詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
蒼く枯れるまで傍にいて下さい
たなびく煙に ほそめるひとみは
可憐な強さを匿(かくま)って
夜風に つめは うるおいながら
狡猾(こうかつ)な よわさに長けてゆきます
そら 、笑みの波紋が にじをさす
おぼろな橋の彼方から
数えなさい、と諭(さと)されています
今宵も
これは 襲来の類なのでしょうか
そろそろ 衝動に駆られてしまいそうです
どうか
壊す、などという言葉を選ばずに
紅く透けるまで傍にいて下さい
万葉のしらべは
黒髪を梳く櫛の音(ね)に よく馴染み
気紛れに仰ぐ三日月は
黒いひとみに
映えて
久し
く
闇夜を満たす つとめは
灯火に 委ねてしまいましょう
さすれば、ほら
語り部の名に 固執することなく
すべに 甘んじてゆける気がいたします
それで良いのです
かなうもの と
かなわぬもの とを より分けず
舌先やわらかく 発音いたしましょう
いろいろ、 と
耳元ちかく で
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
飛ばない鳥がいたとして
飛べない鳥はいないでしょう
それとも
逆の語りの方がお肌に合いますか
ひとつ許せば
色は濃く
ひとつ拒めば
尚更に濃く
それが
青というものです
さきほどの語りのようには
是非を問うたりいたしません
それが青というものですから
雲は
さまざまに形を移ろいますが
あれはいわゆる群れですか
それとも
孤高と呼ばれるものですか
蜜をもとめる蝶が、ほら
ひらひら
きらきら
たくさんの花のなかを
漂っていますね
いそいそ
ひそひそ
ふわ ふるる
音に
こだわり
遊ばれて
とっても素敵な季節です
不慣れなことは困りもの
慣れすぎることも
困りもの
そろそろ語りをやめようかと
暗に示しているのですが
お気づきですか
半端ものならば
半端ものなりの
端正な御顔をたたえて下さいな
それではみなさま
ごきげんよう
或いは
すずしく
こんにちは
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
うやむやに熔けてしまっていませんか
その夕暮れに
指揮棒に従うことで
いくつの雑音を聞かずに済みましたか
なつかしい歌たちに包まれたい日があります
拒みたい日もあります
狂いの無いものたちだけと
はやく一緒に暮らしたいものです
知っておいでですか
譜面に触れるためには
特別な能力が必要不可欠だとか
知っておいでですか
美しいがゆえに 捨てるものがあり
捨てるがゆえに 燃えるものがあり
燃えるがゆえに 移ろうものがあり
移ろうがゆえに 増えるものがあり
いくつの和音を聞き逃してきましたか
触れているような
そうではないような
永遠というものは
そこで眠っているような気がするのです
じぶんだけ
すやすや
と
奏でるよりも聞き惚れている近況の
わたしの理由の
はんぶんは
そんなところに在ったりします
残りのはんぶんは
曖昧なままにしておきますね
あなたの
その指先のために、
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
宛てたい心があります
傍目には
いまさらでしょうが
いいえ
いまだからこそ
伝えたいことは簡単なのに
前置きが長すぎて
床に散る便箋は増えるばかり
傍目には
綺麗な足元かも知れませんね
もう何度目かのペンを走らせながら
あすは何処へ赴こうかと
ぼんやり思います
きのう
はじめて風景写真を撮りました
それは
とても綺麗で
こんなふうに微笑んでいたのですね
私たちは
あすにでも絵葉書など差し出そうかと
手紙は
終わりそうにもないし
写真は
なんだか筒抜けになりそうで
それゆえに
私の居所とは全く関係の無い
けれども
私のこのみを如実に表すような
絵葉書など
あなたは
隈(くま)無く探してくれるでしょうか
約束はなくとも
健気にきっと
あなたなら
私を
優しさは思い出となるにはまだ遠く
そんな心を隠すように
絵葉書など
たとえ見透かされても
宛名は美しく綴ります
指先に
ちからを込めて
美しく
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覚えていますか あの国道を
場所のことではなく
名前のことではなく
もう二度と通ることのない
あの
国道のことです
向日葵の頃には
とても眩しいものでした
容赦のない陽射しとは違って
まっすぐに咲き誇るものですから
とても
眩しいものでした
覚えていますか
いまならば
通りすがりの他人のように
まるで なんにも知らないように
咲き誇っていた想いたちの眩しさが
見えたりするものです
可笑しいですね
写真の一つも無いというのに
もうまもなく向日葵の頃です
あいにくと
自分の姿は見えないもので
代わりにあなたを案じてみます
いつか
あの国道をもう一度走るとき
それは すっかり新しい景色へと
変わることでしょうから
軽く、
軽く尋ねてみたいのです
覚えていますか あの国道を
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暑い日だった
目覚めのベッドは僕のにおいで湿ってた
喉がカラカラだった
コップの水をかるく舐めたら
少し、ぬるい
鏡に映るはだかのおとこ
汗と 鎖骨と 血管と
求め足りない、ような唇の濡れ具合と
君を抱いた後みたいって思った
暑い日だった
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なにごとも無かったように朝は訪れて
さかなたちは
まだ走ったことのない空を
みあげてひかる
ひとつの大きなもののなかを泳ぎながら
空から枝葉へ
枝葉からみなもへ
しずかなつたわりはけさもこぼれて
きらめく波を走らせてゆく
それは
幾百幾千の
ねむりにつく些細なしずくたちの
幾百幾千のめざめのしらべ
ひとつのなかから無限はうまれる
無限をほどけばひとつにあたる
いつかしずくは流れを為してゆくように
愛から鎖へ 夢から異国へ
夏から沼へ 笑顔からつるぎへ
記憶の日付が増えてゆくそのたびに
しずくは
窓辺に桟橋に
レンガに丘に
懐かしいときが降りそそぐ
記憶の日付が増えてゆくそのたびに
しずくは
こぼれて
波になる
手のつなぎにおぼえる温もりのような
その輪をなぞり
たどり
たやすく忘れてしまえるような
些細なものをなぞり
たどり
波は絶えずにわたりゆく
しずくは波になる
しずくは波になる
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まんげつのよに おいでなさい
ひしめく よるの
ひしめく よるべは
ぼんぼりのよに たゆたうくらげ
まんげつのよに おいでなさい
かいがらねむる よを つぶる
なみは つまれて
こえ つむる
こころ ゆくまで おさがしなさい
からまるくらげは ときの から
どく も
どかぬ も
はり つめぬ きり
こころ ゆく ま で おさがしなさい
かぜに おと されぬよう
のぞみの かげんを あやまらぬよう
みさきは なが く
ほそく
する どく
まんげつのよに おいでなさい
ぼんぼりのよに とも し ましょう
みつ かり ましょうか
さら われ ましょうか
ぼんぼりのよに とも し ましょう
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みなもとの名を水だけは忘れない
やさしすぎるのかも知れないけれど
そうでなくては
なにも生まれてゆけなくて
それを知っているから
水は
弾丸という異物を迎えることで
鳥は空から落下してしまうように
速度こそ異なれど
確実に
水は
とても自然な流れのなかで地図から消えた場所がある
或いは
みずから隠れたのだろうか
群れをなすものたちに
たどり着くための手足は既に無く
夢をおぼえたものたちに
みとめうるための瞳は既に無く
水たちの本能だけに護られて
みなもとの名は
もっともうつくしい廃墟のなかに溢れている
没してゆくさなかには
なにものの介入も許されない
終わりゆくならば純粋に
始まってゆくならば
還る先を見まごうことの無きように
もっともうつくしい廃墟のなかで
みなもとの名を水だけが忘れない
詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
愛のうたはいまも未完成だから
せめて
おもりは丁寧に縛りつけてあげよう
そして
潔く両手を離そう
いたずらな熱を与えてしまわぬように
いまから澄んでゆこうとするものを
いたずらに
滲ませてしまわぬように
潔く両手を離そう
最後の水音は思った通りにあっけないから
軽かっただろうか
重たかっただろうか
迷ったふりをしながら
いつのまにか慣れてしまっている
せめて
擬音に委ねてしまわぬことが
唯一のすくいのすべだと信じている
最後の最後までには
愛のうたが完成することを願いながら
さよならの居場所は零度
のぼることも
おちることも
平等にかなうところ
なげきもよろこびも同じことかも知れない
いたみもあこがれも同じことかも知れない
だからきっと、
続きの言葉は波間に託してオールを流した
公平でなければ
こうかいは終わらず
こうかいは始まらないから
公平であるためにオールを流した