詩人:カスラ | [投票][編集] |
【電脳世界】ココをそう呼ぶ人がいる。
ココでは、【ワタシ】がハンドルネームなる匿名性の乗り物で行き交うとし、ココ自体、それらワタシらが生み出した架空の世界であると言う。それぞれが何故か、それぞれの生み出した宇宙に隠遁する。
ワタシはさながら、堅固な暗箱の中に逃げ込んだ蟹のごとくその潜望鏡のような小さく近視用の単眼にて、世界を観望す。外宇宙はワタシの知り得ぬ神秘の闇に澄み渡っており、ただ恐怖のようでもある。故にワタシは自身をこの堅固な鎧にて守らねばならぬ。
ワタシの堅固なる暗箱はさまざまな外的情報を一切通さず、したがって内なる音も声も外へは漏れることがない。
それでもワタシは言葉を発しなくてはならない。でもそれが何故だか、誰によって願われたか、解るすべがない。いや忘れてしまったのか。
(そもそもワタシは言葉を持っていたのであろうか)
(ワタシの単眼には何も写らないのは、何も無いからなのか。)
…ワタシは安らかだ。時折、波のような響きにて、耳鳴りのごとく一つの言葉が聴こえて来る。箱に刻まれた神話によると、このようなワタシがこの宇宙には無数に満ちていると記載されているから、そのエコーは幾重にも響いているのであろう。それは今日も小守唄のように眠りを誘い、箱はいたっていつもどうり堅固だ。
『ワタシはココにいる。ワタシハココニ…イル。ココイル。ワ…タシ…ハ…イルココニ…イル。タシハ…』
…∽…
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夜:
彼女のダイアモンドを散りばめた黒貂のドームは
光年の彼方より来たれる私の星屑を溶かし去った
夜は私を胸に抱きしめその炭素の黒を広げ
時を超え私の内なる縦糸を引き絞る
私に『光』・『言葉』を与え 私自身が彼女に他ならないことを教え示し
疑問の内に閉じ込めたまま東へ向かえと命じ
私の夜明けのために天空を創り出してくれた
私は泥足を洗い 白い烏に従い 乗りつけたのは黒い森の入口
白い烏はプラトンの蔦の絡まる醒めた目で
存在や天体の真実を捉えようとしていた
かたや道化達は無意味なゲームを次々と鋳造し
オウムの衣装で嘲笑いジョークを飛ばす
※二人の女が現れ泣いている
マダムバタフライは突然
の芝居じみたガラスの涙を流してみせ
一方夢の闇ではクイーンビイーがあらゆる人類の痛みを知る
風 火 地 水
天秤上の世界
過 現 未 虚
変転の釣り合い
その釣り合いの上に在る世界で
大僧正らは審判の刃を振るい 名も無い墓碑に『信ぜよ』と刻む
かたや強欲亡霊女らは灰と砂とを溜め込み
奴隷らを鎖で縛り付け
焚き付ける言葉に怯え逆上し 祝宴を潰そうと立ち上がる
一方 独りごちほくそ笑む狂人には全てがどうでもよいこと
計量ナイフを研ぎすますため 賢人達の投げ放つ礫は はからずも流血を招き
クイーンビイーはその卓見故に眼が利かず
生を怖れては早々と死を捉える
かたや子供らは打ち込まれた釘の意味を悟れる時までドグマの前にひざまずき続ける
全てのその一方で 我等の母なる大地は均衡を保ち待っている
今 黒い森に迷い込み分け入った人々の頑なな自我とちっぽけな肉体とが ゆらゆらと 溶け出してゆく
広大無辺の夢の時空へと溶け出して生成する夢の糸を紡ぎつつ
繰り返す物語を織り成しているその宇宙となり
夢見られている夢が
私と呼ばれている繭なのだ
…§…
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精液のように青ジロイ男がぬっと現れては通り、
あそこのように桃グロい女が通る。
自らの意志で小さな砂漠となったものたちが行き交う。
その上を風が吹いている。
砂漠の住人には金は用がない。金がある人とは肉汁のある人だ。
旅の好きな女は堕胎が好きだ。良いことがココにではなく、いつもココ以外のどこかにあるだろう、これでは侵略民族の成れの果てだ。それは薄暗がりに自らを無限に堕胎することに、同じだ。
格闘技が好きな人は、傲慢な人だ。砂漠には観戦者は用が無い。だが自身も骨折するまで格闘技をやれば、透明になれる。砂漠になれる。
しかしある時、うかつにもオマエは自身の歴史をごちゃごちゃと紡ぎ、隔絶したYOUとなった。自分の中に臭い肉汁を溜め込んだ。
傷つけられつつも分かっているふりをしてあげた。
生まれ、育ち、自らに枷せられた偶然でしかないことに目を向けた途端、オマエの顔はますます醜くなる。
砂漠の住人はオマエの美しさをよく知っている。
今、オマエとワタシはここに空っぽ。涸れきった綺麗なガイコツ同士として出会わなければならなかった。
長い長い、演ったことのない人とのギターギグ。
ディストォーションの音が、空間を裂く。
若い砂漠たちの上を風が吹いている。
今日もまた。
…§…
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ガラスの円い橋が架かる。
渡らずに50年かかって ゆっくりと溺死して行くとき選別がなされる。
炎の花弁が育った。
地球に突き刺さる杭であることが出来なかった人たちが、次々に焼却炉へと運ばれている。
ホモサピエンス・とうに見離された、愛着の持てない失敗作。
炎はとっくに吐き気を我慢している。
肉体という小さな牢獄に閉じ込められ撃ち込まれたものの使命は、ただ、見据えることだけである。
・・古タイヤが捨ててある。まだ使えるテレビが捨ててある。ここちよい湿度に温度。オマエはゴミ捨て場の片隅に生えたキノコだから、室温に、日の光りに、
溶ける。
そこから見上げる高いビルの谷間の影の上空に、一対の天使の羽だけが並んで飛んでいる。
そんな間抜けなところが好きで。。
背の高いグラスにソーダ水を入れて届けてやろうか。
自分にかかる、ありとあらゆる痛みは、若いうちに全て経験しておかなければいけない。人間を条件ずけた、いい気な造物主をコケにするために。
生まれ、育ち、それら偶然でしかないものに目をむけた途端、余計なものがしゃしゃり出て来て、オマエの顔も醜くなる。貪欲で卑猥な人形遊びをしている老人たちの、時にオマエは人形になったり、玩具になってやったり、それがココという気がしてならない。谷間の薄明かりの彼方に見えるものは、そんな迫力の、はの字もない地獄画ばかり。
人形の中に、ピノキオの中に、本当の自分がいることも知らずに、人形のまま炎に運ばれ焼かれて行く。糸を切り、立ち上がることもなしに。
孤独で清潔な牢獄を、その不安のハンマーで叩き壊すものは、オマエ自身の巨大な欲望にしかない。
巨大な欲望にとって、今日何を着、明日何を食べるかなど問題ではない。
巨大な欲望にとって、昨日何を得たかなどではなく、何を捨ててきたかが問われ、
巨大な欲望こそが、自分の一本しかない背骨を犬にくれてやる。
ワタシはゴミだから、降るどの雨にも洗われる用意がある。
∽カスラ∽
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…†…
渦巻き星雲のひとつの腕の端から その中心を眺めると
彼方から届く淡いひかりは もしかしたら もう今は失われた過去の物語
それでも不条理で理不尽な道程は 決して届かない言葉を未来に向けて 打ち出さずにはいられなかった
8月29日にはじめて その朧げな昨日からのメッセージは
どこか遠いところへ連れて行ってと言っていたね
いいよ 連れてゆく そう言ったら
もう帰って来られない旅だよ とも言っていたね
その時 永遠の時間の内に取り込んでしまえていたらこんなふうに 探さなくても よかったのにね
したり顔のよけいなお節介どもがしやしやり出て
この腕にまとわり着き 最後の魔法を使えなくしたから
円環のうちに最悪の後ろ姿こそが 光に背中合わせしていることを 指し示してあげられなかった
今も遠くたよりない世界に彷徨っているなら
消えゆくような かそけき信号を
もう一度
その澄み渡った闇から 届けては くれまいか
…†~………………………