詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
やさしいひとの
翳りを見つけた日は
こころに羽が
生えるのです
軽くなって
軽くなって
どこへも辿り着けない
わたしになるのです
落下は
とても重たい手段だと
そうしてはじめて
知るのです
正しい羽の危うさは
わたしの自由を許すこと
そして同時に
脅かすこと
見上げた先には雨雲がいて
欠いてはならない滴を
抱きしめます
わたしの捨てた暗がりも
もしかしたら其処で
恵まれているかも
知れません
かつてわたしは
光でありました
いいえ
光を恋うことを
自らの光としておりました
それとなく
悲しいひとを待ち伏せて
傷つくひとを待ち伏せて
憐れなひとを待ち伏せて
光を
恋うことの
矛盾のかげに
小さな安堵を忍ばせながら
わたしは曲がらぬ
軌跡でありました
すがしいひとの
迷いに触れた日は
背中をこころが
つたいます
冷たくなって
冷たくなって
命の浅瀬に
怯えます
それゆえ
海は果てしなく
空も変わらず果てしなく
わたしは
上手になるしかなくて
月日をかぞえて
笑うのです
切り捨て難い暗がりへ
幾度と知れず
繋がるのです
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
旗を介して
風を視る
枝葉を介して
風を聴く
人の心を視るならば
何を介せば良いのだろう
人の心を聴くならば
何を介せば良いのだろう
船を介して
海を描く
星を介して
夜を描く
人の心を描くならば
何を介せば良いのだろう
涙を介して
夢を識る
夢を介して
愛を識る
人の心を識るならば
何を介せば良いのだろう
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
やわらかな目を
つたわって
ぽとり、と
しずくは落ちました
やわらかな手に
やわらかな胸に
しずくは落ちて
染みました
それが
わたしの
循環なのでしょう
しずくをまいて
しずくを
吸い
終わらない川さながらに
わたしは続けて
ゆくのでしょう
頼りなくても
些細でも
純なるしずくで
あるために
ほろほろ
はらり
汲まれるわたしを
巡るのでしょう
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
恩のある御方は
どなたでございましょう
恩のない御方は
どなたでございましょう
あちら、
こちら、と
ひとの名を見て
顔を見て
あちら、
そちら、と
仕分けます
恩のある私は
今いずこ
恩のない私は
今いずこ
あちら、
そちら、と
ひとを選んだ
その挙げ句
私の知らない
私に迷う
私です
恩あるひとと
はぐれています
恩なきひとと
はぐれています
こちら、の都合で
こちら、の事情で
そちら、の所以で
そちら、の道理で
あちら、
どちら、と
遠くばかりを眺めては
近目を離れぬ
私です
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
見えないものに
なりたいな
癒えないものに
なりたいな
光らぬものに
なるもよし
至らぬものに
なるもよし
切れないものに
なれるかな
消えないものに
なれるかな
眺めはすてき
いつでもすてき
大きなものは
小さくなるし
近くのものは
遠くなる
傾きかけているならば
沈みかけているならば
一度はここへ
来るべきね
耐えないものに
なりたいな
冴えないものに
なりたいな
賢しいものに
なるもよし
哀しいものに
なるもよし
やさしいものに
なれるかな
ひさしいものに
なれるかな
望みはすてき
いつでもすてき
鋭いものは
まるくなる
短いものは
長くなる
寂しいものに
なろうかな
厳しいものに
なろうかな
さからうものに
なろうかな
からかうものに
なろうかな
傷つくものに
なろうかな
気がつくものに
なろうかな
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
わたしに出来る
精いっぱいは
信じること、
です
だれの目にも
やさしく映るだろうほほ笑みを
信じること、
です
かなしい言葉は
もう、たくさんと
言い捨てる言葉は
かなしいです
重い言葉から
目を逸らしても
見ない、という重石が
のしかかります
昨夜、夢をみました
子どものころの
夢をみました
意味など無い、と
捨てられるのも
種でしょう
理由は無くても
たいせつに温められるのも
種でしょう
昨夜の夢は
いずれの種となるのでしょう
笑いませんか、
もう一度
信じてみましょう、
もう一度
あなたの傷が
あなただけの痛みであっても
わたしの願いは
わたしだけの痛みになど
ならないと思うのです
笑えませんよね、
容易には
ひらけませんよね、
容易には
けれど
あなたが
やり残したことに
思いを馳せるとき、
そこに笑顔は
いませんか
スマイル・アゲイン
何度でも
スマイル・アゲイン
涙があふれても
スマイル・アゲイン
はじめまして、を
挨拶に
スマイル・アゲイン
ちいさな輪でいい
つながってゆけ
信じることに
決めました
言葉のいらない
笑顔のちからを
汚れの無さを
信じることに
決めました
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
夜明けに向かい
風は吹いているか
夜の
深淵に向かい
風は吹いてはいまいか
晴天に向かい
蒼穹に向かい
風は吹いているか
雨雲に向かい
霹靂に向かい
風は吹いてはいまいか
希望に向かい
風は吹いているか
絶望に向かい
風は吹いてはいまいか
ひとの
背中を押すために
風は吹いているか
ひとの
耳を迷わすために
風は吹いてはいまいか
風を
生み出す彼方へ向かい
風は吹いているか
風を
かき消す彼方へ向かい
風は吹いてはいまいか
未来へ向かい
風は吹いているか
言葉へ向かい
風は吹いてはいまいか
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
あながち
間違いでもなさそうな
傾斜みち
おおきく
眼を閉じたまま
ひとつ、ひとつ、を
よく噛み砕いたら
背中に負うのは
真っ赤な約束
瓜二つ、
みたい
かつての路地は
いまでも路地で
見かける顔が
違うだけ
かつての迷子は
いまでも迷子で
怯える理由が
違うだけ
咲かない春の
まんなかで
魚は巡る
綺麗になりたい
言葉の祭りの
うら・おもて
一輪だけが
こしらえる、のは
交互にかなしい
群れの花
だれの指にも帰らずに
だれの指をも香らせる
まばゆい影の
一輪の
花
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
言葉は
わたしに降りてこない
わたしを選んで
降りたりしない
だから
わたしは
降りしきる
言葉がわたしを拒んでも
言葉がわたしを拭っても
一途な
まよいに
わたしは降りる
わたしに降りる
ものなど無くても
触れることだけ
願い続けて