詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
涙から
とおいところばかり
数えていたら
行き止まりさえ
意味をなさなくなってしまう
天使のうたは
たいようだけのもの、ではない
雷雨はかならずしも
おそろしい顔をしていない
めぐり逢いたければ
包みこむこと
たやすい顔では叶わない
すべてに
すべて、と
満ちてゆくこと
崩れてゆくようにして、
つぎは
はじめて
つぎ、になる
押しても
流されても
おなじ尾のために
繰りかえされる
ものがたり
雨をすくっても
雲をえがいても
虹をのがれても
予感はこぼれる
素直なままを
それぞれに
ただ
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胸のうちにある
たしかな
金属は
この世でたったひとつの
かなしみです
生身であることを
証すための痛み、なら
どんな音色にも
そのゆびを
いとしさを
奏でるひとが
いてもいい
けれどもそれは通過点
やがては弾いて
傷になる
いつか
どこかで
なにかをかばう
途切れ途切れ、が
なめらかさ
嘘だとか
ほんとうだとか
そういうことではなく
ささやかな
すべての箱への
お返しに
夢のそとから
古い
軌道で
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それは
たやすい無限の
数、かたち
みつめることで
遠のいて
聴かないつもりが
響きあう
おおやけの園、
あかるいことも
暗がりも
おなじ
花
誰かのために
誰をも
えらばず
金貨は
そういうなかで
錆びてゆく
だから、光
それだけは
疑いようもないのに
疑わずにはいられない
さようなら、は
あと幾つ
水のなかの風
その向こう、
遙かな問いかけが
空なのかも知れない
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みんな、猫です
首に
きれいな鈴を鳴らせて
どこが町でも
どれが月でも
慌てず
とまらず
つながります
眼のなかに
吸いこまれていった約束など
とうの昔のまろやかさ
いまさら
研がずとも良いではありませんか
耳ひとつ、
あるいは舌で
事足りるというのに
真っ黒な闇夜は
いつからか留守になり、
ふしぎな時計と
こんばんは
おぼえて
いましたか
気づいていますか
その菓子の
もともとのいろ
なくしていない、
鍵穴とろり
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少年が落としてしまう、
それは
あまりに
優しいもので
いつまでも思い出は
少女のかげをしています
夢から覚めて
くちもとに
残るのは
あどけない運び、です
名前はもろくも
かたくなで、
呼ばれています
呼んでいます
かぼそい首の
うつむき、かたむき、
すべてのかぜと
宇宙にのって
あてにならない
かがやきを
いま、
広がりゆくのなら
閉じてゆくべきですか
そんな声すら
だれかの地図へと
消えてしまうけれど
ずっと、昔から
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おもては
どこですか
みぎは
ひだりは
うらがわは
問いかけるほど
しずかになるから
物言わずには
いられない
すぐにも
あしたは来るけれど
ちいさな点は
さびしがり
きのうもそんな
十二時でした
まちがえることは
あたりまえであっても
正解では
ないもので
いまも
土星をかこんでいます
器用なゆがみの
うつくしい
だ円です
わらってください
あなたも
ひとつ
前でも
うしろでも
たくさんの
ゆびのなかの
あきらかな痛みだけ
どうにも苦手な
わたしです
数えるたびに
なぞられ、
て
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五月のかぜを渡るとき
遠いひかりは
よみがえる
あおたちの名の
車輪のなかで
一斉に
いま
みどりはかえる
日にかわる
かじかむばかりの
指だったのに
いつしか、
花かご
やがての雨を
かぞえることで
ゆめは、不足をせずに
持てるかぎりを
こぼれ始めて
ひとが、
きれいに、
時計塔を築きあげてゆく
とうに
過ぎ去った窓辺から、
あまりにも待ち過ぎた
街路樹、鉄橋、送電線、まで
日々の胸は
ふたつの腕に乗せて
鐘の鳴る重みを、
しかたのない吐息を、
ただ聴いている
受けとめて
いる
あやまりのすべてを
足早な季節のせいにして、
温もることに不慣れなままで、
波間になって
ゆく
割れながら、
なつかしい予感、を
たび重なる
愚かさ、を
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生まれて
しまった後ならば、
二度と
生まれて
いけないだろうかと、
ひとりごとだけ
生んでみる
いくつになっても
守られるから、
さびしさは
無くならない
幼なじみは
そんな厳しさ
寄り添うほどに
なにかが
欠けて
いつだって、
単純な
複雑さを
さまよっていて
もしかしたら
毎日が
生まれたて、
たやすくないけれど
そうであって
欲しいから
もどかしく、
ゆたかな
はざま
を
転がっている
生まれて
みたい、こどもたち
抱えているのは
かなわない
笑み
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最後に降った
雪の日のことを
思い出そうとして
思い出せなくて
そこからようやく
なつかしさが
訪れました
うしなったわけではなく
戻りたいわけでもない
いつだって
五感のきまぐれに
寄り添いながら
いるのです
ひとつ前なら風のなか
みっつ前なら
夜のくに
いつつ前なら扉の向こう
数え足りずに
陽をよみがえり
ほんとうの明日を
どこで待ちましょうか
昨日を
たやすく
捨てることなく
いつわりの名に
おびえ
ためらい
祈りをこめて
きれいな
きれいな呼び声は
はるか無限のさびしさに
似ています
さすらう時を
うなずくひとに
差しのべる手は
えいえんの
雪
すぐにも消えて
そのまま生まれて
誰かの最後と
なりながら
また
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さかずきが、
まわる
ひとづてに咲く
ゆめまぼろし
を
裂いては遠のく
かなしげな、
さめ
ゆびさきに乗る
花びらが、
よる
わからぬままの方角は
なおうつくしく
影を研ぎ
ふれる、かぜ
かおる、
とき
かりそめの陽に
華やいで
いたみ、
まどろみ、
かんむりは、つゆ、
いつの波にも
牙、こぼれ
声は
向かう
いさぎよき、
かなたのためだけに
おぼえておけない
微笑みで