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木菟の部屋


[46] 赤い 雨
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誰かが涙していた
憎むような眼なのか哀れみなのか
どちらでもいい
泣くならば天使のように笑っていてほしいのよ
誰かが赤いマーガレットを指先で回してパクりと
食べた
雨の日はすき
優しくなれるから
手に負えるはずがない
長い長い長い間
1847年前から降り続ける
雨の中
土臭く青臭いあの愛しい匂い
肺の奥に染みこんで
体を冷やしながら
ぼくは小さな風と抱きあい挨拶しながら
少し微笑んで歩いていたような気がする
幸せと言う言葉はそろそろ時代遅れになる
なんて誰かが忠告した
けれども何もかもが過去になるこの日々を
僕らは小さな生き物として皆それぞれにしっかり生きている
小さな誰かの命も世界も絶えず繰り返し生まれては消えていく
僕がいくら
君を僕の中に閉じ込めておきたくて時を止めてしまいたくて強い祈りを込めて大切に抱き締めても明日には黄みはきっと違う感じになっている
きっと昨日とは違う感じになっている
なっている
なっていく
きっと濁ったり
固まったり
溶けたり
もしかして
知らない内に私が寝ながら食べているかもしれない
ゆで卵いつから苦手になったんだろうなんてぼんやり思いながら
おしっこを我慢してこれを打っている
もしかしたら卵が巨大化して私は寝てる間に食べられているかもしれない
そんな空想をしていたら昼食の入院食が出てきた…
目を疑った
半分に切られたゆで卵に
胡麻の目と海苔の口
微笑んでいた…しかも可愛い
私は駆け出したい衝動に刈られたが
ゆで卵と一つになることを覚悟する
嫌々にチミチミとかじりながら
ゆで卵を食べ終えて私は筆をとる
そして真っ白な紙を用意する
色をつけ終えた頃には消灯時間
その日は何故かぐっすりと眠る
次の日の朝点滴に来た看護婦さんがソレを見ていた
小児科に飾っておくと言い出す
改めて見るとたまごは昼食の時よりより幸せそうに笑っていた
わたしはもう二度と描くもんかと決めた
たまごが泣く日が来ないことを少しだけ可哀想に思う
でもどうせなら天使のように笑い続けていてほしい
きっと子ども達のお昼寝時間 眠りに落ちるわずかな時間
黄身は優しく見守っているのです
笑顔見つめながらとろんと眠る
子どももいるかもね


2011/10/05 (Wed)

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