詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
不自由は
ひとつの自由の答えだろうか
迷いと混ざり
散りゆくひかりを
なつかしく嗅ぎ
瞳をほそめる
夏の滲みの
あふれるかたわら
両手にかぜを伝わらせ
海から
距離をおそわる午後は
やさしさの満ちる
音がする
空高く
はばたく鳥への
あこがれも、そう
小さく
しずかに
透きとおって
波音たちは
くり返す
探すともなく
探していたのは
誰もが違う、という許し
変わることのない包まれ方で
ひとり言から
にごりを
除き
あした、また
誰かが答えをはなすだろう
ただそれだけは
確かにここへ
聞こえくる
淀みのはるか
かなたから
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いくさ、という発音に
引き戻されてしまわぬよう
平和とよばれるうたかたを
つぎからつぎへ
渡らぬよう
なぞりやすさは滑りやすくて
おとした角が膨らんでゆく
ひらたいよるを
ずしり、と重く
沈殿させる
隠しごとに背いてしまえば
えがおはきっと絶えるだろう
わかりやすさを縛りつければ
なみだにそっと
涸れるだろう
おぼえていない決まりごとから
もっとも近しい地平には
きょうもしずかな
雨が降る
ちぎり、
かすかに匂わせて
ことば少なく
砂の果てから
誇り、とよく似た刀剣を
おさなき者へ突き立てぬよう
まもりのはずの糸のうち
からめとられて
しまわぬよう
あるはずもない
始まり方の隙間から
かけらはきれいに
あふれてゆける
かけらのすべを
失うことなく
うつくしく
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さすらいの
すべてがやさしく
しみるとき
風の
しるべの
まぶしさが、近い
背中や肩を
通うながれは
さらわれまい、とした
ひとつの道すじ
だれかの瞳に
年月に
たしかに
運ばれゆくだろう
戻ろうと願ったり
かなわぬことを
告げられたり
ひとつの意味が
無数に咲いて
無数にとじて
その、
呼び声を生む温もりへ
かさなり、錆びつく
羅針盤の日々
群れをなすほど募る孤独に
ゆくえ知れず、は
あふれてやまず
どこかかなしく
響くめぐみと
形を
なせない
雨とは似ている
そむき忘れる
ときの寄る辺に
淡く
線路が
燃えてゆく
ゆめ、の面影
いくつも載せて
すり抜け
て
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わたしのなかの夏、が
嘘をついている
生まれたばかりのやさしさと
おぼえて間もない過ちに
うっすら、として
汗をかき
絶え間ほどよく
やわらかく
涙の意味が熟するように
約束、は
交わることを
求めてやまない
くちびる、が
言葉とよく似た
なにかに
慣れて
うた、はもう
手のとどかない真実となる
わたしのための銀色、を
隠しきれずに
夕暮れは
熱をふらせて
近く、にかおる
水がゆえ
水から遠く、
五月を満ちて
こぼれ、
はじまって、ゆく
恵まれた
欠落
正しい呼吸、は
あたらしく
常に
まぶしく
透けてゆく
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迷いや憂いが
くもらぬように
目から
胸から
耳の奥から
にごりに満ちて
澄み渡れ、
春
愛するべきと
かなしむべきと
つつしむべきと叫ぶべきとに
挟まれ
まもられ
恥じらい、やすらぐ
どうしてだろうか
弱さや
もろさや
頼りなさほど
捨ててはおけずに
重ね
重なる
押され押されて
なおつぶれても
灯りのような
ひとみを
もって
晴れてゆく疑いに
沈み
しずかに
眠れるように
澄み渡れ、
春
傷つきやすい直線と
よく似た背中へ
まっすぐに
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風を
くぐりぬけると
また新しく
風がある
ときにあばれて
ときに乱して
かろやかだったり
微かであったり
あらゆる表情を持ちつつも
ひとつにまぜた
名前で呼ばれ
それを
知ってか知らずか
風はときおり
ぱたり、と
とまる
ひとつの訴えかもしれないそれを
容易に見過ごしてしまう
わたしたち
めぐりあう風は
ひとつひとつが
ちがうのだろうか
それとも
おおきなひとつだろうか
わからなさを
上手につれて
わたしたちはまた
風をくぐる
こまやかに
こまやかに
動をなす
ここは風のくに
個々に織りなしてゆく
風たちのくに
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どこか遠くへおもむけば
わたしの近く、が増してゆく
いつも近くの
わたしのつねを
だれかは、異国と
語るだろう
冷静に燃えながら
情熱的にこごえ
停止する
四月、
ほんとの陰と
ほんとの日向とを
おもむろに、
奪い
はじまりかけた過ちを
欠けさせた日の記憶
そのつぐないは
いつ、どのように
終わるべきだろうか
寒暖の差が
あゆみ寄りきらない四月、
手のなかで握る透明が
汚れてゆく、
けれどそれは
ふたつと無い習わし
よく似た形で
禁じられかたの有り様が
水たまりのうえに
揺れている、
のが見える
まだまだ浅い
春の底
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春のおとずれは
やわらかい
ことばの身軽さと
陽気がとても
近くなる
鳥たちの鳴く声と
色とりどりに
咲く花と
寒さをかき消してゆく
波のかさなり
しろい音
声や
しぐさを
持たないお日様は
おだやかな暮らしに
降りそそぎ
それぞれの命を
それぞれに
喜ばせる
なにかにつけて急ぐときどきは
そのまま忘れていいのだろう
春のおとずれに
意味たちがやわらかく
目を覚ましはじめた
笑うお日様の
あかるさを
疑えばいい
まもるのもいい
いつか近しく
それをみつける季節まで
春は
いくつも
よみがえる
笑うお日様は
どこまでもあかるい
はかなくつよく
ときどきかなしく
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山の背中にあるものは
いたずらからすの
帰る家
山の背中にあるものは
遊びつかれたきつねの寝ぐら
山の背中にないものは
枯れ葉やつぼみを
こばむもの
折れた枝にも
苔むす岩にも
あるじの無きが
見つからない
山の背中にあるものは
むかしの足跡
まだ見ぬ
足跡
さくらも 蝶も
もみじも 雪も
つちの上から つちの底へと
風のそとから 風のなかへと
何度も何度も
くり返す
それらがきっと
ひとの胸
わがままに鳴る
ひとの胸
山の背中にあるものは
すべてを知って
知らぬふりする
山のかお
踏まれたような
踏ませたような
だれにも描けて
だれにも描けない
山のかお
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ぼくが、
ぼくだけが
知らずにいるこころは
どこにありますか
どんなふうに
転がっていますか
ぼくが
たずねることで
だれかを
知らずに傷つけるとしても
汚してしまうかも
知れなくても
きっと
ぼくは消えてゆくから
そうしてみんな
めぐるから
小さな限りに
叫びます、いま
何事も、
はじめもおわりも
境目をもたない空であった、と
気がついてみたい
もしも願いが叶うなら
翼をください
まっしろに
あおぞら、の名を
迷ってみます
無数に
透明
に
いたんでみます
ぼくに、
ぼくだけに
隠されたこころは
どこですか
だれを助けて
はばたきますか