詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
パークは閉園時刻を迎えて
ゆったりとした人波が
流れはじめる
夕暮れが終わりかけたときから
こんな光景をわたしは
切なく描いたけれど
そう、
確かに実際は
切なかったけれど
皆が一つに流れる様と
皆が同じく寂しげで
また、皆が同じく微笑む様とに
安堵を覚えたのも
確かであって
嬉々として
また、名残惜しそうに
人波は綺麗なライトの海を泳ぐ
ゆったり泳ぐ
真っ暗な夜だというのに
この上もなく
明々と
たまたまの一日を共有した人たちとは
別れの挨拶など交わさない
それなのに
心のどこかで
それぞれの帰路や、会話や、表情を
気にしてしまう
人が
人を思う気持ちは
街灯に照らされる影のように
ぼんやりと気まぐれだ
しかし、
失えない
パークは閉園時刻を迎えて
人々はバラバラの帰路につく
「輪廻とやらもこんなふうだろうか」と
わたしはそっと時計を見つめた
綺麗なライトの反射を浴びて
優しくみえた
駅の時計を
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指のさき
雪がひとひら、消えました
わたしの熱を、あら熱を
かくまうように
消えました
うなずくべきことなど
何もないけれど、
わたしは確かに
うなずきました
すべて、
わたしはこんなふうに
失くしてゆくのでしょう
この指に降りたものは
雪でした
しかしながら、
消えていったそのあとまで
雪と呼ぶのはふしぎです
もう呼べないけれど
呼べる気がする雪と似て
わたしの時が
つもります
必ずめぐる冬の日に
この身をぬくめるすべとして
わたし、
すべてを
失くしてゆくのでしょう
孤独の底に
落ちないように
孤独が底に落ちないように、
微笑みながら
わたしは
ずっと
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わたしたちを彩る
おもいでの確かさは
星座のそれと
とても似ていて
必ず
遠くで
きれいに滅する
届き過ぎたら
きっとわたしたち
狂ってしまうから
ほんのわずかな
痛みも伴わずに済むように
おもいでを
ゆっくり
静かに
変えてゆく
時は
流れを止められないから
進んでゆくことが
わたしたちの務め
それでも時に
振り返りたくなることも
わたしたちにとって
欠くわけには
いかない
務め
それならば
確かであるべきは
時を通過したということ
今ここで
おもいでとして呼べること
図らずも
難しいことばかりに
出会えてしまうけれど
それも
やがては
星座になろう
たとえばすべてが解け合うように
この
八月の
降る頃に
秋の
まよいを
音も立てずに
踏みしめながら
おもいでたちは確かになろう
この八月の降る頃に
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寝返りを打つような
時計のリズム、
と
誤解して
透き間をのぞく
カーテンの、
向こう
けだるく
染まる週末と
けだるくなれない平日と
どちらの自分が本物だろう、
と
不思議もつかのま。
リアルの淵で
あくびを
許す
そんな僕だから
僕たちだから、
コーヒーの落ちる
湯気を
聴いていたいね
スタイリッシュに。
どことなく
いつもと違う感じの
いつもと同じ
ひかりの
途中で。
遅く起きた朝は
自分の可笑しさが
程よく
なぜだか
清々しくて、
「まぼろし辺りが幸せだ」
などと謎めいてみる。
傾くことに
恵まれなければ
傷ついてばかり、だと思う
途方もなく。
だから
僕たちは
このままでいい
このままが、いい。
またひとつ
ゆっくり、底で口づけをしよう。
遅く起きた朝は
僕たちは、
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滅びの歌に怯むとき
ひとつの命を
わたしは
築く
終わるわけにはいかない
消えるわけにはいかない
と、
明日を願って
止まないで
陰鬱な影の主が
華やかな都であることも
時には有るだろう
万能ではない
直感に
どれほど
背いていけるかが
わたしにとっては
ふたつめの
太陽だ
滅びの歌に怯むとき
この手をこぼれる
光が見える、
はじめて
見える
そこに
わたしは
乗せられたような気がするし
はじめから乗っていたようにも
思えてしまう
何ひとつ
容易くは解せないけれど
滅びの歌に怯むとき
わたしは確かに
此処に在る
強固な
刹那
に
生まれ続ける
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中途半端な
自分自身のため息に
なんだかわらえた
正午まえ
背中の窓に
耳をすませば
いそがしそうな
鳥のこえ
わたしは
いっそう可笑しくなって
シャツのボタンを
ひとつ緩める
久方ぶりの
遠足みたいに
空のあおさを吸いこめば
四角いガラスは
とけてゆく
雲の
居場所を
知らせるように
毎日は
似ているけれど
少しずつ違う
確実に、
違う
たとえば
雲の横顔に
淡く
むかしを
見るような
自然な連鎖が毎日で
雲は
形を変えても雲であり
そんな簡単なことが
なかなか難しい
だからわたしは
ときどき適度に
荷を下ろす
雲に
習って
身をまかす
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ひかり、ってものに
形はないはず
だが
あかり取り、なんて
名のつく窓が
あるわけで
つい
つい
形を
みてしまう
そこには無いけれど
確かに、
無いけれど
あかりの姿が
みえてしまう
これは
とんでもなく
おそろしいことの
はず
なのに
おれたちは
間違ってなんかいない、と
自信をもって
間違えられる
あかり取りの窓さんよ、
よろこびってのは
そういうもん
だよな
悪く
ない
よな
あたたかい、
よな
闇、ってものにも
形はないはず
だが
おれらは
眠りにつく前に
そらの
窓から
闇を
みる
闇の形、と
呼びうるものに
せなかを
向けて
寝息を
立てる
あしたも続く
よろこびのため
よろこびのなか
負けないように
すすむ
ため
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この
ぬけがらの主は
きっと
りっぱな
成長をとげて
そっと
どこかで
息絶えただろう
どんな夕日を
浴びたのだろうか
どんな夜露に
濡れただろうか
どこで勇気を
覚えただろうか
どこで恐怖を
捨てたのだろうか
この
ぬけがらの主が
とうに
果てた後だとしても
残したものは
必ずある
はず
同盟めいた
思いを
胸に
草生う道で
会釈をひとつ
夕焼けのなか
とんぼが過ぎて
とおい真夏へ
向かってく
ぬけがらの上を
信じるものを
まっすぐ
束ねて
透明
に
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いのちを終える
瞬間の
あの
星が
そう、
うらみ星
ひとは
ひとつの星の
死をわすれ
きれいとよろこび
願いごとさえ託すから
夜空は
闇を
なお
深めゆく
ごらん
すぅ、っと
ひとすじ流れゆくもの
あれが
そう、
うらみ星
はかり知れない怨念に
こころの奥まで
染められて
きれい、と
焦がれる
ぼくたちは
そう、
たやすく
死んではいられない
生きるということが
どこか
呪縛めいて
めぐるけど
身代わりに
ひとすじたちの身代わりに
うらみのすべてを
聞けない代わりに
ぼくたちは、
在る
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公園で
けんかをはじめた子どもたち
だけど
けんかの理由は
ささいなことだから
長続きなんかしなくて
ほら、
すぐにまた
駆けはじめる
ふくれたままの
顔もあるけど
上手に
時間を味方につけて
みんなで忘れて
みんなで
次の
未知なるものへ
駆けていく
みんながみんな
同じになんてなれないし
そんな必要もない
だからこそ
ひとり
ひとりが
おもしろくって
みんなが
ひとつに
なっていく
公園の
向こうへ行った子どもたち
その
余韻のような
風に抱かれて
わたしは本の
続きと親しむ
きまぐれな
博士の帰りを待つように
して