をください
まっしろに
あおぞら、の名を
迷ってみます
無数に
透明
に
いたんでみます
ぼくに、
ぼくだけに
隠されたこころは
どこですか
だれを助けて
はばたきますか
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山の背中にあるものは
いたずらからすの
帰る家
山の背中にあるものは
遊びつかれたきつねの寝ぐら
山の背中にないものは
枯れ葉やつぼみを
こばむもの
折れた枝にも
苔むす岩にも
あるじの無きが
見つからない
山の背中にあるものは
むかしの足跡
まだ見ぬ
足跡
さくらも 蝶も
もみじも 雪も
つちの上から つちの底へと
風のそとから 風のなかへと
何度も何度も
くり返す
それらがきっと
ひとの胸
わがままに鳴る
ひとの胸
山の背中にあるものは
すべてを知って
知らぬふりする
山のかお
踏まれたような
踏ませたような
だれにも描けて
だれにも描けない
山のかお
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春のおとずれは
やわらかい
ことばの身軽さと
陽気がとても
近くなる
鳥たちの鳴く声と
色とりどりに
咲く花と
寒さをかき消してゆく
波のかさなり
しろい音
声や
しぐさを
持たないお日様は
おだやかな暮らしに
降りそそぎ
それぞれの命を
それぞれに
喜ばせる
なにかにつけて急ぐときどきは
そのまま忘れていいのだろう
春のおとずれに
意味たちがやわらかく
目を覚ましはじめた
笑うお日様の
あかるさを
疑えばいい
まもるのもいい
いつか近しく
それをみつける季節まで
春は
いくつも
よみがえる
笑うお日様は
どこまでもあかるい
はかなくつよく
ときどきかなしく