詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
この腕に
守れるものなど少なくて
そのくせなにかを
守ってみたくて
だから
たとえば
波打ち際で
きれいな貝殻を
探してる
きみは
きれいな貝殻を
よろこぶだろうから
きみを
よろこばせることは
守りのひとつで
あるはずで
ぼくは
きれいな貝殻を
探してる
貝殻は
その身の奥で
言葉を守る、ってね
昔なにかで読んだんだ
ぼくも
この身の奥で
言葉を守ってる
はじめて告げた誓いのことや
きみからもらった
優しさ
弱さ
ぼくは
守ってる
波音が
心地よいね
ぼくたちをつれ去らない
波音は安心するよね
こんな言葉も
貝殻はその身の奥にしまうかな
波打ち際で
きれいに黙って
ぼくたちみたいに
なにかを
信じて
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
風の
含んだ栄養を
いいだけ食べたら
夢見の時刻
よいことも
よくないことも
よい、を満たしうる
定義のことも
ときが
過ぎれば
牧草になる
風に
吹かれて
栄養をまた蓄えて
それでもやはり
牧草らしく
ただ
揺られるだけの
いたって
平和な
牧草となる
それを
わたしは
いいだけ食べて
やはりまた
牧草に
する
のんきなままでよいような
のんきなままでは
よくないような
そして
のんきと
よい、とを満たしうる
定義を考え
木曜日、
ひどくおもたく
ひどく平和な
ゆらゆら
ほわわ、が
わたしの
近くで
鳴いている
そんな気がする
木曜日
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
さざなみは
優しい顔して
ぼくらをつかまえる
数え足りるくらいしか
ぼくらは夏を
めぐっていない
それなのに、
ぼくらは
もう
夏のなかでしか
生きられないような
生きてはいけないような
焦りが
しずかに
かさなって
聞こえてくるのは
さざなみだけ
で
言葉に
できないものなど
どこにも無いよ
ただ
ぼくたちは
乾いていくから
間に合わないことは
数多くある
うるおうことが
言葉の権利で
それを
ぼくらは
忘れやすい
さざなみは
正直すぎるうそつきで
ぼくらのつよさを
さらってく
優しい顔して
うるおって
夏を
無限に
語らせて
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ねじが切れると
メロディは
ゆっくり
終わりを
始める
それは
寂しいけれど
唐突ではないあたりが
優しくて
たぶん
わたしの一生も
こんなふうに
終わりを始めるのだろう、と
最後の
メロディの
続くともしれない
続きを
待っていた
近ごろ
少し
涙もろくて
許せることが
ふえた気がして
ときどき
つい
昨日のことさえ
懐かしくなる
もう
戻れない
時間はいつも
空を
横切る
とぎれた
メロディ
あと何回
ねじが切れても
まき直せるか
そっと
わたしは
聞き耳立てて
運河の
風を
浴びている
終わりは
さほど哀しくない
メロディに
帰って
ゆけるなら
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直線を
少しでも
かしげたら、
斜線
と、
こわれやすいものを
扱うように
呼び名を
わたしは
たしかめる
そんな
わたしは
直線だろうか
斜線であろうか
少し、
ほんの少しの
傾き次第で
みんな
こわれてしまうから
わたしは
ひとを、
わたしでさえも
迷わせる
直線が
成り立つわけは
斜線にあって
斜線も同じく
直線に
よる
だからこそ
どちらでも良いのだし
どちらかでなければ
ならないのだし、
わたし
そこそこ
複雑な
わかりやすさを
いきている
斜めであるほど
真っ直ぐ
に
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ふぞろいな
ひとりひとりの
でこぼこを
いちいち罵倒するのは
たいへんな
労力だから
さ
どうせ疲れることなら
お互いのでこぼこを
いつくしみ合って
さ
不慣れな
感じで
たたえ合って
さ
なんだか
おれたちおかしいな、
って
ほほ肉と
腹のすじとが
痛くなるふうに
わらって
疲れるほうが
健康ってもんさ
そうだろ、
な
だから
おれたち
これでいいのさ
ふぞろいでも
でこぼこでも
抱いてるものは
きっと同じ
さ
見つめるさきは
きっと同じ
さ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
じぶんの顔を
真正面から
見ることは
じぶんをやめなきゃ
叶わない
けど
鏡をのぞけば
それなりに
じぶんの顔を
知った気に
なる
ほんとは全然
叶ってなんかいないのに
なんとなく
叶った気がする
そういう
こまかいことを
気にして
気にして
答はどこだ、と
絶叫して
病んでしまうような
じぶんでなくて
ほんとに
良かった
と、
ぽりぽり
ぼくは顔をかく
顔は
全然見えないけれど
たとえばこの指なんかは
まったく見えるし
まったく自由に
動くから
ぼくは
ぽりぽり
顔をかく
いかにも
平和に
鏡の前で
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公園で
けんかをはじめた子どもたち
だけど
けんかの理由は
ささいなことだから
長続きなんかしなくて
ほら、
すぐにまた
駆けはじめる
ふくれたままの
顔もあるけど
上手に
時間を味方につけて
みんなで忘れて
みんなで
次の
未知なるものへ
駆けていく
みんながみんな
同じになんてなれないし
そんな必要もない
だからこそ
ひとり
ひとりが
おもしろくって
みんなが
ひとつに
なっていく
公園の
向こうへ行った子どもたち
その
余韻のような
風に抱かれて
わたしは本の
続きと親しむ
きまぐれな
博士の帰りを待つように
して
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
いのちを終える
瞬間の
あの
星が
そう、
うらみ星
ひとは
ひとつの星の
死をわすれ
きれいとよろこび
願いごとさえ託すから
夜空は
闇を
なお
深めゆく
ごらん
すぅ、っと
ひとすじ流れゆくもの
あれが
そう、
うらみ星
はかり知れない怨念に
こころの奥まで
染められて
きれい、と
焦がれる
ぼくたちは
そう、
たやすく
死んではいられない
生きるということが
どこか
呪縛めいて
めぐるけど
身代わりに
ひとすじたちの身代わりに
うらみのすべてを
聞けない代わりに
ぼくたちは、
在る
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この
ぬけがらの主は
きっと
りっぱな
成長をとげて
そっと
どこかで
息絶えただろう
どんな夕日を
浴びたのだろうか
どんな夜露に
濡れただろうか
どこで勇気を
覚えただろうか
どこで恐怖を
捨てたのだろうか
この
ぬけがらの主が
とうに
果てた後だとしても
残したものは
必ずある
はず
同盟めいた
思いを
胸に
草生う道で
会釈をひとつ
夕焼けのなか
とんぼが過ぎて
とおい真夏へ
向かってく
ぬけがらの上を
信じるものを
まっすぐ
束ねて
透明
に