詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
つめたい手には
ひとのこころのぬくみが宿ると
いつかだれかに聞いたから
わたしはこの手の
ぬくさを
恥じる
あこがれや
ねがいはなぜに
こころをつめたく
さますのだろう
それゆえこの身は
ねたみや焦りの熱をもち
さますべくして
さますさなかに
また新しく
熱をうむ
ひとと
ひととを
くらべれば
かなしいこともあるけれど
くらべなければ
かなしいままの
こともある
こころを知るということは
なし遂げ難い
やさしさだ
つめたい手には
ひとのこころのぬくみが宿ると
いつかだれかに聞いてから
わたしはこの手に
汗だけ握る
寒く乾いてゆく汗に
わたしは熱を終えられず
だれかの語りに
こごえ、ふるえる
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ありのまま、
あるがままの姿であれと
ひとは口々にいうけれど
途方もない約束を
捨てたくなくて
潰れてみたり
飾りのつもりが
汚れてみたり
だれかが痛まず済むように
代わりに深く
傷を負ったり
やさしさの途中で
うそに染められたり
小さなおのれを脱ぎすてたくて
愚かなおのれを覚悟のうえで
ひたすらつよく
はまる弱さは
ありのまま、とは
呼べないだろうか
ひとりの力は
ほんのわずかだ
それゆえ狭い真実だ
ならば、
その檻を打破しようとする
叫びこそ
ひとの、
けものの、
本質ではなかったか
夢まぼろしに
ひれ伏すことなく
紛れることなく
不器用でいい
不自然でも、いい
変わろうとする流れのそこへ
その身ひとつで
立ち向かえ
等身大の名に挑め
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待たされすぎた過ちが
無風のなかをざわめいている
低く、
そらへと
這いだす者を
あやぶむ声はいつも、高い
わかれたはずの
軌道の彼方、
もっとも遠い行く末を
かぼそい肩で
温めて
たとえば星を奏でるように
浅瀬の深く、
傷を抱く
聡明な、鏡をここへ
銀色は
まぶしすぎるがゆえ
やさしさを内包しては
いるけれど
明らかに、
まっすぐな逃避と希求には
かなわない
仰いで、
みえないならば
なおさらに、仰いで
そらは、森
海という名の迷いのおもてを
吸いあげながら
揺れる命の
温床となる
月は、
まもなく昇るだろう
癒すでもなく
ただ聡明に
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それは
見覚えのある目
はっきりとは覚えておらず
覚えておけるはずもなく
覚えておいては
いけない
気もする
或いはそれは
鳴りやまない声
欲しがるように
さげすむように
さえずるように
凍えるように
だれだっただろう
なぜだっただろう
乾いていかない
行き止まり
そうしてそれは
ふしぎな匂い
ごまかしきれず
逃げきれず
断りきれず
待ちきれず
最後はいつも
こちらの方が捕らわれる
底なしの
あぶくが無数につながって
暗く
重たく
底になる
だれかのためにその底は
必ず不穏に
ないている
それは
終わりのないはじまり
逆でも良いけれど
逆でも良い
けれど
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希望はいつも闇のなか
ひかりを見つめて
底にある
たとえはぐれてしまっても
上手にわらって
すむように
すべての虚言を
やさしく包み
希望はいつも闇のなか
傷つきやすい悲しみよ
ほどかれやすい
喜びよ
他人の日々を
見落としながら
まもれぬことばが
ふえてゆく
希望はいつも闇のなか
もっともちかく
最果てにある
愛するべきと闘うべきと
おそれるべきと
親しむべきと
いのちの限りを
輝いて
希望はいつも闇のなか
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きみは
難しいのに やわらかい
それゆえぼくは
ひたすら探す
約束 だとか
真心 だとか
きみを
いつでも
曇らせぬよう
ひたすら ぼくは
言葉をさがす
だけど結局
なんにも言えずに
たびたび ぼくは
ちいさく黙る
ともすれば
ふしぎはときどき針になるから
きみの
いたみを
気にしながらも
たびたび ぼくは
ちいさく黙る
きみの目の
いたみの向こうに
触れるとき
きみは
ふしぎな
笑みをこぼすね
だからぼくらは
ぼくの 子どもは
ちくり、とするんだ
許されたくて
ぼくは まだ
ぼくであり続けることさえ
もどかしい から
やさしくなりたい
そう 願うだけ
やさしくなりたい
やさしく
なれない
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だらしがないのは
知っていた
それを
やすやすとは
止められない理由など
どこにも無いことも
知っていた
首筋に
金属めいた
未熟な匂いを漂わせ
夢中になりたくて
ひたすらに燃えてみせた
けれどもそれは
まもりのための火ではなく
知らずに寒さを
散らせる火
いち足すいちを覚えることが
しあわせだとは思えずに
あおの波紋に
身を震わせた
あたりまえ、という言葉が
踏みつけてゆくものを
蹴飛ばしたくなかった
ほんとうは
影を教わる
夕日のなかで
土の匂いに抱かれながら
靴の
かかとを踏んでいた
甘えでも
おろかでも
だれかにやさしく
なれないものか、と
さびしい嘘に
すがってた
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空の名は
曇ることが ない
大雨だろうと
快晴だろうと
空は、空
不純なものの一切を
それとは知らずに
ながらく含み
おそらく とわに
静止をしたまま
そうして
さらに空の名は
澄み渡ることが ない
たとえば
月のまじないも
たとえば雪のささやきも
それぞれ同じ重さでは
ひとの肩へは
降りてこない
誰のせいでもない けれど
誰のせい でもないがため
なおさら空は 空の名は
願いのかなたへ
放たれてゆく
続きを誰にも
のこせずに
空の名は
それを呼ぶものと
呼ばぬものと を
分けることなく
通過する
探してみせる起源のはしに
いつでも風を
おどらせて
正しさと過ちとを
包み隠さず
包み
隠さず
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
愛されたい、と
嫌われたくない、とは
ちがいます
勝ちたいことと
負けたくないこととも
ちがいます
反することと
似ていることとは
同じであって
ひとの数だけ
同じ、は
ちがう
つまり
すべては
バラバラに
保持しているのだ
スタンスを
はじめまして、と
お元気で、とは
ちがいません
失うことと
うまれることとも
ちがいません
そうしていのちは
いのちの
うたは
流れを絶えずに
つづきます
わたしもあなたも
だれも皆
不安に、
果敢に、
一目散に、
まったくひとしく
あるのです
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傷つけられた一言を
あとから何度も
思い出す
酌(く)むべき意味が
あったのかもしれない、と
一人でそっと
思い出す
けれどもそれは
あらたに痛みを増やすだけ
やっぱりそうか、と
うなだれるだけ
それでもときに
恥ずべき己がみつかって
やさしい刃のかすめるように
厭(いと)うに足らない
痛みをおぼえる
ひとは
哀しい機械です
壊され方やなおされ方を
迎えるでもなく
拒むでもなく
かぼそい指に
触れたものだけ
何度も
何度も
ただ確かめる
違わぬことは
おろかなほどの
リピートです
正しいこと、とは
何だろう
幾つもみつけて
幾つもうしなう疑いのなか
ひとのこころは精密に
信じることを
思い出す
何度も違わず
機能する