詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
わたしの不幸は
加護にある
わたしの幸も
加護にある
それを
知らずにいるわたしと
知っているわたしと
どちらでも
選べるというのに
わたしの孤独は
不幸をもたらす
わたしの孤独は
幸をももたらす
道標など
はじめから無い
どこにも
無い
あるのは音だ
不透明に
鳴り続く
音だけ
だ
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胸の向こうを
呼びさますのは
いつもささいな風ばかり
誰がおくった風なのか
どの手がとどける
風なのか
わからぬことを
受容したなら
そっと
だれかに
響くだろうか
だれかの朝を
告げるだろうか
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やさしい話が好きなので
易しいこころを
うたいます
そうして
継がれてゆくうたは
どれほど賢い
毒でしょう
毒に
あかるい
小鳥の群れが
毒をおそれる矢に
射られても
易しいことばが
かこうでしょう
やさしい話の表紙には
先のとがった
ハートを添えて
ささいな傷など憂えない
易しいこころを
つなげましょう
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
いつしか
まぼろしは
味方になりすまして
あらゆるひかりの
残酷さを
麻痺させて
しまう
綴られた文字の
内側も
外側も
しらないならば
しらないなりに
柔らかくなれる
硬くも
なれる
この手に
触れられない
すべての記憶の源を
敬うことが
もっとも
重い鍵
罪ならぬ罪を
美しく
染めて
しまう
もっとも
暗い
翼
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伏すべきあては
知らずにきたから
ねがいはさほど
鋭くはない
それでも
痛みは確かにあって
聞くべき声は
必ずあって
これまで
何度も
失ってきた
拾い集めた鏡のなかに
夜のかけらを
光らせて
何度も
何度も
求めつづけた
もう二度と、など
果たせもしない
いつわりならば
明日また
生きていよう
生まれてこよう
広大なこの
灯りの
すみに
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なにを
描きましょうか
その余白には
なにを
足しましょうか
その疑問には
なにが
不満なのですか
その完成の
なにが
不自由なのですか
その独走の
なにを
飾りましょうか
その余白には
なにを
残しましょうか
その夜道には
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
なにも
視なくて良いのなら
なにも視ないで
おくが良い
なにも
聞かずに済むのなら
なにも聞かずに
おくが良い
常世をわたる夜の舟には
信じた過日が乗っている
にわかには
信じがたい姿で
時々向こうを許して
みせる
洗い流したはずの鱗粉に
うずもれている呼吸を
見出せ、はやく
落ちてゆくのも
のぼってゆくのも
とらわれのない
従順な途
からまる糸が
淡く通過を始めたら
夜はまっすぐ
影になる
隠れようのない
炎と水が
時間を
結ぶ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ひとりで仰げば尚更に
山野の月はきれいです
涙は
雲居をわたる舟
契りは
雲居をてらす舟
言葉が透ける霧の夜は
山野の月がきれいです
あまねく水面は
古巣です
あまねく種火は
郷里です
垣根をなくした風のふる
山野の月はきれいです
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
歩き疲れたひとの背中に
時計がうっすら
見えました
あからさまな
時刻を告げない時計です
それゆえわたしは
さびしくなって
空の高さに
透ける
だけ
か細い音、に
すがるともなく
すべてをまかせて
ほんの些細な嘘さえも
守れもせずに
願うのです
わらわれそうな清浄を
願うのです