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千波 一也の部屋  〜 新着順表示 〜


[685] 水没ハーモニー
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つきの誘いにうみは揺れ

えいえんのわかれが

ちぎられてゆく


みずのかがみに映るのは

浮かびのひかりか

しずみのそこか

こたえをつかめぬまま

円い波だけが

のこされて

こころならずも

こぼれ落ちる笑みに

なつかしさの

染まる

むね



つきへと昇るものたちを

しずめる都を

よみと云う


終わりゆくはじまりも

その

さかさまも

互いの果てを

およげぬかぎりは

しみる涙にほかならない


やがて

乾いてゆけるかなしみに

うるおいは

幾度もゆるされて

なにものも涸れはしない


おぼれることのたやすさに

或いは

閉ざされるがゆえに

こえは

あふれかえり



繊細にうしなわれてゆく

繊細なものたちのため

みずのかがみは

なお

すみわたる


うみと

よみとが

奏でるはざまに



2006/10/07 (Sat)

[684] 蛇行
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人それぞれに歩みは異なり

知ってか知らずか

寄り添い或いは遠ざかり

ときには

いずれが頭であるのかを迷いながら

もしくは迷われながら

人それぞれに

異なる歩みは終わらない


かくして蛇行は

かならずどこかで

重なり

交わり

その一点は出会いと呼ばれ

人それぞれに異なりを覚えゆく

そうして

蛇行は

とどまるはずもなく

いたみと優しさと温もりと

人それぞれにわかれを歌わせながら

異なる流れをめぐりゆく



遙か

頭上をゆく風の尾をつかまえた気で

偶然という名を与えるべきか

必然という名を与えるべきか

こころのままに

揺れてみるといい

その

無理のないかたちにこそ

豊かな意味は

あるだろう

ごらん、

人それぞれにひたむきに

異なり続けてゆくかたわらに

花は揺れて咲き誇る

かならず


決意も希望も情熱も約束も

人それぞれの

てのひらのなかで

夕焼けいろの流れを為して

あすへの想いに

ひとつとなる



人それぞれに歩みは異なり

人それぞれの蛇行のあとには

気まぐれな風が

降りるだろう


ささやかなものたちを

ささやかに奏でながら



2006/10/07 (Sat)

[683] 十五夜
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爪からこぼれる蜜の香りは

やさしく手毬に

塗り込めましょう


今宵

千切れてしまう羽はいくつ

枯れてしまう草木はいくつ

夜露は静かに

鏡となって

子守唄がにじみます

いつわりの片鱗もない

雲の晴れ間に


うつつは

遙かの遙かに於いて

いにしえを

とこしえの名で包みます

それゆえに此処は

まどろみの

始まりのような

まぼろしと呼ぶには

あまりにもあざやかな

断崖の渕なのかも知れません

誘われるがまま

微熱をさすらって


醒めてしまえば

不治の病はすすんでゆきます

ゆっくりと

ほら、

ゆめのうわずみは

てのひらにつめたく

そのたびに

胸は

かろやかにうるんで

微笑みが透けて昇ります

幾つでも

いつまでも


誰のものでもないそらに

誰のためでもなく

残り火たちは

ひとつの舟を浮かばせて

つぎなる潮の運びの波間へ

消え去りゆくのです

美味なる淡さを

絶やさずに

2006/10/07 (Sat)

[682] 十三夜
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さなぎがさなぎを終えようとする


待ち受ける憂いの数々は

渦を巻く歓びのなかで

やわらかに

刃となる


饒舌なのぞみはいつも

逃れるすべを根絶やしにして

油彩画はただ

鱗粉にまみれかがやき

埃をかぶる代わりの

優美な劣化が

満ちてゆく


責めるも囲うも

たやすく叶ってしまうがゆえに

まぼろしの横顔は

明白に

澄み渡り

砂上に砕けた器の欠片を

かたや葬り

かたや迎えて

知らずの不動の鍵穴たちが

狂い咲く


沈黙がまばゆい程に錆びてしまう


雨は酸にもなるだろう

闇は温床にもなるだろう

わすれてしまえば

幻聴さえもなつかしく


狩人はおのれのための

狩人を待ちながら

やはりだれかの

狩人として

瞬きのなかに無数をあやめて


金銀の偽りを暴くのは容易くはない


届かない者たちの

ただしい嘆きだけが

限りある鏡に静かに揺れている



2006/10/07 (Sat)

[681] 成就
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理由をお尋ねしても構いませんか


無用な物事に慣れてしまえば

あなたの哀しみと同等に

わたしも哀しいのです

涙の理由を

お尋ねしても構いませんか


夕闇のなかを

誰も彼もが急ぎ足ですね

それはつまり

きょうの日が終わるということであって

あしたの日を迎える支度が

始まっているということなのです

たとえ

無自覚であろうとも



かたちという言葉のかたちには

翻弄されてばかりのわたしですが

あなたもきっと

同じであるような気がします



願う幸せとは

いつもいつもはぐれてばかりで

思いも寄らない優しさや

ほんの小さな贈り物に

知らず知らず

笑顔がこぼれていたりするものです



柔軟に

澄んだ瞳を保つためだけに

涙を流していてください

そのなかで

綺麗な物事に

ほんの少しでも

明るくなれたなら

それは

素敵な階段だと思うのです



大丈夫。

想いのすべては救われます

憶えのない姿かたちに戸惑うときには

胸に尋ねてみることです

旧い住人ほど

些細な日付に詳しいですから

必ずこころは頷きます


空を渡る風たちの

無限の軌道の約束のように

想いのすべては救われるのです

大丈夫。



涙の理由を

お尋ねしても構いませんか


やわらかな

さよならの儀式の

余韻のほころぶ

ひかりのなかで


2006/10/07 (Sat)

[680] 輪郭図鑑
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わたしは残暑と縁がない

かわりに地震とくされ縁

わたしは梅雨の対処を知らない

かわりに除雪の腕前はある


ヒグマに注意、という看板を横目に

ツキノワグマ、という名前の

風雅をおもうわたし


黄金週間の予定を立てるかたわら

桜の開花を懸念するわたし



なじみの電車は路面電車で

峠はさながら県境

真冬の零度はあたたかく

真夏は二十度あればいい

キツネにえさは与えない

ごめ、とはカモメのことである

ハマナスの棘にトラウマが

ポプラは孤高がうつくしい




知っていることを知ることで

わたしの輪郭は

かたちを為す

そう、

知らないことも同義であるけれど

響きがよろしくないから

いつもいつも

知ること、と記している

ページの増えることをよろこんで

わたしは常に図鑑を

それゆえに

あなたはあなたで

確証のない彼方まで

あなたのあなたは守られる

輪郭という名において

もちろんわたしも



霧の表情を探ってみるわたし

埠頭の風向きを嗅いでいるわたし

南ばかりを意識して以北に疎く

水際に寄りたがる傾向が強い

そんなわたしを反省しよう、と

前向きに検討中の

わたし


2006/09/16 (Sat)

[679] ももいろ玩具
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結び目を

ほどこうとする指先は

きみの吐息の熱さのなかで

やわらかに

能動のつもり、の

受動となる


名を呼ぶほどに

ひとみはひとみの鏡となって

きみは時折

ひとりで勝手に向こうへと

だから、

つよく

つよく優しく腕に抱く

そこからふたたび

ひとみはひとみの鏡となって

惑わぬための

名を呼ぶほどに

汗の流れにほだされてゆく


ちからの加減はいつもむずかしい




くちびるを重ねるたび

もいちど欲しくなって

もいちど重ねては

終わらない

くれない色のくちびるは

毒に染まっているのだろう

死には至らなくとも

幾度も繰り返す刹那は

ちいさな輪廻さながらに

ささいなふちで

狂い、乱れる



火照りのすべては頬をともして

ことの合間に恥じらえば

ももいろ強く

その内なる美味をおもうとき

きみは

背筋をしずかになぞり

月が揺れる



みごとに玩具を統べるのは

きみのこゆびの爪の

ももいろ


2006/09/16 (Sat)

[677] 川霧
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逢うことは必ずしも救いとならない


つかめない泡のなかで

幾百の約束は

いさぎよく果てるためだけに

咲き誇る



散りゆく夜の

風たちは

雨に満たずに群れをなす

寄る辺をしずかに願いながら

それは

ひそやかな高潮となる


  
  橋のたもとは始まりか
  
  褪せた花弁は最果てか



放る言葉はみなもを跳ねて

かたちを為さない魚が還る



暗闇は

透き通るものたちの安住の浅瀬

はぐくみのかご



統べての根源の水のあそびに

馴染んだいのちは

尾を忘れゆく




見境もなく溢れてゆくものに

心地よく溺れてしまえるのならば

濡れてゆくことに

たやすく震えはしないだろう




  川霧の向こうに向こうがある



乞い続ける姿のおぼろさは

いずれの刃にも屈することなく

可憐な傷口と

その芳香のなかで

しるべに詳しい迷子を重ねる




  辿りつき得ぬ暦が増えてゆく



逢うことは必ずしも救いとならない

けれど

辿りつき得ぬ暦は消えてゆかない




  川霧の向こうに川霧がある




2006/09/14 (Thu)

[676] 手は届かない
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手は届かない

だから

わたしは指をくわえる


手は届かない

だから

わたしは素直にのぞむ


手は届かない

だから

わたしは

ポトリと落ちた果実をよろこぶ



非力な諸手で果実を拾い

非力なアゴで果実を

砕く

したたる果汁のペタペタを

くすんだ白地の

ハンカチで拭く




そらではゆっくり雲が流れて

あおの湯舟は

陽で満ちて

ゆく




道のほとりにわらう小花は

すぐにも

摘んでしまえるけれど

真昼のほしを

そこにみたから

香りだけを

そっと

髪にのせて




ひとみを誇るわたしは

ちいさい

うたを続けるわたしも

ちいさい


だから

わたしは

しあわせになろう



手は届かない

だから

わたしは

しあわせになる



2006/09/14 (Thu)

[675] 久しぶりに微笑んだ
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のら犬がいた


そいつは

安全な距離を保ちながら

一生懸命にオレを吠えた

かるく

しっぽが揺れていた

もとは白かっただろうに

よごれた茶色が寂しかった



砂利道にしゃがんでみたら

そいつは少し警戒をした

どんな目に遭ってきたのだろう

しっぽを揺らしながら

吠える声色が

少しばかり確かになった



ふと思い立って

買ったばかりのパンを取り出した

今夜の貴重な食料なのだが

まぁいいか、と袋を開けた


のら犬が首をかしげたような気がしたから

かるく

パンを放り投げた

ゆっくりとそいつは寄ってきた


嘘くさい茶色を

リアルな茶色が

静かにかじる


触れようとしたら少し驚いたが

触れてしまえば

おとなしかった




夕陽もそろそろ居なくなる頃に

そいつは何かを聞き届けたらしく

片耳をピクッと立てて

与える物の残っていない人間から離れていった


振り返ることもせず



現金なやつだな、となんだか笑えた


ところで今夜は何を食べようか、と

あるはずもない選択肢を掘ってみる



自由気ままなギブ・アンド・テイク

鼻歌なんかを楽しみながら

久しぶりに微笑んだ



2006/09/14 (Thu)
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