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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1033] 午睡
詩人:千波 一也 [投票][編集]


わたしが覚えた涙のあまみは

傍らの辞書によれば

もろみ、と呼ぶそうで

カーテン越しの陽射しの匂いは

ときどき広くて

ときどき鋭い



いつか見た夢の数々が

今でもずっと夢なのは

否めようにも否めない

まるで優しい足枷みたい




息継ぎを忘れたら

魚になれるものであろうか

いつでもどこでも空をも往ける

きれいな魚になれるだろうか


ひっそり小出しにする嘘ならば

手のひらに負える重さが良い




まぶたを閉じても瞳はまるい

見えないからこそ尚更まるい


そこに名付けられた呼び方を

わたしは知りえないけれど

約束、という響きかたが

わたしの胸には温かい



両目でゆらりと宙を泳いだら

もうすぐ蝶々が舞ってくる

ひとつふたつと

多彩に結ばれて



2011/08/02 (Tue)

[1034] しあわせ
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ぽちょん、と

金魚をかたどるように

あなたは時々

ことばを

誤る


けれど

あなたの誤りかたは

どう透かしても虹だから

わたしもいまでは

すっかり晴れ好き



風船みたいな成功も

風船みたいな失敗も

そらの彼方できれいだろうね、

いまではすっかり

きれいだろうね


こんなふうに

頷いたきょうの日も

じわじわしずかに

きのうへ

向かう



迷路のなかに

日常があるのなら

わたしはあまりに恵まれた果実だと思う


過ちを

豊かに積み上げることが

迷路に住まうしきたりだから

わたしはあまりに恵まれている、と

ときどき安らぐ



そうして

わたしが笑むときは

あなたは決まって

同調したり

相反したり

自分を囲うやわらかな温もりのなかで

精一杯に格闘している


わたしはあなたの敵ではなくて

わたしはあなたの味方でもない

ただただ同じであって

その

同じ、の意味が

ほんの少しほろ苦い

ただそれだけ



なかなか素直に

飲み込めなくても



2011/08/02 (Tue)

[1035] 虹を願う
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もう、

なにものにも

負けませんように、

進んでいけますように、


雨あがりの空に

虹をみつけたら、わたし

いつの間にか呟いてた


誰に

言わされるでもなく

わたし、呟いてた




子どもの頃はひたすらに

虹を描いてた


ななつ、

なないろ、と

合い言葉を身につけて

わたし、虹を描いてた




虹をみつけたら、

しあわせになれる、だなんて

そんな決まりは

どこにもない


だからこそ、

そのふところのいい加減さに

とても無防備に

満たされるのだ、と

おもう


ようやく抱いた

祈りとともに

わたしは、

虹に



2011/08/03 (Wed)

[1036] 調律
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きっと、

昔はあそこにすんでいた


時々

こころ細くなる日や

意味もなく弾む日や

笑って、笑って

沈み込みたくなる日があって

どうしようもなく、

あって


いたって普通の

イレギュラーな毎日の途中で

見上げる月は

いつも不思議で

いつもうつくしい

途方もなく、

うつくしい


だから

歌ってみるんです

嘘とか本当だとかの次元じゃなくて、

いつか

昔はあそこにすんでいた

きっと、

すんでいた

って

軽く歌ってみるんです


そうしたら

想いは案外

重くはなくて

軽くもなくて

ちょうどいいのかどうなのか

よくわからない

その感触に

夜はあって、

独自に

あって


気がつけば

この眼はとうに

つぎの翼を探してるんです、

月だって

ほら

静かながらも進んでる

したたかに

まことにしたたかに

進んでる


ふたつ、みっつと

レギュラーに。



2011/08/03 (Wed)

[1037] てるてるぼうず
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しなやかな

金属みたいにまっすぐに

子どもは晴れを願います


てるてるぼうずは

それを

聞いたか

聞かぬか

わかりません


けれども確かにそこにいます

子どもが見上げるすぐそこに

てるてるぼうずは

いてくれます



ひとの世に

変わってはいけないものが

あるとしたら

かような

祈りのかたちが

挙げられるでしょう



晴れの日を願うことなど

めっきり減った大人はいつも

子どもの願いを

後押しします


その子のために

その子の笑顔のために、と

いつか自分が

同じくしてもらったように

子どもの願いを

復唱します


大人になった子から子へ

だれに

強制されるでもなく

まっすぐに信じるすべを

まっすぐに包み込むすべは

そうして継がれゆくのでしょう


それでもずっと

てるてるぼうずは寡黙なままで

聞いたか

聞かぬか

わかりませんが

それで良いのです


そうでなくては

ならないのです


2011/08/03 (Wed)

[1038] とらわれごっこ
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アイスコーヒーのグラスから

氷の揺れる音がする


そんなとき

わたしは必ず

向こうを見ていて

身近なものの立てる響きに

微笑んでみる


なるべく優しく

微笑んでみる



空は

真っ青で、

どこまでも果てしなく

真っ青で


だから、空は

真っ白なのと変わりない


わたしが絵の具に悩めるさまを

見越して空は

ただただ広く


いつまで経っても

空は真っ白



シンデレラとか長者とか

カリスマだとか

達人だとか

正直いって気になるけれどわたしは少しも

わたしをやめない


明日になれば

明日を経れば

正直それが落ち着くところ


だからわたしは氷を盛って

グラスにたっぷり

氷を盛って

昼やすみ


そこそこ自由な

熱として



2011/08/03 (Wed)

[1039] ひだまり
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袖にはいつも

きまぐれさんが住んでいて

ときどき、すこし、

わたしに優しい



 雲のかなたに広がるものや

 星の向こうに輝くものを

 いつからかわたしは

 素直に待てなくなった


 そっと

 もらして見せる溜め息さえも

 どこか計算高い

 まがいもの



手まりうた、なんてものを

わたしは全く知らないけれど

ときどき、身軽に、

うたいたくなる


聞いた覚えも

習ったためしも全くないのに

途方もなく懐かしい隙間が

わたしのどこかに埋まってる



 ひだまりは

 元来優しいわけではない

 罪人にとっての脅威は明るみなのだから

 ひだまわりは優しくない


 せめてもの悪知恵で

 せめてもの手つなぎで

 弱々しくも罪深い人間たちが

 優しいもの、と誤魔化したに過ぎないこと


 だから

 誰もが無言になりがちで

 誰もがどこか遠くを見てる

 ひとりぼっちで、ひだまりで



襟元には

いつか忘れてしまった息継ぎが眠っていて

わたしはずっと、ずっと、

それを上手に聞き流す


そうでもしないと

捕まえられてしまうから

むごいようでも、慈悲深い、

真夏の瞳に

黒点に


2011/08/04 (Thu)

[1040] 地図には載らない
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地図には載らない

明日がある


けれど

地図に記された明日もある


わたしは出来れば

前者で在りたい




 扉も光も約束も

 とうに誰もが知っている


 それなのに

 弱さも嘘もやさしさも

 ついぞ誰もが知らずじまい




わたしの国は

わたしたちの国は

小気味よく地図に記されてみせる

そこを辿れば迷えるように

小気味よく

載っている


だからわたしは明日を知らない

呼ぶことだけは叶うと信じて


わたしはひとつも

明日を知らない



2011/08/04 (Thu)

[1041] 左うちわ
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他人の不手際には

腹を立てることが多くって

他人のちいさな喜びを

目ざとく値踏みすることが多々あって

このままだと

病気になってしまいそうです、わたし



  昔から

  甘い物には目がなくて

  今日は何を食べようかな、って

  そんなことばかり真剣に考えてます


  もちろんニュースも見ますけれども

  関心事は

  この肩幅にすっぽり収まるものだけに

  やがて統一されるのでした



つかのまの涼風が

わたしだけのものになれば良いのに

つかれた感じの景色はすべて

生まれ変われたら素敵なのに



  誰かに優しくするってことは

  わたしも同じようにして欲しい、ということの

  裏返し

  よほど理不尽な運命を生きてきたのなら

  そんな理屈は通じないけれど

  みんなたいがい

  凡人です



毒、といえば

蜘蛛とかヘビとか林檎とか

安易な言葉でお答えできますが、なにか問題でも?

理想、といえば

マイホームとか相思相愛とか贅沢三昧とか

問題なくお答えできますが、なにか間違っていますか?



  わたし、

  長生きしてみようと思うんです

  なぜなら

  死にたくないからです

  なぜなら

  長生きしてみようと思ったからです



ろくな生き方ってどんなものでしょう

ろくな死に方ってどんなものでしょう

なんとなく、

わかるような気がしていますが

なんとなく、確信はなくて

かしこい感じで

溜め息なんぞ

ついてみます


窓の向こうに

同じポーズであくびする

野良猫ちゃんを目で追いながら


愚痴っています

わたしはきょうも。



  わたしには、

  長生きなんてできるのかしら


  わたしにも、

  願いをかなえる権利がほしい


  絶対、

  欲しいっっ!



2011/08/04 (Thu)

[1042] 静かなまぼろし
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ありの行列は

時間の砂をせっせと運んでゆくような

そんな気がして、わたし

のどが渇きました


真っ白、とは言い難いミルクを

すっと飲み干せば

胸の時計は

狂いはじめます、やわらかに




 聞くに堪えなかった波音のこと

 きれいに捨てて欲しかった手紙のこと

 笑うよりほかになかった星の夜のこと

 甘すぎて厭わしかった果実のこと




風に揺れる葉は言葉を持っていて

わたしはそれを許すのが不得意で

身代わりに解き放ちます

髪や背や指を


思い出はいつか

上手に整列をしてくれるのでしょうか

いまはまだ

号令の言葉も見つからないけれど


2011/08/04 (Thu)
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