詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
どこか遠くへおもむけば
わたしの近く、が増してゆく
いつも近くの
わたしのつねを
だれかは、異国と
語るだろう
冷静に燃えながら
情熱的にこごえ
停止する
四月、
ほんとの陰と
ほんとの日向とを
おもむろに、
奪い
はじまりかけた過ちを
欠けさせた日の記憶
そのつぐないは
いつ、どのように
終わるべきだろうか
寒暖の差が
あゆみ寄りきらない四月、
手のなかで握る透明が
汚れてゆく、
けれどそれは
ふたつと無い習わし
よく似た形で
禁じられかたの有り様が
水たまりのうえに
揺れている、
のが見える
まだまだ浅い
春の底
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風を
くぐりぬけると
また新しく
風がある
ときにあばれて
ときに乱して
かろやかだったり
微かであったり
あらゆる表情を持ちつつも
ひとつにまぜた
名前で呼ばれ
それを
知ってか知らずか
風はときおり
ぱたり、と
とまる
ひとつの訴えかもしれないそれを
容易に見過ごしてしまう
わたしたち
めぐりあう風は
ひとつひとつが
ちがうのだろうか
それとも
おおきなひとつだろうか
わからなさを
上手につれて
わたしたちはまた
風をくぐる
こまやかに
こまやかに
動をなす
ここは風のくに
個々に織りなしてゆく
風たちのくに
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迷いや憂いが
くもらぬように
目から
胸から
耳の奥から
にごりに満ちて
澄み渡れ、
春
愛するべきと
かなしむべきと
つつしむべきと叫ぶべきとに
挟まれ
まもられ
恥じらい、やすらぐ
どうしてだろうか
弱さや
もろさや
頼りなさほど
捨ててはおけずに
重ね
重なる
押され押されて
なおつぶれても
灯りのような
ひとみを
もって
晴れてゆく疑いに
沈み
しずかに
眠れるように
澄み渡れ、
春
傷つきやすい直線と
よく似た背中へ
まっすぐに
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わたしのなかの夏、が
嘘をついている
生まれたばかりのやさしさと
おぼえて間もない過ちに
うっすら、として
汗をかき
絶え間ほどよく
やわらかく
涙の意味が熟するように
約束、は
交わることを
求めてやまない
くちびる、が
言葉とよく似た
なにかに
慣れて
うた、はもう
手のとどかない真実となる
わたしのための銀色、を
隠しきれずに
夕暮れは
熱をふらせて
近く、にかおる
水がゆえ
水から遠く、
五月を満ちて
こぼれ、
はじまって、ゆく
恵まれた
欠落
正しい呼吸、は
あたらしく
常に
まぶしく
透けてゆく
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さすらいの
すべてがやさしく
しみるとき
風の
しるべの
まぶしさが、近い
背中や肩を
通うながれは
さらわれまい、とした
ひとつの道すじ
だれかの瞳に
年月に
たしかに
運ばれゆくだろう
戻ろうと願ったり
かなわぬことを
告げられたり
ひとつの意味が
無数に咲いて
無数にとじて
その、
呼び声を生む温もりへ
かさなり、錆びつく
羅針盤の日々
群れをなすほど募る孤独に
ゆくえ知れず、は
あふれてやまず
どこかかなしく
響くめぐみと
形を
なせない
雨とは似ている
そむき忘れる
ときの寄る辺に
淡く
線路が
燃えてゆく
ゆめ、の面影
いくつも載せて
すり抜け
て
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いくさ、という発音に
引き戻されてしまわぬよう
平和とよばれるうたかたを
つぎからつぎへ
渡らぬよう
なぞりやすさは滑りやすくて
おとした角が膨らんでゆく
ひらたいよるを
ずしり、と重く
沈殿させる
隠しごとに背いてしまえば
えがおはきっと絶えるだろう
わかりやすさを縛りつければ
なみだにそっと
涸れるだろう
おぼえていない決まりごとから
もっとも近しい地平には
きょうもしずかな
雨が降る
ちぎり、
かすかに匂わせて
ことば少なく
砂の果てから
誇り、とよく似た刀剣を
おさなき者へ突き立てぬよう
まもりのはずの糸のうち
からめとられて
しまわぬよう
あるはずもない
始まり方の隙間から
かけらはきれいに
あふれてゆける
かけらのすべを
失うことなく
うつくしく
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不自由は
ひとつの自由の答えだろうか
迷いと混ざり
散りゆくひかりを
なつかしく嗅ぎ
瞳をほそめる
夏の滲みの
あふれるかたわら
両手にかぜを伝わらせ
海から
距離をおそわる午後は
やさしさの満ちる
音がする
空高く
はばたく鳥への
あこがれも、そう
小さく
しずかに
透きとおって
波音たちは
くり返す
探すともなく
探していたのは
誰もが違う、という許し
変わることのない包まれ方で
ひとり言から
にごりを
除き
あした、また
誰かが答えをはなすだろう
ただそれだけは
確かにここへ
聞こえくる
淀みのはるか
かなたから
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傷つけられた一言を
あとから何度も
思い出す
酌(く)むべき意味が
あったのかもしれない、と
一人でそっと
思い出す
けれどもそれは
あらたに痛みを増やすだけ
やっぱりそうか、と
うなだれるだけ
それでもときに
恥ずべき己がみつかって
やさしい刃のかすめるように
厭(いと)うに足らない
痛みをおぼえる
ひとは
哀しい機械です
壊され方やなおされ方を
迎えるでもなく
拒むでもなく
かぼそい指に
触れたものだけ
何度も
何度も
ただ確かめる
違わぬことは
おろかなほどの
リピートです
正しいこと、とは
何だろう
幾つもみつけて
幾つもうしなう疑いのなか
ひとのこころは精密に
信じることを
思い出す
何度も違わず
機能する
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
愛されたい、と
嫌われたくない、とは
ちがいます
勝ちたいことと
負けたくないこととも
ちがいます
反することと
似ていることとは
同じであって
ひとの数だけ
同じ、は
ちがう
つまり
すべては
バラバラに
保持しているのだ
スタンスを
はじめまして、と
お元気で、とは
ちがいません
失うことと
うまれることとも
ちがいません
そうしていのちは
いのちの
うたは
流れを絶えずに
つづきます
わたしもあなたも
だれも皆
不安に、
果敢に、
一目散に、
まったくひとしく
あるのです
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空の名は
曇ることが ない
大雨だろうと
快晴だろうと
空は、空
不純なものの一切を
それとは知らずに
ながらく含み
おそらく とわに
静止をしたまま
そうして
さらに空の名は
澄み渡ることが ない
たとえば
月のまじないも
たとえば雪のささやきも
それぞれ同じ重さでは
ひとの肩へは
降りてこない
誰のせいでもない けれど
誰のせい でもないがため
なおさら空は 空の名は
願いのかなたへ
放たれてゆく
続きを誰にも
のこせずに
空の名は
それを呼ぶものと
呼ばぬものと を
分けることなく
通過する
探してみせる起源のはしに
いつでも風を
おどらせて
正しさと過ちとを
包み隠さず
包み
隠さず