詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
雪のように
純白ではないけれど
雪のように
この手を
冷えさせたりしないのが
わたしの日々です
埃のように
身軽ではないけれど
埃のように
掃き捨てられたり
拭き取られたりしないのが
わたしの日々です
手荷物のように
煩わしさはあるけれど
手荷物のように
なくしてしまうには心細くて
いつのまにか不可欠なのが
わたしの日々です
土砂のように
汚れた面はあるけれど
土砂のように
どこか
ちいさな草はらを
守っているに違いないのが
わたしの日々です
目にみえて
美しくはならないけれど
目にみえて
醜くもなっていかないから
積もっているのか
いないのか
ほんとのところが
よくわからない
それが
わたしの日々です
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
空いた
椅子の上には
ゆうぐれが降っていて
絵描きになれない風たちは
せめてもの代わりに
言葉を混ぜて
去っていく
取り残された場所に
おそらく施錠は
必要ない
けれど
閉塞の向こう側の
失われがたい言葉の広さのために
だれかが堅実に
施錠する
だれにも見えない
湿度だけ明確な
言葉をもって
施錠する
古びた机は
所定の位置で
いまも教科書を載せていて
途方もない数の
かつての瞳たちが
ゆっくりそこへ
着地する
朝にも
夜にも
縛られないで
自分を呼ぶものたちを
かえってその名に
閉じこめて
軽くも
重たい年月は
包囲している
すべての
隙間を
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
もう、使わない言葉なら
勇気をもってさ
捨てましょ
ぽいって
昔はよく使ったんだけどな
なんて感傷にひたって
夕日のなかで微笑んで
捨ててしまいましょ
・
使った言葉は
きちんともとの場所に
戻しましょう
使うだけ使って
あと始末はひと任せなんて
いい歳をして
することじゃない
わ
・
しばらく会ってないけど
あのお言葉さん
元気かしらね
せめて
どこのどなたのお宅に
ご厄介になっているのか
わかればいいんだけど
・
あの子がね
その言葉のこと
ずいぶん前から欲しがってたのよ
そろそろ譲ってあげたらどうかしら
捨てるわけじゃないんだもの
あの子がきっと
大事にしてくれるから
おさがりってことで
どうかしら
・
ところで、あなた
期限は確かめたかしら
賞味か
消費か
しらないけどさ
永久にもてる言葉なんて
ないんだから
どこにも
・
ほこりが溜まれば
パタパタしてさ
泥がついたら
ジャブジャブしてさ
わたしのためにすることは
言葉のためでもあると思う
よ
・
ふるい
段ボールを開けたら
出てくるかもね
おもわずポッて
染まっちゃうような
けれどいとしい
ひみつの言葉が
・
ながく
ながく使っていたいなら
お手入れしましょ
疎遠すぎてはいけないわ
中毒じみても困るけど
じょうずな距離を
覚えるためにも
お手入れしましょ
言葉の
日々
の
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あの灯りのなかに
いつかの僕たちがいる
迎えるでもなく
さよならでもなく
あの灯りのなかに
懐かしい日がある
見えないものに
この目を輝かせる僕は
いつかの日々の
星かも知れない
背伸びなんかじゃ
星にはなれない
眩しいだけが
星じゃない
そうして僕は背を向ける
夕刻わたる涼風に
あらがうでもなく
屈するでもなく
ゆく夏に
置いてきぼりに
されないように
ゆく夏に
僕をたしかに
預けるために
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黒幕の向こうは
まばゆい光
すべてを
遮るかのような
分厚い黒幕も
ちら、と
のぞけば
淡くて
誠実
しかしながら
誠実という意味は
気まぐれな間柄にだけ
成り立つものだから
細心の注意を
払いなさい
黒幕は
得てして悪者
悪者は
得てして
傷もの
見上げてごらん
月を
あれは
もうじき
降りそそぐ
いつものように
変わりなく
わからない顔を
して
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赤子のように
無垢でいられたら
この夜は
どんなに
苦しいだろう
赤子のように
無邪気であったら
この夜は
いつまでも
続いてしまうだろう
それでも
光は
いや、
それだからと云うべきか
光は
赤子のように
覚めては
眠り
知っては
忘れ
食べては
飢えて
きりが
無い
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はじめから
わかっていたこと
糸は
ほつれる
準備など
とうに整っていた
それでもなお
傷んでしまうのは
一筋縄にはいかない
飾りのせい
自由を知った
こころのせい
だからといって
責めないで
糸は
ほつれる
切り札も
持てず
に
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ええ、
確かに見ましたとも
それはそれは
物静かな横顔で
ついつい
見とれてしまうほどでしたから
間違いなど
ありません
あれは
確かに
月でした
ただ、
あれが
水の中だったのか
外だったのかと
訊かれると
わかりませんが
生憎、
こちらも
思案している途中でしたから
なにか、
思い出していたんじゃないでしょうか
そこらじゅう
水の匂いで
溢れていましたよ
いや、
今もですが
ええ、
間違いなく
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砂を砕くと
きれいに光る
音も
飛散も
きれいに光る
いのちは
風
風は
かなた
かなたは
流れ
流れは
渇き
ほら、
行き着く先は
砂の底
きれいに
終わる
すべては
光
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バス停は
しずかに濡れていて
時刻表には
ブレスの箇所が
しるされていて
そこにあるのは
文字ではなくて
数字でもなく
て
声は
とっくに
無力なのでした
何が
できるか
知れないけれど
見つめていたのは
てのひらで
望んでみたのは
晴れ間で
バス停に
触れることしか
できなく
て
干されたら、また
探しにきます
よく
わからない
ルーツに乗って
ケロリと
忘れて
アンブレラ
ら・ら
花の
陰から