詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
だらしがないのは
知っていた
それを
やすやすとは
止められない理由など
どこにも無いことも
知っていた
首筋に
金属めいた
未熟な匂いを漂わせ
夢中になりたくて
ひたすらに燃えてみせた
けれどもそれは
まもりのための火ではなく
知らずに寒さを
散らせる火
いち足すいちを覚えることが
しあわせだとは思えずに
あおの波紋に
身を震わせた
あたりまえ、という言葉が
踏みつけてゆくものを
蹴飛ばしたくなかった
ほんとうは
影を教わる
夕日のなかで
土の匂いに抱かれながら
靴の
かかとを踏んでいた
甘えでも
おろかでも
だれかにやさしく
なれないものか、と
さびしい嘘に
すがってた
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きみは
難しいのに やわらかい
それゆえぼくは
ひたすら探す
約束 だとか
真心 だとか
きみを
いつでも
曇らせぬよう
ひたすら ぼくは
言葉をさがす
だけど結局
なんにも言えずに
たびたび ぼくは
ちいさく黙る
ともすれば
ふしぎはときどき針になるから
きみの
いたみを
気にしながらも
たびたび ぼくは
ちいさく黙る
きみの目の
いたみの向こうに
触れるとき
きみは
ふしぎな
笑みをこぼすね
だからぼくらは
ぼくの 子どもは
ちくり、とするんだ
許されたくて
ぼくは まだ
ぼくであり続けることさえ
もどかしい から
やさしくなりたい
そう 願うだけ
やさしくなりたい
やさしく
なれない
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希望はいつも闇のなか
ひかりを見つめて
底にある
たとえはぐれてしまっても
上手にわらって
すむように
すべての虚言を
やさしく包み
希望はいつも闇のなか
傷つきやすい悲しみよ
ほどかれやすい
喜びよ
他人の日々を
見落としながら
まもれぬことばが
ふえてゆく
希望はいつも闇のなか
もっともちかく
最果てにある
愛するべきと闘うべきと
おそれるべきと
親しむべきと
いのちの限りを
輝いて
希望はいつも闇のなか
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それは
見覚えのある目
はっきりとは覚えておらず
覚えておけるはずもなく
覚えておいては
いけない
気もする
或いはそれは
鳴りやまない声
欲しがるように
さげすむように
さえずるように
凍えるように
だれだっただろう
なぜだっただろう
乾いていかない
行き止まり
そうしてそれは
ふしぎな匂い
ごまかしきれず
逃げきれず
断りきれず
待ちきれず
最後はいつも
こちらの方が捕らわれる
底なしの
あぶくが無数につながって
暗く
重たく
底になる
だれかのためにその底は
必ず不穏に
ないている
それは
終わりのないはじまり
逆でも良いけれど
逆でも良い
けれど
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待たされすぎた過ちが
無風のなかをざわめいている
低く、
そらへと
這いだす者を
あやぶむ声はいつも、高い
わかれたはずの
軌道の彼方、
もっとも遠い行く末を
かぼそい肩で
温めて
たとえば星を奏でるように
浅瀬の深く、
傷を抱く
聡明な、鏡をここへ
銀色は
まぶしすぎるがゆえ
やさしさを内包しては
いるけれど
明らかに、
まっすぐな逃避と希求には
かなわない
仰いで、
みえないならば
なおさらに、仰いで
そらは、森
海という名の迷いのおもてを
吸いあげながら
揺れる命の
温床となる
月は、
まもなく昇るだろう
癒すでもなく
ただ聡明に
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ありのまま、
あるがままの姿であれと
ひとは口々にいうけれど
途方もない約束を
捨てたくなくて
潰れてみたり
飾りのつもりが
汚れてみたり
だれかが痛まず済むように
代わりに深く
傷を負ったり
やさしさの途中で
うそに染められたり
小さなおのれを脱ぎすてたくて
愚かなおのれを覚悟のうえで
ひたすらつよく
はまる弱さは
ありのまま、とは
呼べないだろうか
ひとりの力は
ほんのわずかだ
それゆえ狭い真実だ
ならば、
その檻を打破しようとする
叫びこそ
ひとの、
けものの、
本質ではなかったか
夢まぼろしに
ひれ伏すことなく
紛れることなく
不器用でいい
不自然でも、いい
変わろうとする流れのそこへ
その身ひとつで
立ち向かえ
等身大の名に挑め
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つめたい手には
ひとのこころのぬくみが宿ると
いつかだれかに聞いたから
わたしはこの手の
ぬくさを
恥じる
あこがれや
ねがいはなぜに
こころをつめたく
さますのだろう
それゆえこの身は
ねたみや焦りの熱をもち
さますべくして
さますさなかに
また新しく
熱をうむ
ひとと
ひととを
くらべれば
かなしいこともあるけれど
くらべなければ
かなしいままの
こともある
こころを知るということは
なし遂げ難い
やさしさだ
つめたい手には
ひとのこころのぬくみが宿ると
いつかだれかに聞いてから
わたしはこの手に
汗だけ握る
寒く乾いてゆく汗に
わたしは熱を終えられず
だれかの語りに
こごえ、ふるえる
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散らばりながら 宝石は
その名を きれいに
縁取って
なお美しく
ひとの手を とる
散らばって ゆく
こころのそとで
おどりはいつも
鮮やか だ
手 を逃げるのも
手に 逃げる
のも
巧みな飾りに 値する
それら、
あまりに自由な
ほこりの ほのおに
魅せられて
あお られるのは
星座のかたり
散らばりながら 宝石は
傷つくための
傷から 離れる
ただ美しく
ひとの手を とり
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両手に
すくい上げた水の
清らかさもすずしさも
やがて乾きをたどります
両手を離れ
あるいは、両手という
はじまりを伝って
しずかに水は
果てるのです
救い、という字は
すくい、と読みます
すくい上げた水のなか
かような言葉が
こぼれます
ちから無きものが
更にちから無きものを
請うようにして
祈りや願いを
続けてきました
両手を満ちる非力さに
まっすぐ曲がらず
来たのです
だれもが
河でありましょう
巣くう、を
すくう、と読みながら
やさしい支流を
なすのでしょう
いつか
寄る辺に惑うとき
さかなは跳ねて教えるでしょう
落ちるしかない音だとしても
生まれる意味の上澄みに
ひとりの光が
あることを
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あした、
涙がかわいたら
海を迎えに行きましょう
果てのみえない
かなしみの
ひと粒として
あらわれましょう
雨が降っても良いのです
風が吹いても良いのです
いっそ
とおくへ運ばれましょう
混ざりつくせぬ
よごれをもって
きらきら
だれもが砂の船
貝殻は、
おのれにまつわる語りについて
ほんのわずかも知りません
静かに
たしかに
ときを紡いで
そこから一歩も
動かぬ巡りをわたるのです
きこえませんか
向き合えば、ほら
透明になるかなしみが
あした、
言葉がかわいたら
海を返しに行きましょう
波の
手にふれ
かさなり合って
ひと粒ずつの
海をなす
ため