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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[725] 空蝉
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そっと

持ちあげようとするほどに

ゆびさきは震えて



過ぎ去った季節は

こんなにも重みがあったのだ、と

追いつけない風に

ただよっている




虫のいのちは淡いらしい


されど

さみだれ、あじさい、あまのがわ


ひと夏を語ることばは少なくて

触れられもせぬおもいでに

着せられてゆくばかり


秋も冬も

春から遠い


朝も昼も夜もひと夏と変わりなく




瞳のそばでくずれる殻よ


それは置き去りのかたちか

それともうつろか

まったくの

うつろか




そらは

どこまで連れ添うのだろう


あいにくと

何もかもが透けてしまうから

けれど

それゆえにこそ

つばさはゆるされる


消えゆくものにふさわしく

たよりないつばさが

ゆるされる


淡くもうつつを呼ぶならば


2006/12/25 (Mon)

[724] ペンギン・パレード
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きみが

悪意を込めたとしても

あのひとは微笑んでいたから


受け取るすべに長けなきゃね



小さいけれど

ふたつも貰えた手だからね


だれかが

侮蔑を込めたとしても

包装はゆっくりほどきます

それが贈り


ひらかれてゆく、ふたり




 よちよち歩きのペンギンさん


 そこは大地ですか

 それとも


 いいえ、

 尋ねるということは

 ひとつの答を確かめたいからで

 わたしはつまり

 空から落ち

 た




パレードはいつもあざやかです


想いのひろさに囚われて

あらゆる鉄の

その火花


だれかがみとれる、

ただそれだけで

極地は

たやすく

語られます


パレードはいつもにぎやかです


海にも

空にも

大地にも



2006/12/25 (Mon)

[723] グリーン・ノイズ
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赤信号に待たされること


そのうえをゆく安息は

無いかも知れない



 エバー・グリーン

 常緑の日よ

 きみを

 迎えるそのために

 花冠をこしらえよう


 微笑んで

 ひとりずつ

 巨大な輪となろう
 

 花冠はうつくしき極刑


 こどもは急いで

 おとなになりなさい


 エバー・グリーン

 常緑の日よ

 この呼び声こそが

 もっともらしく季節をさまよう



平和のために争いなさい


きずなのために

裏切りなさい


はやりうたの上澄みは

そんな指図にまみれていないか




 動くということはひとつの傷


 だれかをかばって

 その向こうのだれかもかばって

 気付けば自分もかばわれて


 かわいた風にも

 涼しさ思えばそれで終わる




あしたのうたはひとつの墓標


緑のフレアに

ただただ、夕日はサイレント

2006/12/25 (Mon)

[722] 蛍火
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月へとのぼるその羽を

それとは知らずに

燃やすひと


あなた、涙ぐんでいますか


なつかしさをふところに

あたためる月、

とどかぬ月、

です



添い寝のほとりでささやく白は

ときをやさしく

凍らせます


目にみえるのにたどれない

そんな家路をご存じ、

ですね



孤独の背中はなだらか、です


誰かの足にいたみやすくて

誰かの足をたやすく

さらい、


うさぎ、

いつかの昔のかなしいうさぎ、


ふるえていました


川をはさんで

ひとりずつ

ふるえていました



うたがいは無く

まっすぐ、でもない


ゆめと呼ぶには

感じ過ぎるさなかは

やまい、

でしょうか


ねぇ、ほたる



2006/12/25 (Mon)

[721] やわらかいものたち
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みなもの月が

やわらかそうで

みんなたのしく眺めていたね


そして

だれかが

つかまえようとして

バシャリと濡れてしまっていたね


それを

だれかはよろこんで

違うだれかはともしびにして

なまえを呼んだり

うたってみたり



 あの日の

 みなもに生まれた波は

 すべてをつないで揺れていた


 みんなたのしく濡れていた



届かぬものに

背を向けたとき

そこにはじめてほんとが咲くよ


おわりを数える時計がすすむよ




 さよならの指紋とあきらめの関節

 たとえばそれが

 ありふれた叙情だとして

 どの手がそれを望んだだろうか


 やわらかいものたちが

 やわらかく溶けてしまわぬように

 願った分だけ

 熱は過去に消えて




今夜、

みなもの月は

逃げ出しそうで

ひとりいそいで目をそらしたよ


ただあてもなく目をそらしたよ

うるんだ

みちで


2006/12/25 (Mon)

[720] 星座
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 誘われるがままに満ちて

 そこから浴槽は沈んでいった



ずぶ濡れている猫の目に

だれかが今夜もつきを呼ぶ


いっそ炎を浴びてしまえたら


それは

手遅れかも知れなくても

いっそ炎を迎えてしまえたら




 つながれていた約束を

 うつくしい刃物に感じた日

 声はいつでも

 てのひらを補うための

 ぬくもりだった

 それは

 まぼろし、などではなく

 語り継いでゆくことの

 けなげなかすり傷




射られた弓矢は

二度とはじまってゆかない


伝説ならば、なおのこと



 洗いたての髪は甘く香る

 けれども色は深まるばかり

 からだは

 どこまで正確だろうか

 すり減ってゆく石鹸を手に



送りのすべは見つからない

はるかな景色を絵画と知るだけ



 銀貨の輝きは無限のさざなみ


 名を持たぬまま

 旅人たちが引かれ合うだろう



すべての窓がなくした夜に


2006/12/25 (Mon)

[719] にらめっこ
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ひとつ

勝負をしませんか


少年少女にやさしいあそび


せーの、で

向かい合ったなら

互いにえがおをつかまえましょう



 これまでのこと
 
 これからのこと

 ひみつのままではもったいないから

 いそいでえがおに

 かえましょう



ほほえめば、勝ち


さきに

こぼれたら、勝ち


ただし

ごまかしやいつわりは違反です


おとなのつもりなら

おもいっきりあそびましょう

ルールをまもって

けんめい、に



ひとつ

勝負をしませんか



 向かい合うのは知ってる鏡

 ときを味方に

 やわらかく



せーの、で

向かい合ったなら

少年少女は走りだす

忘れることもときにはきれい



 うるおえば、勝ち

 あふれても、勝ち

 はじけても、

 ひそかでも、



2006/12/21 (Thu)

[718] 遠雷
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くちびるは濡れるから

ことばもいつか濡れてしまう


めぐみと呼ぶには

砂ぼこりが多すぎる



古びてゆく壁に耳を寄せたら

わからない音だけが

あふれて

古びていたのは耳のほう



 雨の

 ほんとうのはじまりには

 かならず遅れてしまう

 あしもとで草が揺れても

 教えているかも知れなくても



ここから遠い駅はどこだろう


もっともいたまず済むように

もっとも長い道のりの

ふかい浅瀬はどこだろう



遠雷がひとつ


つもりはなくても聞いてしまう

拒むつもりもないけれど

それゆえ距離が

気にかかる



遠雷がひとつ


だれかが灰に変わるなら

それだけで晴天

ただそれだけで



 ふるえる瞳に音はなく

 知らない帰路がまっすぐ滲む



あかるい闇はどこだろう


咲けない傘を

かたわらに

待つ

2006/12/20 (Wed)

[717] むらさき刺繍
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ほつれた糸はよるをゆく


いつか

余裕をうしなえば

たやすく降られてしまうから

どの肩も

つかれつかれて

しなだれてしまう


うらも

おもても

やわらかいのに

ひとつのかたちを覚えることが

ひとつのかたちを傷つけて


よるは

いやしをもとめる窓辺


針はだれかにいたむだろう



暮れてゆく背中と

明けてゆく髪


うつろうたびにつくろうものは

うすごろも


 火をまとう鳥
 
 ほしわたる舟

 くもをぬく枝

 うみつつむ砂


声のいのちは

いつもだれかの声のなか


ひびく隙間はなおうつくしく


うすごろものかなしみは

まことの流れにおぼれゆくこと



ほつれた糸はよるをゆく


高貴ないつわり

その長雨



2006/12/19 (Tue)

[716] チェイン・ア・ラ・モード
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嫌われることに震える両手は

ひとを切らずに

済んだかい


置き去りの身に震える素足は

ひとを捨てずに

来たのかい



おそろしいものは

いつも

わからないのに

ほんとはわからないのに


水を

含みつづけるのはなぜだろう

かれないように、と

かれてゆくのに



うつくしいものを

見ていたいよね

物語だって

聴きやすいものがいいよね


満たすものをかぎまわって

えがかれる、まる

それは

おさなごのクレヨンの

犬小屋の切り取りとよく似てる
 

まるとはつまり

鎖だね



研がれてゆきなさい

頑なにつよくなりなさい

鎖を断って

なおさら

まるくなるために


さぁ

プリンはいかが


2006/12/16 (Sat)
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