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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1053] 深まりゆく水に
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深まりゆく水に

あらがい続けた果てを

底とよぶ


深まりゆく水に

寄り添い続けた果ても

底とよぶ


そして

底から見上げるものは

みな明るくて

みな美しい


そんなやさしい真実が

深まりゆく水に

とけ込んでいる


そうとは知らずに

みんなみんな逃げるけど

逃げられるつもりで

逃げるけど

夜には

誰もが

見上げてる


深まりゆく水に

そまり始めたことなど

まったく知らないで





2011/08/20 (Sat)

[1054] 答礼
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寂しさが

つのるようなことばかり

追いかけているような

気がします、

毎日


だから、ほら

ぼくの靴は昨日より

すり減って

くたくた

です



 どこか、

 遠くへいけば

 少しは楽になれますか



見上げた夜空に

星くずはまたたいて

ぼくは

そこに

なにかを

聴きたくて

聴けなくて


ひとり、

おだやかに

つまさきを

見つめ直しました


なるべく

ひとには

背を向けて


2011/08/20 (Sat)

[1055] 送電線
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夕立のあとは

すっかり晴れて


青と

朱とが

きれいに

混じる


送電線には

数羽のからす


もうじき

日没後には

からすの色は

空と同じに

なる


だから

わたしは

確かめた


送電線の

ずっと向こう


黒と

呼ぶには

まだはやい

きれいな

混じりを

確かめた


風に

揺られる

わたしの髪にも

からすを数羽

休ませながら




2011/08/20 (Sat)

[1056] ともしび
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すっかり消えて

しまった

あとに、

思い知らされる

こころ細さがある


あれは

たいせつな

灯りであった、と

ちいさく震える

夜がある



 通りには

 風があふれていて

 それゆえ無風、と

 思い違えて

 ひとは

 寒さを語ることばに

 長けてゆく


 ひとり、

 ちいさな灯りに笑んで



季節のめぐる

理由について、

わすれてしまうのは

しかたのないこと

だけど、

それは

じょうずに

迎えにくるから


ひとは

まもり、を

愛してやまない



 やさしくなれない

 日々だとしても

 聴き続けている

 うたがある


 いいうたね、って

 誰でも

 いつでも

 来られるように


 閉じない扉を

 きしませながら


 ひとり、

 客間をあたためて



あきらめたら、

きっと

知らないことが

ひとつ減る


けれど、

それを

喜びとは呼ばないことを

だれもが知っている



夜を、

終わるはずのない

夜を

すべての

暗がりを

見つめすぎてはならない

うしなっても

ならない

だから、

ちいさく

ちいさく揺れよう

灯りを

もって


みんな、

つながって


2011/08/21 (Sun)

[1057] わかりやすいうた
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夕日が

あたたかい、だなんて

思わない

ぼくがすきなのは

夕日のいろで、

物悲しそうに

かつ、凛々しそうに

ぼくのすがおは

許されている

そんな確信が、

ある

だけど、

夕日が

ほんとは冷たいことは

わかっているから

ぼくは

燃えるしかないのだと

思う

それは唯一、

ぼくがひとりで

叶えられることなのだと

思う



信じることには

やさしく在りたいから

ぼくは

いまだに

匂いなんかを

うたってみせる

みつめ過ぎずに

済むように

思いのままに

走れるよう、に

果てしなく

きれいな嘘つきの

夕日を

背中





2011/08/27 (Sat)

[1058] 遠近法
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空から降りた

この雨の

いつ、を

えがこうと

わたしの自由

だから

わたしも

あまり多くを

気にかけないで

雨に

ふられる

ふれ、られる



 しずくが

 水面に還るとき

 ちぎりのしるしに

 指輪がうまれて

 きらきら、

 消える

 それを

 わたしは

 どの岸辺から

 見ていたのだろう



空から降りる

あの雨の

見てきたものを

わたしは知らない



 水面に映る

 わたしの顔は

 どの

 深みからの

 視線だろう

 この

 手の届く

 水は浅くて、

 水面に映る

 雲がゆれ

 る



空から降りる

それ、が

雨なら

それ、の

降りたすべても

雨にほかならない



 波間に

 あらわれて、は

 遠のいてゆく日々を

 幾度も

 飲み干してきた

 砂、と

 して



微細な空が

遠大な空を埋め尽くすから

遠大な空は

均衡を保つしかない

微細に、

保つしなかい




雨、のかなたに

あるいは底に

雨の隣、に

あるいは手中に

はじめから

決まりごとなど

なかったよう、に

雨は

ひとつになろうとしている



2011/08/27 (Sat)

[1059] 耳かきがすき
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言いかけて、

やめた


そしりも不平も身勝手も


言いかけたから、

耳が困ってる


はっきりとは

もちろん聞いていない


でも、

ぼんやりとなら

聞いた気がして

耳が困ってる


だから、ね

取り除いてくれないかな


きみの手で

ただの汚れとして

取り除いてくれないかな


なんにも言わないで

優しくされたら

ぼくは上手に

胸にしまえる


そしたら耳も

もう、困らない


2011/08/27 (Sat)

[1060] 風が吹いたら
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灯台の

岬で

風が吹いたら

きみは

揺れる

髪も

すそも

きれいにつれて

きみは揺れる


それは

取るに足らない一瞬だけど

きみにまつわる

ささいなすべてを

よろこぶ権利に

ぼくはそよぐ



 海は

 おだやかに

 晴れているから

 灯台はただ

 黙ってる


 それが

 なぜだか

 まぶしくて

 ぼくは見ている

 とおくを

 見ている




風が吹いたら

ぼくはめくれる

ぱらり、と

めくれる


ぼくの

ページにとまる

きみの指を

思いながら

ぱらり、と

めくれる




風が吹いたら

ぼくは

そんなことを考えている


すずしい顔して

考えている



灯台の

岬で

とおくを

見ている

ふりをして


2011/08/27 (Sat)

[1061] ナニカ
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彼の名はナニカ

ナニカ チョウダイ と言われても
どうしたら良いのか わからない

タロウ チョウダイ
ハナコ チョウダイ

きみなら どうする



ソレガ ナニカ は
格好いい言い回し


 出来る男 それが、ナニカ!
 頼れる男 それが、ナニカ!
 人情の男 それが、ナニカ!


ソレガ ナニカ の あとに
疑問符はいらない

文法上の誤りは ないけどね



ナニカ トリツカレテル と言われて
ナニカ は 焦った
お祓いもした


ナニカ モノタリナイ と言われて
ナニカ は 頑張った
ナニカ を 向上させるべく
頑張った


ナニカ ノミモノヲ と聞くたびに
ナニカ は すっと席を立つ
すると通りすがりのウェイターが
お客さま、ナニカ?
と 呼び捨てにする



ナニカ ガ イル と叫ばれた夜
ナニカ は 泣いた


 ナニカ ガ マチガッテイル
 (いいえ、ぼくはなにも

 ナニカ ガ オチタ 
 (いいえ、ぼくはどこにも

 ナニカ ガ オカシイ
 (いいえ、ぼくはいつだって


ナニカ カワイソウダネ と 誰かが言ったとき
ナニカ は そこに もう いなかった



ナニカ クオウゼ
ナニカ クイタイナー
ナニカ クエバヨカッタ

声の背後で
にげる足音が した



川近くの堤防で
階段なんかに腰かけて 遠くを見ていたら

ナニカ カンガエゴト デスカ って 
おばあちゃん
お孫さんつれて

何にも答えずに 黙っていたら
夕日がきれいで

ナニカ イイコト アリソウネ って
おばあちゃん
お孫さんも
笑顔で

だから 
ぼくは くしゃくしゃに笑って
泣いてることを ごまかした

ナニカ コマッタラ マタ オイデ
ワタシハ マイニチ ココニ クルカラ

うん 
ありがとう また来るね って
ぼくは くしゃくしゃに 帰った

ナニカ スクワレタ



彼の名は ナニカ

時々姿を見かけるけれど
ナニカ 元気そう

それでも
ナニカ 傷つくことがありそうな
ナニカ ふしぎな顔してる

2011/08/27 (Sat)

[1062] しゃぼん玉
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できるかぎりの優しさで

息をおくって

あざやかな

卵のひとつひとつに

そらを託しました



そうして

いかにも幸福そうな

幽閉は

繊細に

消えるのでした


ことば以外の

ちからによって

いかにも幸福そうに

消えるのでした



あざやかな

そらの向こうを

とべないわたしは

きょうも卵に託します

半ば強情な

優しさで


2011/08/27 (Sat)
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