詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
じぶんの顔を
真正面から
見ることは
じぶんをやめなきゃ
叶わない
けど
鏡をのぞけば
それなりに
じぶんの顔を
知った気に
なる
ほんとは全然
叶ってなんかいないのに
なんとなく
叶った気がする
そういう
こまかいことを
気にして
気にして
答はどこだ、と
絶叫して
病んでしまうような
じぶんでなくて
ほんとに
良かった
と、
ぽりぽり
ぼくは顔をかく
顔は
全然見えないけれど
たとえばこの指なんかは
まったく見えるし
まったく自由に
動くから
ぼくは
ぽりぽり
顔をかく
いかにも
平和に
鏡の前で
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ふぞろいな
ひとりひとりの
でこぼこを
いちいち罵倒するのは
たいへんな
労力だから
さ
どうせ疲れることなら
お互いのでこぼこを
いつくしみ合って
さ
不慣れな
感じで
たたえ合って
さ
なんだか
おれたちおかしいな、
って
ほほ肉と
腹のすじとが
痛くなるふうに
わらって
疲れるほうが
健康ってもんさ
そうだろ、
な
だから
おれたち
これでいいのさ
ふぞろいでも
でこぼこでも
抱いてるものは
きっと同じ
さ
見つめるさきは
きっと同じ
さ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
直線を
少しでも
かしげたら、
斜線
と、
こわれやすいものを
扱うように
呼び名を
わたしは
たしかめる
そんな
わたしは
直線だろうか
斜線であろうか
少し、
ほんの少しの
傾き次第で
みんな
こわれてしまうから
わたしは
ひとを、
わたしでさえも
迷わせる
直線が
成り立つわけは
斜線にあって
斜線も同じく
直線に
よる
だからこそ
どちらでも良いのだし
どちらかでなければ
ならないのだし、
わたし
そこそこ
複雑な
わかりやすさを
いきている
斜めであるほど
真っ直ぐ
に
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ねじが切れると
メロディは
ゆっくり
終わりを
始める
それは
寂しいけれど
唐突ではないあたりが
優しくて
たぶん
わたしの一生も
こんなふうに
終わりを始めるのだろう、と
最後の
メロディの
続くともしれない
続きを
待っていた
近ごろ
少し
涙もろくて
許せることが
ふえた気がして
ときどき
つい
昨日のことさえ
懐かしくなる
もう
戻れない
時間はいつも
空を
横切る
とぎれた
メロディ
あと何回
ねじが切れても
まき直せるか
そっと
わたしは
聞き耳立てて
運河の
風を
浴びている
終わりは
さほど哀しくない
メロディに
帰って
ゆけるなら
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さざなみは
優しい顔して
ぼくらをつかまえる
数え足りるくらいしか
ぼくらは夏を
めぐっていない
それなのに、
ぼくらは
もう
夏のなかでしか
生きられないような
生きてはいけないような
焦りが
しずかに
かさなって
聞こえてくるのは
さざなみだけ
で
言葉に
できないものなど
どこにも無いよ
ただ
ぼくたちは
乾いていくから
間に合わないことは
数多くある
うるおうことが
言葉の権利で
それを
ぼくらは
忘れやすい
さざなみは
正直すぎるうそつきで
ぼくらのつよさを
さらってく
優しい顔して
うるおって
夏を
無限に
語らせて
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風の
含んだ栄養を
いいだけ食べたら
夢見の時刻
よいことも
よくないことも
よい、を満たしうる
定義のことも
ときが
過ぎれば
牧草になる
風に
吹かれて
栄養をまた蓄えて
それでもやはり
牧草らしく
ただ
揺られるだけの
いたって
平和な
牧草となる
それを
わたしは
いいだけ食べて
やはりまた
牧草に
する
のんきなままでよいような
のんきなままでは
よくないような
そして
のんきと
よい、とを満たしうる
定義を考え
木曜日、
ひどくおもたく
ひどく平和な
ゆらゆら
ほわわ、が
わたしの
近くで
鳴いている
そんな気がする
木曜日
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この腕に
守れるものなど少なくて
そのくせなにかを
守ってみたくて
だから
たとえば
波打ち際で
きれいな貝殻を
探してる
きみは
きれいな貝殻を
よろこぶだろうから
きみを
よろこばせることは
守りのひとつで
あるはずで
ぼくは
きれいな貝殻を
探してる
貝殻は
その身の奥で
言葉を守る、ってね
昔なにかで読んだんだ
ぼくも
この身の奥で
言葉を守ってる
はじめて告げた誓いのことや
きみからもらった
優しさ
弱さ
ぼくは
守ってる
波音が
心地よいね
ぼくたちをつれ去らない
波音は安心するよね
こんな言葉も
貝殻はその身の奥にしまうかな
波打ち際で
きれいに黙って
ぼくたちみたいに
なにかを
信じて
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ここしばらくは
疲れ過ぎていたから
なんら記号と変わりなかった
わたしの名前
わたしを呼ぶひとは
わたしを必要としているけれど
その必要を満たすのが
わたしである必要は
どれほどだろうか
生きるということは、
傷むことなんだね
そっと
耐えることなんだね
じっと
これまでと
これからと
ひとりきりでも大丈夫
そんな弱みが
ひとりぼっちで震える頃に、
わたしだけを指す
ふるい呼び名が
聞こえ出す
戻ってはならない
なつかしい風上から
進みなさい、と声がする
逃げ出すことは、
やさしく見えて
厳しいからね
ちいさなわたしに守れるものは
この身のふるさと
あたらしさ
それが
奇跡とおもえる日まで
わたしはこの名を
生きていく
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
水に
突き刺さることができるのは
真夏のひかり
真夏、という
ひかり
湖面にそそぐ陽光は
銀のうろこの魚に変わる
気ままに歌うぼくたちは
それを統括する竪琴で
自分にすなおな
人魚さながら
風が往く
水に映るのは
山がいい
動かない、ということが
ささやかに崩れて見えるから
そういう意味では
雲も同じ扱いになるけれど
雲は純情すぎて
ときどき
ずるい
木々のにおいは
水につながる
そのことは
実に緻密な不思議であって
緑の向こうの金色に
やすらぎながら
なお潤って
水は
自分が水であるために
真夏のひかりに
囲わせている
つとめてしずかな
命令で
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わたしは
風をおよぐのがすきだから
太陽との相性は
とてもいいのだと
思う
汗ばむ腕と首筋に
水の匂いがたむろして
わたしをいっそう
およがせる
夏にはもともと
欲が無い
はだかのけものが
勝手にさわいで飾るだけ
だから、ほら
けものの寝床と同じ匂いが
そこいら中にたちこめる
なんだかとっても
懐かしげにね
自由には
ぬるめの気温がちょうどいい
ほどよく疎遠な季節を浴びて
わたしを染める
わたしが
聞こえ、
る
もどかしい
ひかりのなかの答に触れて
わたしはゆらり、と
わたしの分だけ
夏を漕ぐ
どこまでも濃い
匂いのなかで