木口さんの細い指が静かに髪をすいていくハサミの音と一緒に雨音がつぶやく穏やかな初夏の空気を運びながら室内に染み込んだパーマ液の臭いが鼻を揺らす僕の毛髪一本いっぽんまでうずきそうな恋の予感がしたカットしたばかりの自分を鏡の向こうに見つけてとおく、去っていく雨音をすくって耳に残すさっき路地裏で別れたばかりの君を少しだけ思い出した
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