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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[919] 滑走路
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(どこへ

(飛びたったのだろう



ある晴れた日の、

見知らぬ誰かの離陸がまぶしい



(ぼくの日常は

(すこしだけ寂しくて


(それが全てではないけれど

(確かにそうだけど、

(うらやまして

(目を細くする



快晴だから、

ぼくの日常が

はっきり見えて

ぼくはただ車輪のように

空を見上げる


まっすぐに降りてくる

誰かの瞳を

よけながら



(ぼくはまた

(飛びたてるだろうか、

(こころと

(夏を


(ぼくはまだ、



ぼくを飛びたった

見知らぬ誰かのこころから

あらたに誰かが

飛びたって


まぶしい日々は

くり返される



やわらかに、

曲がりをはねのけて

着陸のあと

から

2008/08/25 (Mon)

[920] 地球儀
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アラスカ、はこのあたり


こちらは

確かチベット、で


この一帯を

つらぬくものは

ナイル河




なまえや場所や

線の色


わたしは

わたしを

支配して

それらをなぞる



ほら、

知らないことが

上手ににげてゆく




にくしみは、あの日陰


あちらの声は

たぶんに、歓喜で


ふしぎを滅ぼす

ふしぎが

満ちる



くるくる、と

地球儀をとりかこんで


2008/08/27 (Wed)

[921] かなしい理由
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空から

落ちた日のことを

おぼえていない



海を

ながめることを海として

その浅きをのがれる

すべにおぼれる



太陽はもう

ことばではないけれど

確かにぬくもる

手立てはわかる



雨にも

風にも

こころがあるということ

たとえもう聞こえなくても

わたしたちが物語なら

それだけでよいのだと

わたしは、そう思う




 さりげないあやまちを

 たやすく過ぎ去る微笑みは

 けっして常ではありえないから

 必ず

 この手は

 つかみそこねる


 たとえばかなしい理由について

 はぐれてしまう


 けれど、


 それでよいのだと

 わたしは、そう思う




花の

なまえの咲くなかで



大地とよく似た

孤独に立って


2008/08/30 (Sat)

[922] 月光
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きのうを飾る

わたしの言葉の裏がわで


だれかの爪が

あしたを研ぎます



 輝こうとする意思は

 ばらばらに統一された

 石として


 きらきら、と

 眠るのです




しまい忘れた

鏡の奥で


炎と土とを

みごもる水は

しずかに毒を清めつつ、


みな

頑なに

壊してゆきます




 慣例という免疫は

 ほろびの音色、


 おそろしく

 美しく


 そそぎます




ふたたび、


ふたたびの上澄みに

取り残されて


夜は

さびしく

溢れてゆきます


ただ、夜を



2008/09/02 (Tue)

[923] 木の枝
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いまは

ちっぽけな木の枝も

十年、二十年の歳月をゆけば

おおきく生長を

とげる


その、

生長をとげた木の枝のもと

だれもが心地よく

風に吹かれるような

あかるい午後が

続けばいい




 木の枝を

 まっかに染める血の色や

 木の枝に引っかかる

 骨の暗さや

 木の枝のもとで

 息絶えてゆく兵士の姿を

 わたしは知らない


 わたしは

 戦争を知らない


 知らないままで、いい




いつか、

ちっぽけな木の枝の生長に

「おおきいね」って

だれもが言葉を

そろえるような

平和がずっと

続けばいい




こころを痛める記憶を持たず、

ただただ未来へ

駆けてゆく


そんな地平が

続けばいい

2008/09/03 (Wed)

[924] 羽追い人
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わたしから

こぼれるものは

いくらでもある


けれど

わたしはそれを覚えない



まるで

狭い空き缶さながらに

空をあおいでは

たやすく空に

うばわれて

ゆく



わたしはいつも

満たない

けれど


おそらくそれが

乾きのめぐみ




 ほら、

 水面のうまれる音がする




わたしから

はがれる願いは限られていて

透きとおるさかなの

うろこのように

誰かがそれを

身につける




そして、

わたしたちは受けとめ合う


互いにみえない

互いの背中で

風の行方を

流れ合う




2008/09/19 (Fri)

[925] 羽負い人
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沈んで

いかなければならない


そうして深く

呼吸にもがいて

戸惑わなければならない



夢と

そっくりなものたちは

やはり、夢以外の

なにものでもない


だから、

誰かの窓に

枠組みなどを

探してはいけない


そういうことを

探さなければならない



広く

傷ついて

あかるい癒しを

渡らなければならない


わかりやすさは

思いのほかに難しいのだ



生まれもった手のひらに

やさしい名前を

載せるため、


風を

風のつよさを

握らなければならない


頼りなさを

よりどころにせず

捨て置きも

せず


2008/09/25 (Thu)

[926] 蟻をおもう蟻
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蟻が

わらじの死骸を

運んでいく


気持ち悪い、とか

すごいちからだ、とか

そのさまに向ける言葉は

まったくの自由だ


だがそれは

彼らにとって

とても重要な生命の営みである


蟻が運ぶものは

確かにひとつの死ではあるけれど

それゆえにこそ

まったく新しい

生命でもある



 わたしはこうして思案に暮れて

 きっと明日には

 忘れるだろう


 だがそれは

 仕方のないことだ

 生命の連鎖の仕組みのなかでは

 まったく許されることだ


 明日が来たなら、

 わたしのおもいの端っこを

 誰かがきっと見つけるだろう


 みっともない、とか

 残酷だ、とか

 まったく自由に

 おもうだろう


 そうして次の日、

 必ずかけらをこぼすだろう



蟻が

ちょうの死骸を

運んでいく


わたしのなかに点々と

蟻をおもう蟻、が

広がっていく


2008/10/02 (Thu)

[927] 意味調べ
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終わりは

すべて哀しいものだと

いつかあなたは

示したけれど

確かにわたしは

時刻をひとつなくしたけれど、

なくさなければ

始まることのなかった

時刻のなかで

わたしは

知った


ほんとの海を

そのための

日を



 愛することは

 哀しいことです


 間違えやすいものほど

 つながりやすくて

 誰もが上手に

 傷つきます


 そうして癒しを

 求めるのでしょう

 うたがうのでしょう


 愛することは

 哀しいことです



始まりは

いつもまぶしいものだと

あれからわたしは

覚えたけれど

あなたを否める

つもりはなく、

いまはただ

愛の深くを泳いでいると

あなたとは

出会えなかった

あらたな意味を探していると

伝えたい


できればそっと

懐かしそうに

2008/10/12 (Sun)

[928] 笑顔
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雨よ降れ

ざんざん降れ

と、こいねがう村がある



たった

ひとつぶの雨だれにも

没してしまいそうな

舟がある




 めぐみや恐れや

 あれこれは


 ありえぬ声で

 あたりまえの日々に

 生み落とされる



 それを聞いたか、


 きみは

 聞いたか




笑顔はときに

ひとの痛みをやわらげる


そうして

ときにひとの痛みを

なお深くする




 わかりやすさの延長にある

 わかりがたさから

 絶えてはいけない

 響きがあふれる




向こう側、と指をさす

その自分にとって近しい距離を

遠くでだれかが

きっと見ている



それは

どこまで笑顔だろうか


2008/10/14 (Tue)
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