詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ひとを
見下し笑えたら
わたしの優位が成り立ちそうで
ひとを
けなして罵れば
わたしの優位が守られそうで
拳は
きょうも独りきり
石くれ気取りも甚だに
閉じたつもりの
孤独をさらして
拳は
きょうも
虚空のなかで
わたしの望みを
掴みそこねる
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
その
日没に名前はない
幾重にも
さまよう翼が
無効を告げられるだけ
次々と
帰されるだけ
名もなき標は
明々と燃えながら
あまりに
静謐で
無数の火の粉が
我らに降る
貰い火が
勢いづいて
圧倒的にうつくしい
奇跡のうたが欲しければ
瞳を持てば
それで良い
その
日没に
名前はいらない
わずか数秒の永遠を
約束たちは知っているから
もう
十分だから
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真夜中に
ひとりで開く小説は
難しさを持ち合わせない
さみしさの入り口、
でした
なりふりかまわず
一途にさまよえたのは
誰にもやさしい夏の日で、
つめたい雨のひと粒でさえ
わたしは覚えて
離しません
軽く、
とびらをノックしたのは
あなたでしたか
ひたむきに
待ち続けたのは
わたし、でしたね
もう
会えないけれど
他人じゃないなら、
あきらめなければならないけれど
小さな峠を越えるたび
ささやかな星を
思い描きます
教えるともなく
あなたが見せた所作のとおりに
奏でるこころの奥底に
おぼろな横顔は
消えて、
なじんでゆきます
鮮明に
わたしが
いまも持ちえない
痛みはそこで晴れていますか
浅く、
遠ざかる
波とよく似たやさしさで
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ほんの、ひと握り
どの
手のひらにも
負えるくらいの
ちいさな
ちいさな
身の丈で
ほんの、ひと握り
ねがいを載せて
せせらぎましょう
いついつまでも
せめて
おのれの嘘くらい
捨て置かないで
見誤らないで
煩わないで
ほんの、ひと握り
子どもの手にも
やさしく編まれる
ささいな舟で
ありましょう
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わたしの何かを
湿度はさらう
それが
具体的には
何だったのか
思い当たらせぬまま
湿度は
最低限の言葉だけを
無造作に配置して
汗ばむわたしを
黙視する
得たつもりでいたものが
しずかに綻び始める頃
わたしはようやく
何かに思い
当たる
秒針の
滞りない刻みのなかで
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転んで
ひざを擦りむいて
泣きじゃくる頭には
おそるおそる
手をそえて
「大丈夫か」と
声をかけるより
すべがない
なにか
途方もなく
大きなものに
こころを射抜かれたような
泣きじゃくりもせず
たたずむ者には
かける言葉を
持ち得ない
痛みよ、去れと
ねがうのも
温みよ、
宿れと
ねがうのも
嘘ではないが
その
嘘ではない、ということが
なにを保障するかは
わからない
たぶん
なんにも
保障しないだろう
わたしは
そうして地上にあって
空をながめたり
海をのぞんだり
地上で
唯一の
宝ものを
探そうとしている
誰かのための
やさしさに
なれないものだろうか、と
今日も
無力に
立たされている
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橋の途中で車を停めて
海風のなかを
歩いた
きみの
髪が揺れて
ワンピースの裾が揺れて
ぼくは
なにを撮ろうか
どうやって撮ろうか
しろい光に
汗かいて
橋の下には
青い海がただ広がって
空との境を
拒みもせず迎えもせず
ただ広がって
きみは
待っていたんだね
海風にまつわる
香る日を
ぼくも
待ち続けていたんだ
真っすぐに続く
青の日を
橋の途中で車を停めて
海風のなかを
歩いた
待つことをしない
待たれるだけの
やさしい島で
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おのれの為のすべは皆
正義に反するか
いつわりか
他人を一切欺かないなら
おのれを騙すことは
正解か
おのれの為に溢れる涙は
憚るべきか
醜態か
他人の傷をつくるなら
おのれの痛みは
秘匿すべきか
美しくなどないものを
讃えることは
大器の証か
教養か
おのれの欲するままに
歩んでゆくのは
無知の証か
幸いか
他人が欲しがらぬ一切を
一身に背負うのは
孤独か
華か
わからぬことを放るのは
無上の恥か
傲慢か
正直に
すべてを語れば健全か
明るみか
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子犬のように
こまっています
愛されかたがわからずに
しっぽを揺らせて
こまっています
子犬のように
無邪気でいます
邪気を
吸っても
無邪気でいます
子犬のように
ねむっています
日なたの
ゆめが消えないように
ねむっています
子犬のように
したっています
愛されかたが
わからなくても
愛することがぬくもるように
したっています
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王冠は
かぜのなる楽器
ひかり
まばゆい宝石は
言葉のむこう、
時間の
思惑
暗君をわらう重鎮たちは
きれいなよるの鋭角に座して
姿をもたぬ姿を
悦ぶ
進言は
砂上のきわみの
まぼろしの
星
装束、奏上
庭園、奏上
隷属、奏上
刀剣は
まつりのあとの鏡文字
ひとり
うたがう栄光は
孤独のむこう、
凍てつく
透度で
護られて
い
る