詩人:アル | [投票][編集] |
秩序の構築と
維持のために
一滴の汗も
流した事がない者ほど
自由気儘に不自由を託ち
支払い能力もないのに
身の丈以上を欲しがる
完全なる自由の異名を
子供の我が儘と呼ぶ
足りることを知れば
縛られることはないのに
満ちても日々に欠けてく
見かけの大きさに
一喜一憂して
騙される振りしてるうちに
本当は月が
球体であることを
忘れてはいないか
創造も破壊も
車窓に飛び去る風景と同じ
新旧を交互に
繰り返しながら
夢幻の線路で森羅万象
全てが宇宙に消え果てる
だから天国も地獄も
ふたつを跨いだ
ぼくらの足下にしかない
どちらに軸足を移すのか
決めるのは
自分以外に誰がいるだろう
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始まりはいつも
終わりを用意しながら
優しく微笑みかけるから
この花はいつまでも
咲き続けるなんて
バカみたいに信じてた
Sunny side
窓際のガラス越し
光り浴びて眩しく開いた
一緒に焼いた素肌も
白く元に戻って
ぼくらの夏が尽きる
終わりはきっと
始まりを用意しながら
涙で頬を濡らすけど
この花は萎れても
またいつか咲くから
大地にそっと返そう
Summer fades
カーテンの後ろから
床に落ちた鉢植えの花
初めての時みたいに
ぎこちなく黙って
ふたりに秋が色づく
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火から下ろして
冷めた頃には
味が染みて
美味しくなってる
鍋物みたいに
地味で
恥ずかしいけど
何度も温めるよ
豪華過ぎる
ディナーに
少し飽きたら
またおいでよ
いつでも準備して
待っているから
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いま欲しいはずの言葉
みつけられずに
また後悔するんだろう
明日じゃ意味がない
知っているけど
喜びなら
簡単に手を繋いで
笑い合えるのに
同じ苦しみ
味わえないのが苦しい
今夜11時17分過ぎ
深藍色の天蓋に
乳白色のミラーボール
釣り下げるよ
きみのために
友よ、
チューハイ片手に
外の涼風に
暫し吹かれて眺めよう
鈴虫たちのセレナーデ
オマケに付けるから
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誤解されるのは
慣れているけど
すり減らないように
余計な説明とかはしない
ゲンコツだと
何も掴めないので
コブシ握るのは
ドアをノックする時だけ
キーホルダーの鍵は
余り多いと
挙動不審に汗るから
ありがとう、と
ごめんなさい、の
ふたつがあればいい
SORRY from the bottom
of my heart for your
misunderstanding,
and THANKS anyway.
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振り返ると
自分の重さで
凹んだ足跡に
血糊のような恥の数々
思わず声をあげて
気まずくあたりを見回す
忘れられないなら
思い出さなければいい
熱暴走で
フリーズしたシステム
温かいきみのハグが
逆に追い打ちをかけて
新しく生まれたバグに
脳内のメカニズムは
Out of control
進めない
戻れない
ジレンマに
リセットもままならず
途方に暮れる
On the way
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馴れ合いや相互扶助も
時にはいい
歩けない者同士
坐り込んで
いたわり合えば
また立ち上がれるかも
知れない
子供が親を頼るように
親も子供に支えられてる
それが
永遠に続くものならば
そんな繋がり方もいい
親から子供
そして孫へ
歩行器も杖も
歩くためには必要だ
としても
人は一人で生まれ来て
また独りで還って行く
ぼくが人を思うほど
人はぼくのことを
思ってはくれないけど
一度愛した責任は
二度と消えないから
ぼくはもっと強くなれる
息も絶え絶えなきみが
再び立ち上がるのを
ずっと黙って待って
見守っていられるくらいに
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「柄モノは
裏返して乾すのよ、
色落ちするから」
「あぁ、なるほど〜
いいこと教えて頂きました
じゃ、ぼくを
裏返さないで乾したら
色落ちして少しは
色白になれますかね?」
地黒のぼくがトボけると
即座に
「あら、面白い方ね」
そう応えながら
うふふ、と笑う
洗濯物を乾したあと
ソファに横並びに坐って
お喋りをした
「三田さんはどちらに
お住まいでしたか?」
「この向こうの
中仙道と○号線に挟まれた
こんもり繁った
森がありますね?
生まれも育ちも
あのあたりです」
三田さんにはどこか
背筋の伸びた上品さが漂う
「あのお婆ちゃん、
藤田さんね、いつも
首にタオル掛けてるでしょ
一緒に
ちゃんとしたレストランで
食事をする時も
あんな調子だから
ちょっと恥ずかしいの
それから、
あそこのお婆ちゃん…」
三田さん自身には
お婆ちゃんの
自覚がないらしい
「この向こうの
中仙道と○号線に挟まれた
こんもり繁った
森がありますね?
わたし、
あのあたりで生まれて
育ちましたの」
たぶん
物覚えの悪いぼくのために
繰り返し同じ話を
してくれるのだろう
この三田さんが
認知症だとは思えないから
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歯を食い縛って
抑えつけてるバネ。
顔を上げて
周りを見回す余裕なんて
ないけれど、
抵抗とは逆らう力だから
プルプル震えながら
我慢すればするほど
遠くまで飛べる理屈。
うずくまって
膝を抱えてるように
見えてるんだろうけど、
腰を屈めているのは
次の跳躍のために
力を貯めてる途中だから、
そこでお喜楽に
笑ってろよ?
その頭、
軽々と飛び越して
直ぐに見返してあげるから
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改札のゲートは
朽ちた木製。
普段は無人駅で
通勤通学のラッシュ時だけ
幼稚園の制服みたいな
水色の開襟シャツを着た
お婆ちゃんが窓口に立つ。
「あんた、
こないだ預かった傘
持って帰り?」
高校生のお兄ちゃんに
その老いた「駅員」が
呼び掛ける。
ぼくは煙草を吸いつつ
ボ〜ッと考え事をしていた
「酷い有様でしょ?
この間の台風で
吹き飛ばされてね…」
声のする方へ顔を向けた。
ぼくに
話しかけているらしい。
目を向けていながら
何も見てはいなかったが
その老駅員の声に促され
改めて駅の建物を眺めると
木製の窓枠の半分がなくて
粗末なベニヤ板で
塞がれてはいるものの
それさえ反り返り
雨風が吹き込みそうな状態
「ここは
古い駅やけど、
珍しがって
写真とりにくる人が
結構いるんよ。
こんなん、
申し訳なくてな…」
「材料と道具があるなら
修理しますけど…
ぼくも前から
気になってたんです」
「いやいや
駅長さんには
話してあるから
近々来てくれるやろ。
ありがとね」
このあたりの人たちは
みんな距離が近い。
自転車に乗った
知らない高校生が
すれ違いざまに
「お早うございます!」と
挨拶をしてくれたり、
数日前には
住宅街を歩いていた時
虫採り網を抱えた
小学校2〜3年生の
男の子が
「こんにちは」と
円らな瞳で見上げながら
近寄ってきた。
こちらも
慌てて挨拶を返した。
視力に自信がなくなって
効率的で便利な車から
手間暇のかかる電車や
自転車、あるいは徒歩に
移動手段を切り換えたら
今まで見えなかったものが
見えてきた気がする。
ゆったり温かい
この田舎町にぼくは
愛着を感じ始めている。