詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
言いかけて、
やめた
そしりも不平も身勝手も
言いかけたから、
耳が困ってる
はっきりとは
もちろん聞いていない
でも、
ぼんやりとなら
聞いた気がして
耳が困ってる
だから、ね
取り除いてくれないかな
きみの手で
ただの汚れとして
取り除いてくれないかな
なんにも言わないで
優しくされたら
ぼくは上手に
胸にしまえる
そしたら耳も
もう、困らない
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
空から降りた
この雨の
いつ、を
えがこうと
わたしの自由
だから
わたしも
あまり多くを
気にかけないで
雨に
ふられる
ふれ、られる
しずくが
水面に還るとき
ちぎりのしるしに
指輪がうまれて
きらきら、
消える
それを
わたしは
どの岸辺から
見ていたのだろう
空から降りる
あの雨の
見てきたものを
わたしは知らない
水面に映る
わたしの顔は
どの
深みからの
視線だろう
この
手の届く
水は浅くて、
水面に映る
雲がゆれ
る
空から降りる
それ、が
雨なら
それ、の
降りたすべても
雨にほかならない
波間に
あらわれて、は
遠のいてゆく日々を
幾度も
飲み干してきた
砂、と
して
微細な空が
遠大な空を埋め尽くすから
遠大な空は
均衡を保つしかない
微細に、
保つしなかい
雨、のかなたに
あるいは底に
雨の隣、に
あるいは手中に
はじめから
決まりごとなど
なかったよう、に
雨は
ひとつになろうとしている
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
夕日が
あたたかい、だなんて
思わない
ぼくがすきなのは
夕日のいろで、
物悲しそうに
かつ、凛々しそうに
ぼくのすがおは
許されている
そんな確信が、
ある
だけど、
夕日が
ほんとは冷たいことは
わかっているから
ぼくは
燃えるしかないのだと
思う
それは唯一、
ぼくがひとりで
叶えられることなのだと
思う
信じることには
やさしく在りたいから
ぼくは
いまだに
匂いなんかを
うたってみせる
みつめ過ぎずに
済むように
思いのままに
走れるよう、に
果てしなく
きれいな嘘つきの
夕日を
背中
に
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
すっかり消えて
しまった
あとに、
思い知らされる
こころ細さがある
あれは
たいせつな
灯りであった、と
ちいさく震える
夜がある
通りには
風があふれていて
それゆえ無風、と
思い違えて
ひとは
寒さを語ることばに
長けてゆく
ひとり、
ちいさな灯りに笑んで
季節のめぐる
理由について、
わすれてしまうのは
しかたのないこと
だけど、
それは
じょうずに
迎えにくるから
ひとは
まもり、を
愛してやまない
やさしくなれない
日々だとしても
聴き続けている
うたがある
いいうたね、って
誰でも
いつでも
来られるように
閉じない扉を
きしませながら
ひとり、
客間をあたためて
あきらめたら、
きっと
知らないことが
ひとつ減る
けれど、
それを
喜びとは呼ばないことを
だれもが知っている
夜を、
終わるはずのない
夜を
すべての
暗がりを
見つめすぎてはならない
うしなっても
ならない
だから、
ちいさく
ちいさく揺れよう
灯りを
もって
みんな、
つながって
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
夕立のあとは
すっかり晴れて
青と
朱とが
きれいに
混じる
送電線には
数羽のからす
もうじき
日没後には
からすの色は
空と同じに
なる
だから
わたしは
確かめた
送電線の
ずっと向こう
黒と
呼ぶには
まだはやい
きれいな
混じりを
確かめた
風に
揺られる
わたしの髪にも
からすを数羽
休ませながら
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
寂しさが
つのるようなことばかり
追いかけているような
気がします、
毎日
だから、ほら
ぼくの靴は昨日より
すり減って
くたくた
です
どこか、
遠くへいけば
少しは楽になれますか
見上げた夜空に
星くずはまたたいて
ぼくは
そこに
なにかを
聴きたくて
聴けなくて
ひとり、
おだやかに
つまさきを
見つめ直しました
なるべく
ひとには
背を向けて
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
深まりゆく水に
あらがい続けた果てを
底とよぶ
深まりゆく水に
寄り添い続けた果ても
底とよぶ
そして
底から見上げるものは
みな明るくて
みな美しい
そんなやさしい真実が
深まりゆく水に
とけ込んでいる
そうとは知らずに
みんなみんな逃げるけど
逃げられるつもりで
逃げるけど
夜には
誰もが
見上げてる
深まりゆく水に
そまり始めたことなど
まったく知らないで
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
かがやいた、ら
それで終わり
わずか
数行の詩のような
流れ星です、
こんやも
けれど
それほど哀しくないのは
あんなにきれいな
一瞬だからで
私は
まるで
少女のように
宝石の名などを
並べたりして
かがやいたの、
です
だから
もう、終わり
きのうの私も
おとついの私も
わずか数行の
詩に込めます
そういうふうに
私は散ります
祈りも
はなも
よく似ているの、
です
あ
また
かがやいた、
です
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
夜は
かしこい生きものですから
ご注意を
いのちの歴史の
夜の多さが
無数の声を
放つのです
係のものはございません
ご注意を
揃った時計もございません
ご注意を
ただし
問い続けることが
いのちでございますので
それだけは
お忘れに
なりませぬよう
友の定義は自由です
愛の定義も
夢の定義も
自由です
それゆえどなたも
お連れさまには
ご注意を
夜は
かしこく
待っているのです
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
たわむれが
咲いて、
さい
て
羽のかたちで
だまりこくって
子どもはそれを
真似して
つづく
いのり、だね
放つかたちの
閉じない
ひなた
は
ときどき鋭くて
意地悪だけど
うそと
ほんとは
透明だから
だれのそらにも
染まりやすい
からっぽなのに
満ちすぎて、
しまう
かぜに住まう鳥だけが
そんなかじつを
知っている