詩人:ありえす | [投票][編集] |
写真帖を眺めては明かす、長雨でした
灯りを消すのは艶のある肌が静まるころ
記憶の遠い、とおい向こうがわで
からからと映写機がまわります
銀幕にはしる斜線や点点は
瞳に積もる、長雨の影響です
*
遮光するカーテンが揺れ
竹帙が色を変えるとても、ひろい
書斎の端で眠るのは
水夫の漕ぐ波形の紋に誘われて
脱け殻を置いたきみでした
円環の外にいるぼくは
小説から漏れる声を聞き心をざわめかせては
陽に囲われた睡蓮の花弁の中心にいるきみを
ただ見入るばかりなのです
風にふわりと、木目を渡る栞は
籠に落ちる葉と重なり
輪郭はきえゆく色に包まれます
それがとても
*
向こうの月光は、長雨を望み
兎の耳が羽音のように
詩人:ありえす | [投票][編集] |
いつまでもそうなのだろう
憂いな月をみて
ティーカップを割り
理由なんて必要なく
クオーツの瞳が
蛾をすいよせるようで
デフォルメの世界に眩暈するのだけど
動悸と羽音が交わり
凜光化した耳が月へと誘う
(生まれ舞う鱗粉が星
氏に手向ける
ルルへの道をいきなさい
イルミネーションの謝肉祭をつきぬければ
バイオレットカーテンがみえるでしょう)
生まれ変われるのでしょうか
簡単ではないでしょう
失うのでしょうか
壊朽を恐れたのなら
来世はあるのですか
懐古の世界に還るのです
透きとおる身体を脱ぎすてて
手毬のあいだを縫うのです
少しだけ呼吸をして
ティーカップにはきだして(割れていたなんて嘘のよう)
諦観なんて嘘のよう
美しい月に還るのです
美しい月に還るのです
(すべてははじまりでもあり
すべてのおわりも
さあいっしょにしまいましょう
うつつがしはいするせかいも死をもてば
なにもかんじないよねえこわくないんだ
だからいつまでもそうしていないでそろそろお茶にしませんか)
カーテンをあけて
手はつかわないで
出入りは一度だけ
決して振り向かず
ずっとこのままで