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千波 一也の部屋


[717] むらさき刺繍
詩人:千波 一也 [投票][編集]


ほつれた糸はよるをゆく


いつか

余裕をうしなえば

たやすく降られてしまうから

どの肩も

つかれつかれて

しなだれてしまう


うらも

おもても

やわらかいのに

ひとつのかたちを覚えることが

ひとつのかたちを傷つけて


よるは

いやしをもとめる窓辺


針はだれかにいたむだろう



暮れてゆく背中と

明けてゆく髪


うつろうたびにつくろうものは

うすごろも


 火をまとう鳥
 
 ほしわたる舟

 くもをぬく枝

 うみつつむ砂


声のいのちは

いつもだれかの声のなか


ひびく隙間はなおうつくしく


うすごろものかなしみは

まことの流れにおぼれゆくこと



ほつれた糸はよるをゆく


高貴ないつわり

その長雨



2006/12/19 (Tue)

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