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千波 一也の部屋  〜 投稿順表示 〜


[1073] 糸はほつれる
詩人:千波 一也 [投票][編集]


はじめから

わかっていたこと

糸は

ほつれる


準備など

とうに整っていた

それでもなお

傷んでしまうのは

一筋縄にはいかない

飾りのせい


自由を知った

こころのせい


だからといって

責めないで


糸は

ほつれる


切り札も

持てず




2011/09/05 (Mon)

[1074] 赤子のように
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赤子のように

無垢でいられたら

この夜は

どんなに

苦しいだろう



赤子のように

無邪気であったら

この夜は

いつまでも

続いてしまうだろう



それでも

光は

いや、

それだからと云うべきか

光は

赤子のように

覚めては

眠り

知っては

忘れ

食べては

飢えて


きりが

無い


2011/09/05 (Mon)

[1075] 黒幕
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黒幕の向こうは

まばゆい光

すべてを

遮るかのような

分厚い黒幕も

ちら、と

のぞけば

淡くて

誠実



しかしながら

誠実という意味は

気まぐれな間柄にだけ

成り立つものだから

細心の注意を

払いなさい



黒幕は

得てして悪者


悪者は

得てして

傷もの



見上げてごらん

月を


あれは

もうじき

降りそそぐ

いつものように

変わりなく

わからない顔を

して




2011/09/05 (Mon)

[1076] ゆく夏に
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あの灯りのなかに

いつかの僕たちがいる

迎えるでもなく

さよならでもなく

あの灯りのなかに

懐かしい日がある


見えないものに

この目を輝かせる僕は

いつかの日々の

星かも知れない


背伸びなんかじゃ

星にはなれない

眩しいだけが

星じゃない


そうして僕は背を向ける

夕刻わたる涼風に

あらがうでもなく

屈するでもなく


ゆく夏に

置いてきぼりに

されないように


ゆく夏に

僕をたしかに

預けるために



2011/09/05 (Mon)

[1077] 言葉の日々
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もう、使わない言葉なら
勇気をもってさ
捨てましょ
ぽいって

昔はよく使ったんだけどな
なんて感傷にひたって
夕日のなかで微笑んで
捨ててしまいましょ





使った言葉は
きちんともとの場所に
戻しましょう

使うだけ使って
あと始末はひと任せなんて
いい歳をして
することじゃない






しばらく会ってないけど
あのお言葉さん
元気かしらね

せめて
どこのどなたのお宅に
ご厄介になっているのか
わかればいいんだけど





あの子がね
その言葉のこと
ずいぶん前から欲しがってたのよ

そろそろ譲ってあげたらどうかしら
捨てるわけじゃないんだもの
あの子がきっと
大事にしてくれるから
おさがりってことで
どうかしら





ところで、あなた
期限は確かめたかしら

賞味か
消費か
しらないけどさ
永久にもてる言葉なんて
ないんだから
どこにも





ほこりが溜まれば
パタパタしてさ

泥がついたら
ジャブジャブしてさ

わたしのためにすることは
言葉のためでもあると思う






ふるい
段ボールを開けたら
出てくるかもね

おもわずポッて
染まっちゃうような
けれどいとしい
ひみつの言葉が





ながく
ながく使っていたいなら
お手入れしましょ

疎遠すぎてはいけないわ
中毒じみても困るけど
じょうずな距離を
覚えるためにも
お手入れしましょ
言葉の
日々




2011/09/05 (Mon)

[1078] 埃まみれ
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空いた

椅子の上には

ゆうぐれが降っていて

絵描きになれない風たちは

せめてもの代わりに

言葉を混ぜて

去っていく



取り残された場所に

おそらく施錠は

必要ない

けれど

閉塞の向こう側の

失われがたい言葉の広さのために

だれかが堅実に

施錠する

だれにも見えない

湿度だけ明確な

言葉をもって

施錠する



古びた机は

所定の位置で

いまも教科書を載せていて

途方もない数の

かつての瞳たちが

ゆっくりそこへ

着地する



朝にも

夜にも

縛られないで

自分を呼ぶものたちを

かえってその名に

閉じこめて

軽くも

重たい年月は

包囲している

すべての

隙間を




2011/09/17 (Sat)

[1079] 積もらない日々
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雪のように

純白ではないけれど

雪のように

この手を

冷えさせたりしないのが

わたしの日々です



埃のように

身軽ではないけれど

埃のように

掃き捨てられたり

拭き取られたりしないのが

わたしの日々です



手荷物のように

煩わしさはあるけれど

手荷物のように

なくしてしまうには心細くて

いつのまにか不可欠なのが

わたしの日々です



土砂のように

汚れた面はあるけれど

土砂のように

どこか

ちいさな草はらを

守っているに違いないのが

わたしの日々です



目にみえて

美しくはならないけれど

目にみえて

醜くもなっていかないから

積もっているのか

いないのか

ほんとのところが

よくわからない

それが

わたしの日々です




2011/09/17 (Sat)

[1080] 薔薇色
詩人:千波 一也 [投票][編集]


薔薇色が

咲くべき場所は

薔薇のなかだから

薔薇色に

飽きたければ

薔薇として咲き誇りなさい


深紅の香も

深紅の刺も

深紅の愛も

深紅の涙も

嬉々として示しなさい

塗れなさい


薔薇色を

咲かせるものが薔薇ならば

薔薇色が

咲くべき場所は

薔薇にしか

ない



2011/09/17 (Sat)

[1081] メロウ
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いらない人など

どこにもいないと云うのなら

いらない悲しみもきっと

どこにもない

いらない人というものが

もしもどこかに在るならば

目の前の喜びに怯える日々は

ずっと積もってしまうだろう



甘い果実もにがい果実も

内に秘めたはかなさは

どれもたがわず軽やかで

どれもたがわず重たくて



はかないものの別名は、永遠となる



一個だけでは成しえない

ひとりだけではたどり着けない

互いのちがいが消えないように

だれも同じく熟れてゆく



たとえどんなにはかないものも

ひとつ残らず結ばれて

ひとつ残らず永遠になる

たとえどんなにはかないものも





2011/09/17 (Sat)

[1082] やさしい人はどこですか
詩人:千波 一也 [投票][編集]


やさしい人はどこですか、と

尋ねることばが多すぎるので

空はすっかり無言です


晴れ渡る青空の日も

雨の日も

風の日も

空には無言が広がります


だから時には

黙って空を聴くのです

空からの質問はないものか、と

無言で待ってみるのです


そしたら案外

尋ねたいことなど少なくて

尋ねたところで

仕方のないことが多くて

空の高さに

ほっ、として



やさしい人はどこですか、と

不意に勢いづくことばは

まだまだ胸に眠って

います



まあるい瞳は

つとめてしずかに

覆われるので

きっと

しばらく

大丈夫、です



やさしい人はどこですか

夢であえたら

宜しいです





2011/09/17 (Sat)
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