詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
とうの昔に
ほろびていたのかも知れない
ほろびという言葉は
※
まっすぐに立ち上がること
それを叶えた
わずかなものたちのいどころを
陸とよぶ
だから
陸にうまれたことが
なにかを約束するわけでは
けっしてない
※
ゆうやけがすきだ
しかも
ときどき
こわくなるから
日をおうごとに嘘つきになる
※
あらためて
帰りたいところを尋ねられると
こたえに困ってしまう
うっすらと
みずの匂いにとけこんで
※
このまますなおに
古びていけるものだろうか
きれいな傷ばかりに
こがれていても
※
明日あたり
そらが降りつもりそうだ
すべての呼吸の海となるため
いちまい
いちまい
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吐息が
しろく曇るのを見ると
少し、安心できる
わたしの日々は
ほぼ偽りかも知れないけれど
熱だけは、進もうとする熱だけは
たしかに思えて
安心できる
いつだったろう、
ことばの寒さに触れたとき
覚えたことは方法だった
なお寒くなる道ばかり
何度も求めて信じてた
ときどき胸に
温もりとは程遠い
炎のかけらが蘇る
解くべき順番の正しさは、雨のなか
春みやる冬
夏ねがう冬
秋のこす冬
ほんとうの冬に至らないわたしは
かろうじて、まだ
雨のなか
ことばの水にめぐる季節を
乗り過ごせるのは
あといくつ
吐息をしろく曇らせながら
急ぎ、歩く
この身を寄せるべきところへ
雪混じりの風のなか
わたしは歩く
急ぎ、歩く
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欠点はね、
やさしく撫でられたら
十分なのです
無理をして語らないでください
いろいろな角度から
見つめないでください
寄りそうだけで
よいのです
見渡せば
みんな、いびつな形
誰もがそれをわらうけど
ほんとはそれが思いやり
繊細で
臆病な
かばい合い
欠点はね、
わかりやすいところに
置いてはだめなのです
ともすれば
通り過ごしてしまいそうな明るみで
誰もが同じくするように
普通にあればよいのです
気がついて、ほら
広大に
窮屈に
星のいのちがつながってゆく
瞳は
記憶を結ぶ糸
不思議はね、
欠点だらけの必然なのです
はるかな年月
夢見る種族を守るのです
やさしく撫でましょう、日々を
痛む理由のない
痛みを
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毛布になついた匂いをかぐと
やさしくおもえる十二月
ふゆという名のまぼろしが
ふたりのあいだに
許される
つめたい風のひとひらは
ぬくもりひらく
手のための
はな
くすぐりに似た
意味たちのそこ
あした目覚めたら
どちらが先にほほえむだろう
だれにもよまれない
ひそかなしずかな小節は
よぞらをのぼる
とうめいな鳥
だれかのはるを
ほしに告ぐ
眠りのまぎわにおもいだす
なつかしいままの恥じらいは
ふたりのための
優しいとびら
そらからきこえる無数の白は
ふたりのための
予告篇
まぶたのうらに見るものを
だれもがたやすく忘れるように
染まりゆかないはじまりを
つとめてながい十二月
純白になるみちすじが
ふたりのあいだに
降りつもる
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およいでいる、ということに
気がついてしまうと
溺れはじめる
わたしが
わたしを忘れることも
たいせつな息継ぎ
うまれもった、すべ
音色、という文字に触れるとき
わたしのなにかが
しずかに止まる
沈黙は
無数の波間に
ひとり、ながい
わたしをはなれた
すべての胸の
すぐそばで
雨にふられたひとたちと
雲からこぼれるしずくとが
おなじことばに
濡れている
そうしてわたしは
ときどき溺れる
水の
まもりの
きれいなそこで
流れを絶えず
あふれるものは
かたちづくることの歪み
とうめい過ぎない
器、がわたし
惑うことなく
みちたりている
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二十歳くらい、かな
通りすがりの
ふたりをながめながら
ぼくはベンチに
座ってる
きみを
待つひとが
ぼくだ、ということに
きみはもちろん驚かないけど
もしかしたら
そういうことを
ふしぎにかえないために
ひとは傷む、のかもしれないね
通りすがりの
さっきのふたりを
ぼくはすぐにも忘れるだろう
たぶん、向こうも
おなじだろう
でも、時は
そのたびいちいち
傷ついてはいられない
ぼくたちは
どこから生まれ、あうのだろう
あかるい星の無言のような
靴おとのなか
ぼくは思う
つぎは、きみかな
宇宙のすみで
ぼくは
笑む
ふしぎの代わりに
精いっぱい
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そっと胸の内にあるものは
わたしの外だ、と
わたしはおもう
はるか
空の高さを
見上げることと
なんら変わりない
わたしはここだ、と言葉を放れば
わたしの手立ては
残る以外にない
ここに
わたしとして
残る以外にない
わたしのなかの
願いやうそや隠しごと
それらに触れることをせず
届いたそぶりを続けることは
かなしい距離だけ
つのらせる
けれど
ひかりや熱やまぶしさに
届かなくても手をのばすなら
それらはきっと
触れていることになる
かなしい距離には違いなくても
追うにふさわしい
道となる
わたしがわたしに
閉じられてしまうものならば
見つめてゆくよりほかはないから
信じることが、太陽
わたしの外へ
あかるさを放て
わたしの外よ
あかるさを待て
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冬の辞書には
牙が満ちている
燃えようとして
生きようと、
して
裏も表もなく
ただ、それゆえに
いたわりがたい
鋭さが
ある
つめたさに似た
熱量、として
定義にふれる途中の者は
不完全なる
凍傷だ
冬の辞書には
それを癒しうるすべが
ありありと
溢れ、
同じ分だけ
消えてしまう
牙のかげに、
素朴で
従順な
牙のかげに、
救いの痛みはあるのだろう
刻まれてゆくことの
いさぎよい
悲しみが
冬の辞書には
満ちている
ときどき
上手に逃げそこなって
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ありのままに
よごれていけたら、いいね
きっと、
すべてを
にくめぬように
そまればいい、
ただ
たとえ
だれかが
よごれ、とよんでも
それはかならず
うつくしい
ありのままに
さびしくなればいい、ね
つよいにんげんを
どこまでもつよい、にんげんを
だれかがいつか
ゆめみて
しまった、
だけれどそれは
まったくわるいことではなくて
ゆっくり、じっくり
ほのおにかわる
たまたまの
さびしさが
ときどきただしい、のは
そういうりゆう
だから、てを、
てをさしのべて
ありのままに
おわれたらいい、ね
まちがいなく、
わずかばかりのかなしみも
だれかにとっては
よろこびなのだし
だれかにとっては
はじまりになる
ありのままに、ね
ただ
ありのまま
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今年
いちばんの正直者が
各地で猛威を振るっています
不満なことには覆いをせずに
可笑しいことなら囲いをはずし
感じたことを
感じたままに
まもなく
無上のわかりやすさが
拡大勢力を増すでしょう
涙のひとには理由を語らせ
倒れたひとには経緯を書かせて
笑顔から遠いひとびとも
笑顔に近いひとびとも
まったく等しく
なるでしょう
一方で
うそつきは
かなしくなる見込みです
うそという概念が
あまりにも歪み過ぎたため
各地では修復作業に
追われています
いや、
見限ったといっても
過言ではないでしょう
姿の見えがたいやさしさが
消失してしまわぬよう
警戒が必要です
しかしながら
それを逆手にとった悪意にも
十分ご注意ください
今年
いちばんの正直者が
見境のない正直者ばかりが
その猛威を許され始めています