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千波 一也の部屋


[1028] スパイラル
詩人:千波 一也 [投票][編集]


固く

手と手を結び合って

地上へと落下していく

ダイビングみたいな

加速度で

八月は

僕らの肌を

隅の隅まで染みわたる


皮肉にも

僕らはさほど一途じゃないし

さほど薄情なわけでもないから

八月はいつも眩しくて

だからとりわけ

海風がなつかしくて

新鮮な

果実をよそおい

膨らんでいく

記憶と

においを

誘って僕らは


この世はかつて

さくらんぼだったかも知れない

無知で

無邪気な生命に

やさしくかじられる

さくらんぼだったかも知れない

もしかしたら

今もなお

そういうスタンスであるかも知れないけれど

果樹園に吹く風たちは

そういうことを

運んでこない


ときどき

砂漠でみる月が気になるけれど

それは必ず

アイスコーヒーもしくは

炭酸ソーダの

加護のもと

だからときどき

わるい冗談がいきすぎてしまう

すぐにも陽射しが

仲介するけれど


髪が揺れたり

トゲが刺さったりすることは

どれくらい不要なんだろう

欲望や

権利のたぐいは

どれくらい必要なんだろう

ため息みたいに夕焼けが

見守るともなく

見守られて

終わりへ向かう頃

僕らは

まったく反対の方角を夢にみながらも

まったく同じく

すり減って

いく


嘆くにはまだ早い

感じ入るのもまだ早い

なぜならここは

煩雑すぎる透明なキャンバスのうえ

僕らは全力で

整えなければならない

幻想ならば幻想らしく

戯曲であるなら

より戯曲らしく

僕らは

ともかく

まったく自由な

とらわれなのだから

いさぎよく

失敗を数えよう

何度も

何度も

企てて



2011/08/02 (Tue)

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