詩人:アル | [投票][編集] |
気の花が散って
心地に迷い降りる
垂れ込めて
月の在処も知らぬまま
夜だけは老けてゆく
病に青を帯びて
東雲の空に
曙光が兆すから
何度眠れぬ夜を
過ごしても
再生の朝に甘えて
直ぐにその深さを
読み違えてしまう
漕がなくても
風に波立つ流れは
弛むことなく
頼りな気なこの舟は
無抵抗に運ばれて
川下の向こう
滝壺の予感に震えつつ
無作為を貪り続ける
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ネェ、歌おう?
なんか弾いて
んじゃ
「守ってあげたい」
とかは?
ユーミンさんの?
違う、いわさきちひろ
鬼束ちひろでしょ?
え?
結婚して名字変わったの?
変わってへん、
変わってへん
もともと別人やから
え?いつから?
たぶん生まれた時から
いいから早く弾いてよ
じゃ、
メトロノームの目盛り
下げてくれる?
誰がテムポ上げて
弾けって言った?
いい加減にして
お前は中森明菜か!
古っ!
誰もつっこめへんわ
なんかあんた
守ってあげたい
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独善的なドグマ
燃え盛るマグマ
日々に増えてくノルマ
片付けられないノロマ
動機は邪で不純
動悸に疾しさが
拍車をかける
自信はM9レベル
地殻が薄いので
面目も体裁も簡単に破れる
都心に建設出来ない原発
虚心に破壊的過ぎる厳罰
震源地ド真ん中の君は
誰から非難を受けても
君自身を避難できない
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3:00a.m.
そこだけ
不夜城のように
煌々と明るい
コンビニの店内。
中を覗くとレジ前に
客がふたり。
入店して
カゴを手に取り右回りに
店内奥へと足を運んで
様子を伺った。
やっぱり変だ
ふたりとも
カラスのように黒い
ダウンジャケットを着て
1人はフードを頭から
すっぽり被っている。
もう1人は
ロング&ストレートの
黒髪の「女」で、
小柄で華奢だが、
黒く長過ぎる髪に
何となく生気がない。
どこか不自然なカップル。
そんな気がした。
赤と白のワインを
買い物カゴに入れた時
「金を出せ!」という
低く押し殺した男の声が
レジカウンターの方から
聞こえた。
あぁ、やっぱり。
店内でフードを
被ったまんまなんて
おかしいと思ったんだ。
不思議なくらい
落ち着いていた。
カゴを床に置き
ワインを一本
逆手に持って
ふたりに背後から
近づいた。
「動くな!」
女役が振り返り叫んだ。
やっぱオトコかよ
構わず距離を縮めると
ナイフを持った
フード男もこちらに
殺気立った顔を向けた。
ナイフのブレードに
サソリのマークが見えた。
柘植の
サバイバルナイフらしい。
刃渡り15センチはある。
さらに間を詰めると
いきなりフード男が
ナイフを突き出してきた。
咄嗟にワインボトルで
それを払い落として
相手の左膝の皿を狙って
右足の側刀で斜め下に
蹴り込んだ。
グァキッ!と
鈍い音がすると同時に
男が悲鳴をあげたが
構わず相手の右手を掴み
反転して腕を決めたまま
背中合わせになると
体を預け体重をかけた。
相手の伸び切った腕は
抵抗して倒れなければ
関節から折れる。
堪らず相手はフロアに
崩れ落ちた。
床に落ちていたナイフを
女役が
拾いに動いた背中を
蹴飛ばすと相手は
ナイフを通り越して
数メートル先の床に
カエルのように転がった。
ナイフを拾いあげながら
警察が来る前に
立ち去らなければと
思った。
「あとは宜しく」
とか言いながら。
(たぶん続く)
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………。
「お客さん、お客さん…」
「んんっ?」
「大丈夫ですか?」
いきなり現実に
引き戻された。
二人組は
買い物を済ませて
その姿は既に
そこにはなかった。
数分間
記憶が飛んでいた。
「…こんな真夜中に
店の中でフード
被ったまんまなんて
怪しいよね?」
「え?ええ…」
そうでもないらしい。
「…あ、
あとマイセン3個下さい
10って書いてるやつ」
「ソフトパックですか?」
「いや、
ハードボイルドで」
最後の台詞は
口にしなかった。
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下ろし立ての
シャツみたいな
真っさらな朝
新しいだけの
着心地の悪さに
違和感を否めない
散らばった欠片
夜通し拾い集めた
自画像パズル
無理に嵌め込んでも
自分には1ミリも
似ていない
偏執の対極で
分裂した破片は
手掛かりもないまま
完成図を描けず
宇宙の果てまで
先送る払暁の空
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まだ言葉さえ
上手く喋れないのに
ちょこんと座って
やらかい両手で
ちっちゃい鍵盤
キンキン叩いて
キャッキャと
満面の笑顔。
あの頃は
モーツァルトより
ベートーヴェンの方が
好きだった。
どんなに努力しても
モーツァルトには
なれないけど
深刻に俯いてれば
ベートーヴェンには
近付けると
勘違いしてた。
「赤ちゃんて
いい匂いするね?」
きみの分身を抱いた
きみの傍で
むかし教えてくれた
「エリーゼのために」を
弾いてみた。
「まだ覚えてたのね?」
「うん、指が、ね。
...そろそろ俺帰るよ」
「え!会ってかないの?」
「うん、時間ないから
よろしく言っといて」
赤ちゃんは
アイツではなく
彼女に似ていて
抱き締めたいくらい
可愛いかった。
「カワイイガキ」
「ん?」
「いや、そのトイピアノ
河合楽器だろ?」
「やっぱ変わんないね?」
「ああ、一言多いのに
必要な言葉は足りない」
抱くって
手で包むって
書くんだね。
それは言葉にしなかった。
ぼくはむかし
彼女を優しく包んで
あげれなかった。
まるで
おもちゃの
ピアノみたいに
キンキン幼い音を
奏でるばかりで。
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祖父が孫に
竹トンボを手ずから
作ってやって、
一緒に遊んでいる。
その一方で、
殿様は
高価なラジコンのヘリを
先代から
買い与えられたが、
直ぐに飽きた。
彼の理想も博愛も
バーチャルなゲームの
アイテムに過ぎず、
実際に転んで
血を流したり、
汗を流して
労働に
勤しんだ経験がない。
彼は5月になれば、
「けじめ」と称して
あっさり魔法の杖を
投げ捨てるのかも
知れない。
その昔、
熊本の細川の殿様が
そうしたように。
散々遊び飽きた末に、
沖縄では
オモチャのラジコン・ヘリ
ではなく、
本物用の滑走路が
新たに作られるのだろう。
お疲れさまでした。