詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
水と油は
反発し合う
反発するから
互いが成り立つ
水と油は
こばみ合う
こばみ合いつつ
となり合う
水と油は
よごれ合う
よごれ合うから
澄み分けてゆく
水と油は
交わらない
その交わらないことに
正しさがうかぶ
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そらを
見あげる
銀のあしもと
繰り返される風の名は
誰にも帰らぬ物語
おだやかに
おだやかに
波が
陸へと続く約束を
やさしく迎えられたら
いたみも同じく
呼べるだろうか
素足を
よろこぶ
傷たちの群れ
主人となって
それを履けたら
夜はひとすじ
晴れてゆく
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いまごろ
どうして、って
尋ねられても
呆れられても
かかったものは
しかたがない
恋だっておなじ
冒険だっておなじ
一過性だよ、って
かるく流されるのも
流されまいと
あがくのも
おなじ
あこがれも
たそがれも
疲れ切るのも
眠りたおすのも
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いつもの小屋の入り口に
その蜘蛛はいた
わりと小柄で
さほど気持ち悪くはなく
タバコの煙を吹きかけながら
逃げ去るさまを
愉しんでいた
正午の陽射しが
いくらか涼しくなった今日
いつもの小屋の入り口に
その蜘蛛はもう
いなかった
代わりにいたのは
二匹の蜘蛛の子
入口の戸の隅っこに
こぢんまりと張られた
蜘蛛の巣がある
こぢんまりでも
何かを守るように
しっかりと張られた
蜘蛛の巣がある
その奥に
大切そうに並んでいたあれは
卵だったのだと
ようやくわかった
親蜘蛛は
居場所を変えたか
他の虫のえじきとなったか
寿命が尽きたか
定かでない
蜘蛛の子の
忙しそうにうごめく姿だけが
ただただ定かで
タバコの煙が
線香めいて揺らめいたことの
真相もまた
定かでない
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だまっていたら
うつむいてしまうので
みあげる
うつむくことは
わるいことだと
ひとりで
おぼれて
しまわぬように
みあげる
そこに
すくいが
なくてもいいから、と
かたむいた
おもみの
ぶんだけ
みあげる
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こころが優しいのは
告げぬひとです
こころが美しいのも
告げぬひとです
そう
教えられたから
わたし
告げずにきたのに
こころが汚いのは
告げぬひとです
こころが冷たいのも
告げぬひとです
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くだらない話を
しませんか
時間の無駄とおもえても
さほど影響のない
無駄ですから
こころを
試してみませんか
こころを
許してみませんか
こころを
誘ってみませんか
どうでもいい、と
おもえることが
どれだけほんとか
眺めませんか
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困りごとのはずなのに
駆け出すひとの
影は、きらり
驟雨をうらむ
ことばの裏は
どこか、にやり
つかのまの騒ぎが
ぴたり、と止んだら
影はうつろい
やはり、きらり。
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宿るものは
名を持たない
宿らせるものもまた
名を持たない
互い違いに
突き立て合う牙ならば
いずれも等しく
慈しみであり
哀れみである
朝にはむく毛
昼には四肢
夜には眼
司るものは
名を呼ばない
呼ばせているものが
あるならば
それは
証だ
いわれのないものごとを
脱ぎ捨てようとする
ならいの
正しさの
証だ