詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
わたしの肩が
知らず知らずに
雪を溶かす、ということ
それは
もしかすると
物語ることを知らない
ほんとうの物語
容易には
何事も信じないけれど
疑うとなれば
それもまた
難しい
時々
あなたが見えなくなって
そのくせ時々
よく見える
さびしさは
よく出来た熱、と
おもいませんか
溜息のなかに
わたしを放り込めるのは
他ならぬわたし自身だ、と
そっと空から聴いている
震えてみせる指先を
たとえば耳の
あかさに
寄せて
絡みあう意味の
真ん中あたり
冬にも冬が
訪れます
あなたの胸が
知らず知らずに
雪を溢れる、ということ
それは
もしかしなくても
失うべくして失った
探しもの
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夜を、
わたしの、夜を、
誰かがたやすく追い越して
ちがう、
誰か、は、
待ちぶせる
かけら、
手のひら、かけ、ら、
わたしの言葉は瞳を閉じ、て
もうじき嘘になる
空、から、空、へ、
いつまでも
したい、たい、
けれども微熱を
その名に分け、
て
おろかさは
どれほどの遊戯か、と
くり返す
叫び、のような日、を
ささやくこと、で
薄さを
保ち
王道で、す、か、
見劣ること、なく
あなたの
うら
が
わ
待て、とはいわず
待つとも、いえ、ない
つぎ、から
つぎの最後まで
はじめまして、に
透かされる
夜、
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運ばれてゆく
ものがたりについて
ずっと聴けずにいたことを
ようやく受け取ったのは
はやすぎた夏、の
たてがみ辺りの
なごり風
眠る、ということが
どれほどの守りであったのか
薄れてしまう手触りを
つめたくさせながら
僕たちは
うばってしまう
かなしみを
抱きしめるたび
まるで同じくすり減るように
うばってしまう
正しいすべで
けれども
認めず
ここを
あした、と呼ぶことの
ほんの少しの
違和感を
誰かの
きのうが
受け取るだろう
まぼろしと似た
熱の在りように
震えるほどに
僕たちは
また、
迎えることは
おそれとちがう
やさしい手だけに
傾いただけ
あらゆる孤独を灯せる頃に
あらゆる水の
香につつまれる
かなた、七月
たなびきを
追い
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
くじらはどこかと
島が問う
空をよこぎる鳥の背中も
きっとだれかは
島と呼ぶから
雨は
もうじき
降るだろう
あまつぶは
ふね
乗るも乗らぬも
うたのいのちの
さだめさながら
あまつぶは
ふね
やがて
雨は帰りのみちを
あまりにしずかに
なくすだろう
ほんとはなくしていなくても
それはおおきな無言となろう
友を知るか
あるいは
幾億の
くじらはどこかと
島を問う
かつての人に
うといばかりに
勝手なかつての向こうみず
雨は
もうじき降るだろう
孤独のために
あるいは
あまく
海のかぎりに
恵むだろう
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
水色のそらを眺めていると
水ではないのに水であるような
或いは逆でも済むような
忘れものの気楽さを
ひとつふたつと
思い出す
降るものは
雨なのだろうか
不思議そのものが
降っているようにも見える
わたしはときどき
思うがままに泳いだあとは
風をもとめるわたしであるから
引き潮ばかりを語ってしまう
満たすことばに
満たされもせず
ふりをしてしまう
わたし、違うのに
漂うもののあれこれは
すくわれることを
待つのだろうね
とかく気高い魚(うお)ならば
上手な距離をのぞむのだろうね
ほほえむことを
天国と呼ぶために
それが壊れてしまわぬように
たとえばまことの綺麗な器は
つくりて冥利に尽きるもの
残念なことは
せめられ上手に落ち着いたこと
教わり過ぎた子孫のわたし
しあわせというものを
よく知らない、ほんとうは
敢えて恥じらうこともなく
水色のそらを眺めている
溶けてゆくように
わたしは
眺めている
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
つなぎ忘れた何かを探そうとして
それすら不意に
忘れてしまう
星空は
いつでもその名を受け取りながら
毎夜を必ず終えさせる地図
瞳がうつす一瞬を
嘘かと惑い
ときには真逆に
小さな器の泡立ちさながら
旅の定義が旅に出る
ステラ、
思いのままにすべてが動くなら
世界は魔法を語らない
ステラ、
孤独はいつも氷のそばにある
ぬくもりを知らずにはいられない
上手な氷のそばにある
夜を
たどれぬ指の奥底に
うつくしく残された夜を
あこがれながらも
訪れぬ夜
失うことを拾い集めて
未明を眠る
明白に
遙か
とおくに響く歌声の
なじみの理由を知らないままで
ステラ、
みあげる胸は空っぽで
ステラ、
許されたいから
染まらない
ただ一度だけ
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炎をもって
寒さをしのぎましょう
ただし炎は
燃えるものです
くべるなにかを
必要とします
燃やさなければ
燃えません
きみの炎は
燃やしていますか
なにを
なくして
燃えていますか
うらみがあります
怒りがあります
憎悪もあります
それゆえ人は
震えます
よろこびのあと
約束のあと
人は
無形に抗(あらが)います
それゆえ夢に
震えます
炎をもって
寒さをしのぎましょう
罪なきものは
罪なきままに
やさしいことを
難しくせず
煙は
その目にしみますか
疑う人と
おそれる人と
誤ることをさまよう人へ
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
きみがまだ制服だった頃
わたしも同じく包まれる身で
あの毎日が示した未来は
いまも変わらず
ふしぎな熱です
肩掛けかばんは
いちりんの花
種という名に奔放に
駆けた時代の
証明です
信じていたものは
信じようとするこころ
互いの夢を傷つけぬよう
臆病すぎる優しさで
名も無い線路の傍らで
ちからの限りに
手を振りました
隠れそこねた涙のような
空のすきまが好きです
ときどき
わたしがまだ制服だった頃
きみも同じく教えたがりで
ようやく気がつき
うつむきました
夕日の色が
あまりに濃いと
つぶらな小石に訴えながら
明日あたり
潮騒が恋しくなりそうです
互いがまだ制服だった頃
そこに確かな年月はなく
海辺の町が窓なのです
ときを
閉じては
ひらくのです
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
潔いさよならを
口づけられて
風は目覚める
おびえたように
冷たく急ぎ
風は目覚める
それを
避けるでもなく
受け入れるでもなく
花は巧みに散ってゆく
孤独の定義を
連れてゆく
ここにある私も
いつか昔語りとなるならば
取り返しのつかない
過ちとして
しずかに咲く日が
来るのだろうか
幾重にも
あざやかに
嘘がための嘘として
黙って揺られて
いるのだろうか
ひとの手が
生みだすものと
滅ぼさざるを得ないもの
そのどちらにもなれない溜息を
今年もまたひとつ
幾度と知れず朱にまみれても
変わらぬ気品の
秋の途中で
私は私に
使い古される
けれどもそれは
懐かしすぎて
伝える言葉は褪せたりしない
ただ少しだけ
日に灼けやすい
大人のつもりが
長ければ
なお
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虹は
見つかることで
虹になるから
虹かもしれないね
僕たちこそが
あの虹の
おもいでの
半分くらいを
間違わずに済ませたら
上出来だとおもう
ごらん
途切れてもなお
虹はきれいに
約束をゆく
ひかりは
曲がるものだよ
折れて
はじめて
優しくなるよ
道という名が封じるものは
色づくことへの
やわらかさ
とうの昔に
満ちていた意味たちを
乾かせるはずもなく
ただ浴びている
僕たちは
何度でも
とけ合えてしまいそうな
なないろの方角に
未完をうたう
僕たちは
虹よりも
虹かもしれない
理由をそらに
一度が
すべてと知ってゆく
はかなくて
あやうさだらけの
素顔のままで