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千波 一也の部屋


[654] 漕ぎゆく者へ
詩人:千波 一也 [投票][編集]


明るいうたは明るくうたおう
  
明るくないうたも明るくうたおう
  
そうすれば
  
必ず
  
いつかどこかが壊れてゆくよ
  
治すというのはそういうこと

  

沈みのうたは沈んでうたおう
  
沈まぬうたも沈んでうたおう
  
そうすれば
  
必ず
  
浮いているかたちを知ってゆけるよ
  
のぞみはいつもそこからはじまる


  
好きなものを好きだと言えることは勇気だと思う
  
嫌いなものを嫌いだと言えることも
  
勇気だと思う
  
けれど
  
そのふたつを重ねてしまってはならない
  
おそらく
  
重ねてしまってはならない


  
ふたつのかいなに櫂を分け持ち
  
等しくはない配分のちからだとしても
  
ふたつのまなこの捉えるものが
  
一つという名のまぼろしだとしても
  
その危うげな姿があるからこそ
  
潮騒はやむことを知らず
  
誰かが
  
誰かの
  
言葉となる


  
漕ぎゆく者へこのうたを


  
ふたつの鼻孔へ
  
ふたつの耳へ
  
ふたつの頬へ
  
  
ひとつの舟へ

  

漕ぎゆく者へこのうたを


2006/09/09 (Sat)

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