詩人:千波 一也 | [投票][編集] |
なにごとも無かったように朝は訪れて
さかなたちは
まだ走ったことのない空を
みあげてひかる
ひとつの大きなもののなかを泳ぎながら
空から枝葉へ
枝葉からみなもへ
しずかなつたわりはけさもこぼれて
きらめく波を走らせてゆく
それは
幾百幾千の
ねむりにつく些細なしずくたちの
幾百幾千のめざめのしらべ
ひとつのなかから無限はうまれる
無限をほどけばひとつにあたる
いつかしずくは流れを為してゆくように
愛から鎖へ 夢から異国へ
夏から沼へ 笑顔からつるぎへ
記憶の日付が増えてゆくそのたびに
しずくは
窓辺に桟橋に
レンガに丘に
懐かしいときが降りそそぐ
記憶の日付が増えてゆくそのたびに
しずくは
こぼれて
波になる
手のつなぎにおぼえる温もりのような
その輪をなぞり
たどり
たやすく忘れてしまえるような
些細なものをなぞり
たどり
波は絶えずにわたりゆく
しずくは波になる
しずくは波になる