詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
扉が
しずんでしまう前に
瞳をひらく
決意をしよう
内に
あふれる
海原をのがれ
足を
こわごわ立たせる場所が
小さくてもいい
流れ着いた
この岸を
いまは
瞳に焼き付けよう
扉を
閉じるのも
開けるのも
まずはこの手に
つかんでこそ
そしてこの手につかむには
しずむより早く
扉を
扉たる理由を
見つけなくてはならない
扉は
形など持たないのだから
われわれには
それを形づくる権利が
幻としての権利が
握らされている
扉は
しずむものであるし
溶けてゆくものでもある
わき出るものであるし
舞い降りるものでもある
この手を
見つめる瞳が
もたらすこころは
どんな形をしているだろうかと
問い続けることと
扉とは実によく
似ている
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仕方がないので
この
頼りない
ゆびさきに
精いっぱいの呪文を
語るしかなくて
それでいて
そんな瞬間が
いとおしく思えて
ならなくて
自分の
横顔をふと
思い描いてみる
これまでに
一度も
自ら
望まなかった
かるくて
重たい
流行
に
そっと
流れてみる
それと同時に花びらは
じつに巧妙に
実を捨てる
それを
見つけたときの
こころの
音を
自分は
まだまだ
あらわせない
当然といえば
当然なのだけど
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ねえ、
いつになったら
尾が生えるかな
尾が
生えたら
生えた
で
面倒なのだろうけど
ぼくは
そうやって
届かない月の美しさこそ
この世で
いちばんの
哀しみであるのだと
信じて疑わない
なきごと、
と
わらわれても
ね
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傷口が痛むから、さ
舐めてほしい
大丈夫
ここは日陰にあたるから
だれにも
言わないかぎり
日陰にあたるから
唾液の匂いって
なんだか
魚の
鱗みたい
気にしなければ
気にしなくて
済むということ
罪かどうかは
さて置き
さて置き
置き土産
なぜなら次は
傷口たちの
番だから
残すべきは
残しておかないと、
さ
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愛したことは幸せでした
愛されたことこそ
幸せでした
響きの
はざまの
迷いの果てに
わたしはまたも
さまよいはじめる
あなたに会えて良かった
生まれてきたわたしで
良かった
きっと
どちらも正しいはずなのに
それは一途に
許されなくて
わたしは
雨に
泣いている
聞こえるともなく
聞かされる
雨に
からだを
ひらき通してみる
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もうすぐ
あなたの朝ですよ
って
きみが
あんまり
ふしだらだから
ぼくは
しばらく
夜を歌いたくなる
どちらにも
責任がないという有り様は
見ようによっては天国で
見ようによっては
地獄です
だから
言葉はここにいて
間違えることと
間違えてはいないこととを
くり返し
くり返し
ぼくらに
明滅してみせる
しかも
それほど遠くは
ないような
浪漫を
まね
て
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いつだって
洗いたてのけものを
演じてる
そうでなければ
狂ってしまうことが
わかっているから
何億年も前から
わかっている
から
これまでに
かぜの怯えは
聞いたことがない
それだから何となく
そよかぜのうそが
小気味よい
洗いたての毛並みには
ほどよいかぜが
必要なので
ちょうど
うそと
うそとが
折り合いよくて
岸辺がいつも
すがすがしいのは
刃物のような
恐怖の
ひとつ
それゆえ時は
咆哮をする
けものの演技を
足元から
さらうようにして
さらう気もないくせに
懐かしそうな
顔をする
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みつばちはやさしいね
しかも
あんなに
陽気に満ちて
ぶんぶん
ぶんぶん
気ままです
何を
しでかすか
知れない感じが
ときどき聞こえる羽音を
とがらせるけれど
おおむね
それは柔らかい
春をかける
生きものたちは
きっと同じなんだろうね
そっと
やさしいんだろうね
きみもさ
身に覚えはないかい
ふわふわと
とんがっていた
ためしはないかい
陽気に満ちて
鼻歌まじり、に
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一斉に
咲け、と命令されたから
季節たちは
夢中になって
駆けぬける
ひかり、が
まぶしいものであるほかに
匂うものでもあることを
なんとなく均衡に
ふりまいて
太陽のしたで
少年は輪をおそわる
その輪のなかで
少女は回る
らせんを描くように
尖塔にはならない
ように
回る
しばらくは
戯れていなさい、と
風が
嘘ばかりを
甘やかすから
季節たちは
脱ぎ捨て
始める
まあるいものを
一斉に
研ぎ澄まされるように
一斉に
脱ぎ捨て始める
やけに
懐かしい擬音語が
飛べ、という
意味を守りながら
いつでもここを
過ぎてゆく
ふわふわと
さびしい日向を
惑うともなく
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日なたで
ろうそくを点しましょう
大丈夫、
それは遠目には
よくわからないから
わかるのは
あなたの顔の
おおよその向きだけ、
でも
そんなわずかな情報さえあれば
ひとは静かに
ひとは安堵して
通過します
日なたは
そういうところです
見えるようで
見えないところです
けれどそれでは
不安になるので
わかったふうな顔を
みんなで
並べるのです
確かめ合うのです
日なたは
そういう広場です
日なたで
布団を敷きましょう
そうしてそこに
眠る準備をしましょう
多分、
道ゆくひとは
不思議がるでしょうけれど
だれも
何にも問わないで
各自が自由に
思考をします
ほんの少しの情報で
自分の顔を作るのです
晴れて
迷子にならないように