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千波 一也の部屋


[1010] 遙かに
詩人:千波 一也 [投票][編集]

物語が

生まれ続けるということは

終わりもともに

在り続けるということ

季節がひとつ立ち退くことで

つぎなる季節へ進めるように


歓喜が

終わりなきものならば

その裏側の悲愴にも

終わりはない

そのような

やさしいことほど難しく

純粋なものたちの

純粋な傷跡は

なくならない

癒えないのではなく

なくならない



雪が雨へと戻る頃

それとは逆の帰り道について

だれかが探す

けれど

春のよどみは

そうして永らく清浄なのだから

だれもが安堵して

身を寄せ合って

震えてみたり

守ってみたり

頼ってみたり

放してみたり



約束とは

破るためのものである

思いがけない温もりを

分け合うための

薪と同じ

だから

言葉はなくならない

人の弱さのふところで

人の強さを呼ぶように

ただただ遙かに

命を灯す

2010/02/26 (Fri)

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