詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
夢の続きを見るために
ぬぐいきれない
やさしさに染む
夜に泣き
夜を咲かせて
また夢になり
夢の続きを見るために
つかい慣れない
火に冷める
いつからか
朝の定義が
明けなくなって
あやまちを
つないできたのは何がため
あやまちを
非難し
許し
そのたびそれが
恋しくなって
夢の続きを見るために
夢という名は
捨てられ
拾われ
くり返し
欠けては満ちる夢となる
しあわせの
具象もどこかそれと似ていて
たやすい言葉に
消えやすい
夢の続きを見るために
空からこぼれた魔術をひとつ
そっと含んで
言葉は生まれ
それを求める旅人が
無限の果てまで
重なってゆく
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
この世にひょい、と
生まれたわたしを
どう思おうと
わたしの自由
どう思われても
わたしは自由
つまりは
すべて、予定のとおり
未定という名が
いついつまでも
予定のとおりであるように
この世が仮に空だとすれば
わたしはいつでも
降りてしまえる
この世が仮に闇だとすれば
わたしはいつでも
照らしてしまえる
当旅客機は
必ずどこか目的の地を
どことは決めずに
追い求めます
はじめて知った青色が
透けてみえたら
素敵だね
はじめて知った青色が
くすんでみえても
素敵だね
予定のとおりの
未定の世界は
まったく
怖くて
まったく
優しい
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
雨のなか、
竜が
咲いていた
それは
瞳が
見たのだったか、
耳が
聴いたの
だったか、
あまり上手に
思い出せないけれど、
あ、お、
夏には遠い未熟な夏が
空へと一途に
澄み渡り、
ぬくもるような
胸の痛みが
目を
覚ます
雨のなか、
いまでも竜は
咲いている
透明に、
ひとつの雨の
無限を
翔けて
降りそそぎ、
降りそそぐ日を
咲いている
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
空へと続く
いくつかの道すじがあり、
それらはやがて
空を流れて
空になる
それゆえ
空への道すじを
川と呼んでもよかろうか
しずくはどれも
はじめは少し冷たくて
次第に
おおきく
とけてゆく
果たしてそれが、
その
意味が
哀しみなのかはわからない
歓びなのかもわからない
それはただ
とどまることなく
ほどけてみせる
空へと続く
いくつかの道すじがあり、
わたしは時々
そこをのぼって居たり
そこをおもって
ここに居たり
する
それゆえ
空への道すじが
終わることなどあり得ない
そうしていつも
川を聴く
川はただ、
川を流れて
川になる
いともたやすく
沁みてくる
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
赤い夕日を浴びたのに
かげだけ黒い、
そのふしぎ。
草木も花も野も山も
おなじくみどりと
呼ばれる、
ふしぎ。
波の青さにあらわれて
透きとおってゆく、
こころたち。
空の青さにつつまれて
あかるく深まる、
こころたち。
こころは一体、
何いろに染まれば
よいのだろう。
黒い瞳の奥底で
澄んだ涙が
あふれる、
ふしぎ。
冷たく白い雪のなか
ももいろに咲く
この身の、
ふしぎ。
こころたち、
いつでも上手に
忘れてゆくから
いつでも上手に
思い出す。
ふしぎはいつでも形を変えて、
それでもふしぎと
見つかる、
ふしぎ。
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
氷の川を
停められるのは
時の流れにせせらぐ命
つめたさを
うたう刹那が底にあり、
静けさを
砕く車輪が
渡りゆくから、
氷の川は
停まらない
だれかの水が濁るとき
あるいはだれかが
濁すとき
時々まがいの
氷が寄せる
それでも心は
まわり、まわって
だれもがそっと
川になる
だれの水にも
どんな水にも
契りの川が
きっと
ある
氷の川の
岸辺に立つとき
おのれの脚は踏みとどまる
姿をもたない言葉の流れを
知らず知らずに
聞き分けて
けれど時々
まがいの氷に寄せられて
停まらずにある
はじまりと
なる
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
しずかな雪のあいだから
わずかに土が
見えるとき
わたしは灰の
そらを見あげる
まだそこに
凍えるものはありますか、
小さな呼吸は
ぽつり、と白く
あたたかそうに消えてゆく
この手はいつも
透明なものを握っていて
そういう事実たちに
握られてもいる
何度でも、
正確すぎる春にふれ
わたしは染まりつづけます
思い出すでしょう、
なつかしい匂いと
過ぎゆく風を
そらから始まる雪たちが
もうじきそらに終わるころ
わたしは切符の
滲みをたどる
わたしの生んだ文字たちの
姿をそこに確かめて
まもなく
列車がまいります、
いつか、のために
いつかを
乗せて
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
今年
いちばんの正直者が
各地で猛威を振るっています
不満なことには覆いをせずに
可笑しいことなら囲いをはずし
感じたことを
感じたままに
まもなく
無上のわかりやすさが
拡大勢力を増すでしょう
涙のひとには理由を語らせ
倒れたひとには経緯を書かせて
笑顔から遠いひとびとも
笑顔に近いひとびとも
まったく等しく
なるでしょう
一方で
うそつきは
かなしくなる見込みです
うそという概念が
あまりにも歪み過ぎたため
各地では修復作業に
追われています
いや、
見限ったといっても
過言ではないでしょう
姿の見えがたいやさしさが
消失してしまわぬよう
警戒が必要です
しかしながら
それを逆手にとった悪意にも
十分ご注意ください
今年
いちばんの正直者が
見境のない正直者ばかりが
その猛威を許され始めています
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
ありのままに
よごれていけたら、いいね
きっと、
すべてを
にくめぬように
そまればいい、
ただ
たとえ
だれかが
よごれ、とよんでも
それはかならず
うつくしい
ありのままに
さびしくなればいい、ね
つよいにんげんを
どこまでもつよい、にんげんを
だれかがいつか
ゆめみて
しまった、
だけれどそれは
まったくわるいことではなくて
ゆっくり、じっくり
ほのおにかわる
たまたまの
さびしさが
ときどきただしい、のは
そういうりゆう
だから、てを、
てをさしのべて
ありのままに
おわれたらいい、ね
まちがいなく、
わずかばかりのかなしみも
だれかにとっては
よろこびなのだし
だれかにとっては
はじまりになる
ありのままに、ね
ただ
ありのまま
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
冬の辞書には
牙が満ちている
燃えようとして
生きようと、
して
裏も表もなく
ただ、それゆえに
いたわりがたい
鋭さが
ある
つめたさに似た
熱量、として
定義にふれる途中の者は
不完全なる
凍傷だ
冬の辞書には
それを癒しうるすべが
ありありと
溢れ、
同じ分だけ
消えてしまう
牙のかげに、
素朴で
従順な
牙のかげに、
救いの痛みはあるのだろう
刻まれてゆくことの
いさぎよい
悲しみが
冬の辞書には
満ちている
ときどき
上手に逃げそこなって