詩人:日月子 | [投票][編集] |
あの時
雲は月のベールで
中天に輝いていた
そっと
貴方が訊いた
少し迷って
私が応えた
試されていて
示されていた
大切な場面は
いつも
ホンの一瞬
でもいちばん
永い時間
何げなく
交わされた
その会話を
今でも
憶えている
その夜は
手も握らずに
私達
別れたけど
あの
張り詰めた
泣きそうな位
美しい月の
春の宵を
今でも
こうして思いだす
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最後の砂袋を捨てました
どうしても嫌だったけど
それを離すと
どこまでも漂って行きそうで
成層圏
とかまで行きそうで
人と同じ幸せを
遠く離れてしまいそうで
怖かったので
最後の錘は
捨てたくなかったのだけど
ついに昨夜
手ばなしました
重い砂の袋を
心の気球は
イタズラに膨らんでいるので
貴方のカタマッた笑顔も
白いブーケも
庭ツキ一戸建ても
今はもう
マメツブです
高度は上がり続け
大気は厳しさを増し
何か恐ろしい事の予感を
今ワクワクと待っている
私はいつになく
ハイ です
静かな
酸素を
燃やせ!
モット モット 燃やせ!
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ほら春がきたよ
うつ向いて
早足で歩く
僕の瞳にも
春の暦が
映っている
なずな
はこべら
ほとけのざ
たんぽぽ
かたばみ
からすのえんどう
新緑の命たちに
君のなまえと
笑い声の記憶
織り込んでいく
なずな
はこべら
こいしいひと
たんぽぽ
かたばみ
きみにあいたい
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えんりょがちに
恋をしていた
あなたの
差し伸べた手は
私が迷うくらいに
距離がありました
精一杯の
光だったかも
絞り出した
言葉だったかも
たくさん
人を乗せたバスが
二人の前を
通っていたので
なんとなく
気を取られて
あなたを
つかまえ損ねたのです
今
私が伸ばした手は
払うこともされず
握られることもなく
あなたの裾を
掴みそこねた
戻っておいで
あたしの
あたしの
負け犬の手
あの人は
もう
去ったのだよ…
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気が付けば
運命の日は過ぎて
重い前髪払うように
今
一陣の風が吹いた
暖められた心が
髪、肩、指先で
小さな気流の渦を作る
倒れた樹にも
萌黄色の
小さな勇気
光の呼ぶ方へ
目を覚ました
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夜空に舞う
白い
リボンのように
あなたの元へ
想いが
闇に光って
見える程よ
夕焼けに
たなびいて
朝靄に舞って
あの
強く光るのは
誰の元へ と
人が問う
私の目には
はっきりと
映ってる
のに
目を閉じて
お祈りを
腕に絡めた
シルクのリボンを
窓を開け
風に放して
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答えがなく
行き場がない
やりとりの
終わりに
私が選んだのは
無条件の降伏
無償の愛でした
独り善がりで
何も恐れない
あなたは
静物画を
眺めるようにして
終わりを
受け取りました
一人の
死すべき人間に
対する
ひたむきな想いが
こうも
破壊的だとは
知らなかった
この恋を知るまでは
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冬に
閉じ込められて
想いがまだ
自由になれないでいる
素直に
泣けなくて
心がまだ
苦しんでいる
あのひとの
笑顔の記憶や
散歩道
日陰で見つけた花
あんなにも
無邪気に
幸せになれた
のに
また冬がきて
同じ道
同じ匂い
曇り空に胸が
凍えて痛む
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強い風
目に映るのは
岬
海原に
白い波がしら
あ、秋桜
白いサンダルと
飛んでった
私の帽子
追いかけたアナタ
それとは違う海
違う季節
違う運命
天高く
水彩画の
ぼやけ雲と
冬の色少し
溶かし込んで
色づき始めた
樹々にも
私の
小さな
てのひらにも
掴き合わせた
上着にも
秋は
平等に
長すぎる
影を落とす
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あなたのその瞳は
あの空の彼方へ…
熱い太陽と
裸足と
聞き慣れない言葉
はためかせて
今
コンパスを掴んだ
それでも
あなたは
傷つけまい
と
傷つくまい
として
私からは
光る翼を
隠そうとするの?
カバンを持って
たちなさい
君
腕に力を込め
朝日を浴び
新しいクツ履いて
うしろ姿は
もうシルエットで
二度と還らぬ旅人の
誇らしげな背中のよう
私は気取られぬ侭
祈りの花束を
そっと海に放す
さようなら
私の
貴い生き物