詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
空の高さに
かなうはずもないぼくは
ちいさな背中を
恥じらって
その、
重みに沈みこむ
けれど、きみは
願いごとを
ていねいに隠してみせるから
ぼくは
やさしく
負けることができる
遠くばかりを
見つめていた、と
きみの描く未来には
なにがあるべきだろうか
ぼくの知りうることは
なにもわからない、ということと
それを見つめるいまが
いつかの昔の未来だった、
ということ
ねえ、
空の向こうにはきっと
きみの名前がいくつもあるよ
ぼくは
それを確かめたくて
ときどきそっと
嘘になる
きみをのせて
どこまでも落ちてみせようか、
弱さが
ひとつの
ちからなら
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そっと
腰を下ろし
いつものひとりに戻るとき
うるおいじみた
乾きがあふれ
ぼくは
あわてて
目をとじた
思い出はいつも
胸に痛い
握れるものの少なさが
はっきりわかって
しまうから
ぼくらの言葉は
気泡のようで
海の
世界の
生きものみたいだ
夏の季節を
離れられずに
けれどもそこを
うまくは
泳げず
淋しさを
かくまうことで
なお募りゆく淋しさに
しずかなほのおを
ぼくは見た
いともたやすく消えてしまう
おだやかな火を
ぼくは見た
ときを飲みこむ
水の気配に
ちいさく胸を
ふるわせて
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たやすく
燃え尽きてしまうわたくしの
遙か
かなたに
星はかがやく
そこへ
届きはしないものか、と
たびたび指を
差しだすけれど、
風と
絡まり
いろなき音に
とらわれる
ごらん、
幾億ともしれぬ
ともしび
を
あのもとで
転がるひとつ、が
わたくし
なのだ
繰り返される生き死にも
ひとしい軌道の
鉄道なのだ
むずかしく
ながれ去ろうとするわたくしを
遙か
かなたで
拒む声がきこえる
ごらん、
わたくしを
奏ではじめた星たちを
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ときの
残り火を
消すように
ゆっくり
無言は敷き詰められます
夜の鏡を
おそれた時代が
あったはずですね、
なにも語らない目も
十分に言葉でありますので
思い出してみませんか、
魔法を
魔法をためしてみせた日の、
うたがいをはらいのける
その魔法を
言葉なきものが
うまれた理由を知っていますか
耳を澄ませば
降り積もります、
ひとびとの
手に
おぼえていますか
ねむりはじめた窓のそと、
記憶をむかえに
参りましょう
砂漠を
つかのま
うるおしてゆく
無限の隅の
花として
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鎖骨の
においが
こぼれ落ちたら、
さかなのゆめに朝がくる
ことば未満の愛を交わして、
ゆっくりとたしかめる
てあしの記憶
水の
においの
シーツを背中に
羽をひろげるまねをして
ふたり、
月を宿している
鍵穴とも呼べそうなそれは
ひみつ、ではないから
ほどよく闇を
ひかって
みせる
真夏の午後へわたる風には
いつでも素顔を
そよがせて
やがては滅ぶたいようの
かなしみはまだ、聞こえない
いたずらじみた眼差しで
数えてよろこぶ
くちづけに
ふたり、
つがいの色になる
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
一枚の葉がふくむ記憶は
みどりにそまり
やさしく香る
かぜは
ときおり険しいけれど
その手をのぞみ
樹木はそよぐ
世のなかに
なごみの満ちた
晴れ間がつづけばいい、と
ねがいは絶えない
確かに
絶えない
それでいて
だれかのささやかな幸せを
素直には飲みこめない
わたしがある
のちのち
それを悔やむから
すこしは救いもあるけれど
ささいな雲にさえ
たやすくおびえてしまう
わたしの
ひと夏
一枚の葉にゆれる記憶は
それとはなしに
無限をかたる
空を
のぼるすべは果てしなく
通りすがりのよこがおとして
わたしもまた、なにかを
わすれる
ひとつの
実りを実りきる、
不慣れな
葉月に
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
コンクリートの隙間へ
手をひたすとき、
かなしい人魚の
ほほえみが
過ぎる
その、
行方を追いかけやめた目の
放ってみせる空には
青のにじみが
よく似合う
すぐにも
こぼれ落ちそうな
涙をおよいで、
街は
きょうもまた
波間を乗りちがえてゆく
まっすぐに
きれいな虹の
罠にかかって
まっすぐに
体温を
はじめておぼえた
メロディーは、
ブルー、
または、ブルー
海ゆく鳥が
さかさまに捨て去る
つぼみの向こう、
ひかりは惑いを
満ちてゆく
澄みわたるなら、
鏡のために
無数に
くだける
いざないのため
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
これからぼくは
いくつのことばを殺すだろう
それを
知らずに生きぬいて
いつか必ず殺されるだろう
ことばへ死にゆく
ぼくなのだから
これからぼくは
いくつの廃墟にうまれるだろう
壊れたすべては
二度とはうしなわれない
透明に
色彩を盗むゆめのなか
しずかになされるはじまりの火を
ぼくはどれだけ
覚えるだろう
これからぼくは
いくつの死から嫌われるだろう
明るいものを
明るいままに遠ざけて
繊細に
ただ繊細に
のがれるぼくは
いくつもまもりを壊すだろう
追いかけてゆくことは
かなしいいのちの習いだと
ぼくはまだ知らずに
いる
これから、
これから、
ぼくのなかのぼくだけが
あふれてしまう
ぼくのためのはずの
ぼくの外側へ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
よく晴れた日に
おまえは旅立ったから
空に
おまえを探して
けれど、見つからなくて
わたしはなおさら
寂しくなった
道ばたの
すこし汚れた草たちが
いつかの昔とよく似て揺れる
空はあかるいから
いつまでも、いつまでも
わたしは思い出してしまう
よく晴れた日に
おまえはいってしまった
それはおそらく
幸せなことだろう
こころよく
すがすがしいのぼり道を
おまえは駆けてゆけるから
わずかな雲間から
おまえが顔を出しそうで
わたしはいくたびも
見上げたけれど
もう、おわりにしなくちゃね
よく晴れた日に
おまえは旅立ったから
わたしはわたしを生きていこう
おまえが残したあかるさで
わたしはわたしを
照らしていよう
ありがとう、の代わりに
ただただ
ありがとう、の代わりに
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
灯台は
海をさがしている
それゆえずっと
船にすくいの
手をのべる
灯台は
自らの眼を
ながらく持たない
おのれを見つめるものたちの
ことばの向こうを
ただ聴いている
海は
遠くで海を呼ぶ
その
容易ならないかなしみが
いつしか岸辺を
なしてゆく
灯台は
そういうところに
たっている
船は
ひとつの大きな
海をなす
ちいさな無限に
砕かれながら
海をなす
灯台は
海をさがしている
それゆえ船は
終わらない
海が
ことばを
止めないかぎり