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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[1039] ひだまり
詩人:千波 一也 [投票][編集]


袖にはいつも

きまぐれさんが住んでいて

ときどき、すこし、

わたしに優しい



 雲のかなたに広がるものや

 星の向こうに輝くものを

 いつからかわたしは

 素直に待てなくなった


 そっと

 もらして見せる溜め息さえも

 どこか計算高い

 まがいもの



手まりうた、なんてものを

わたしは全く知らないけれど

ときどき、身軽に、

うたいたくなる


聞いた覚えも

習ったためしも全くないのに

途方もなく懐かしい隙間が

わたしのどこかに埋まってる



 ひだまりは

 元来優しいわけではない

 罪人にとっての脅威は明るみなのだから

 ひだまわりは優しくない


 せめてもの悪知恵で

 せめてもの手つなぎで

 弱々しくも罪深い人間たちが

 優しいもの、と誤魔化したに過ぎないこと


 だから

 誰もが無言になりがちで

 誰もがどこか遠くを見てる

 ひとりぼっちで、ひだまりで



襟元には

いつか忘れてしまった息継ぎが眠っていて

わたしはずっと、ずっと、

それを上手に聞き流す


そうでもしないと

捕まえられてしまうから

むごいようでも、慈悲深い、

真夏の瞳に

黒点に


2011/08/04 (Thu)

[1038] とらわれごっこ
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アイスコーヒーのグラスから

氷の揺れる音がする


そんなとき

わたしは必ず

向こうを見ていて

身近なものの立てる響きに

微笑んでみる


なるべく優しく

微笑んでみる



空は

真っ青で、

どこまでも果てしなく

真っ青で


だから、空は

真っ白なのと変わりない


わたしが絵の具に悩めるさまを

見越して空は

ただただ広く


いつまで経っても

空は真っ白



シンデレラとか長者とか

カリスマだとか

達人だとか

正直いって気になるけれどわたしは少しも

わたしをやめない


明日になれば

明日を経れば

正直それが落ち着くところ


だからわたしは氷を盛って

グラスにたっぷり

氷を盛って

昼やすみ


そこそこ自由な

熱として



2011/08/03 (Wed)

[1037] てるてるぼうず
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しなやかな

金属みたいにまっすぐに

子どもは晴れを願います


てるてるぼうずは

それを

聞いたか

聞かぬか

わかりません


けれども確かにそこにいます

子どもが見上げるすぐそこに

てるてるぼうずは

いてくれます



ひとの世に

変わってはいけないものが

あるとしたら

かような

祈りのかたちが

挙げられるでしょう



晴れの日を願うことなど

めっきり減った大人はいつも

子どもの願いを

後押しします


その子のために

その子の笑顔のために、と

いつか自分が

同じくしてもらったように

子どもの願いを

復唱します


大人になった子から子へ

だれに

強制されるでもなく

まっすぐに信じるすべを

まっすぐに包み込むすべは

そうして継がれゆくのでしょう


それでもずっと

てるてるぼうずは寡黙なままで

聞いたか

聞かぬか

わかりませんが

それで良いのです


そうでなくては

ならないのです


2011/08/03 (Wed)

[1036] 調律
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きっと、

昔はあそこにすんでいた


時々

こころ細くなる日や

意味もなく弾む日や

笑って、笑って

沈み込みたくなる日があって

どうしようもなく、

あって


いたって普通の

イレギュラーな毎日の途中で

見上げる月は

いつも不思議で

いつもうつくしい

途方もなく、

うつくしい


だから

歌ってみるんです

嘘とか本当だとかの次元じゃなくて、

いつか

昔はあそこにすんでいた

きっと、

すんでいた

って

軽く歌ってみるんです


そうしたら

想いは案外

重くはなくて

軽くもなくて

ちょうどいいのかどうなのか

よくわからない

その感触に

夜はあって、

独自に

あって


気がつけば

この眼はとうに

つぎの翼を探してるんです、

月だって

ほら

静かながらも進んでる

したたかに

まことにしたたかに

進んでる


ふたつ、みっつと

レギュラーに。



2011/08/03 (Wed)

[1035] 虹を願う
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もう、

なにものにも

負けませんように、

進んでいけますように、


雨あがりの空に

虹をみつけたら、わたし

いつの間にか呟いてた


誰に

言わされるでもなく

わたし、呟いてた




子どもの頃はひたすらに

虹を描いてた


ななつ、

なないろ、と

合い言葉を身につけて

わたし、虹を描いてた




虹をみつけたら、

しあわせになれる、だなんて

そんな決まりは

どこにもない


だからこそ、

そのふところのいい加減さに

とても無防備に

満たされるのだ、と

おもう


ようやく抱いた

祈りとともに

わたしは、

虹に



2011/08/03 (Wed)

[1034] しあわせ
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ぽちょん、と

金魚をかたどるように

あなたは時々

ことばを

誤る


けれど

あなたの誤りかたは

どう透かしても虹だから

わたしもいまでは

すっかり晴れ好き



風船みたいな成功も

風船みたいな失敗も

そらの彼方できれいだろうね、

いまではすっかり

きれいだろうね


こんなふうに

頷いたきょうの日も

じわじわしずかに

きのうへ

向かう



迷路のなかに

日常があるのなら

わたしはあまりに恵まれた果実だと思う


過ちを

豊かに積み上げることが

迷路に住まうしきたりだから

わたしはあまりに恵まれている、と

ときどき安らぐ



そうして

わたしが笑むときは

あなたは決まって

同調したり

相反したり

自分を囲うやわらかな温もりのなかで

精一杯に格闘している


わたしはあなたの敵ではなくて

わたしはあなたの味方でもない

ただただ同じであって

その

同じ、の意味が

ほんの少しほろ苦い

ただそれだけ



なかなか素直に

飲み込めなくても



2011/08/02 (Tue)

[1033] 午睡
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わたしが覚えた涙のあまみは

傍らの辞書によれば

もろみ、と呼ぶそうで

カーテン越しの陽射しの匂いは

ときどき広くて

ときどき鋭い



いつか見た夢の数々が

今でもずっと夢なのは

否めようにも否めない

まるで優しい足枷みたい




息継ぎを忘れたら

魚になれるものであろうか

いつでもどこでも空をも往ける

きれいな魚になれるだろうか


ひっそり小出しにする嘘ならば

手のひらに負える重さが良い




まぶたを閉じても瞳はまるい

見えないからこそ尚更まるい


そこに名付けられた呼び方を

わたしは知りえないけれど

約束、という響きかたが

わたしの胸には温かい



両目でゆらりと宙を泳いだら

もうすぐ蝶々が舞ってくる

ひとつふたつと

多彩に結ばれて



2011/08/02 (Tue)

[1032] ひとのにおい
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ひとの

においの

消し去りかたは

夢を断つこと

きっぱり、

断つこと


けれどもそれが

叶わぬならば

甘えていなさい

ひとの

においに

その温もりに


まだ見ぬ

すべてのものごとを

ひとは呼びます

夢だ、と

呼びます

けれども信ずることなかれ

それらが

叶わぬものごと




ひとの

においは

けもののにおい

いのちに惑い

いのちに

すがる

だれにも裁けぬ

真摯な

におい


ゆめゆめ夢に

飲まれるなかれ

されど

うつつに

ひれ伏すなかれ


精一杯に、

精一杯にあらがってこそ

挑んでこその

好き好きで

あろう


語るものには

語らせておけ

それが

まったく

ひとの

においと

危ぶみながら


2011/08/02 (Tue)

[1031] 獅子座ものがたり
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その夕刻は

果てなく寂しい金色でした


誰か、

いや、何かに

からめとられたような拙さが

その時ばかりは輝いて

どんなに小さな約束ごとでも

あなたにやさしい髪飾りとなって

わたしは長く

見惚れていました



もう、

どこへも逃げられない花の名は

儚いからこそ残酷で

それゆえ甘く、芳醇で

「美しい」だなんて一言に

何度となく

咲いては散って

散っては咲いていくのでしょう


瞬きの間に

夜がしっかり満ちゆくように



海をめぐる水たちは

青く描かれることが多いけれど

あなたやわたしの

身をめぐる水たちは

どんな色に落ち着くべきなのでしょう


わからないほうが

幸せなこともあるけれど

わからな過ぎては失ってしまう、と

確たる根拠もなく信じて

はからずも疑いは

無限に続きます


だから

ほら、目を閉じて

今すぐに


なにごとも

あなたの命を

たやすく消したりしないから

ささやかな呼吸のひとつと思って

すこしだけ

ください


あなたに口づける

隙間をください


永遠の

かわりに


2011/08/02 (Tue)

[1030] 果実未満
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まるで

夕立みたいな後悔のあとで

ぼくたちはまた

眠りへ向かう


汗と涙の共通点は

においのあるところで

においの流れ方だけがすこし違う

とても違う


虹がきれいに架かるとき

ぼくらは決まって潮騒のなか

遠かったり近かったり

全く同じ潮騒のなか


聞こえる言葉は稲妻みたいで

瞬きの間に溶けてしまう

それゆえ映画は

無くならない


まるで

凍土みたいな記憶をもって

ぼくたちはただ

夕焼けを見る


数えきれないほんとの嘘たちが

二度と苦しみませんように

傷みませんように、って

愚かなくらいに美しく



2011/08/02 (Tue)
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