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藤井柚子の部屋


[7] 車輪の下に
詩人:藤井柚子 [投票][得票][編集]


夜明けまえに落ちてくる
右手を下にして横向きになる 目を閉じて いつからか考える(わたしは丸くなり)いつからあれが降っているのだろう 今日も名無しの子たちが降っている アアアンアンアン声がきこえる 幼児 幼児
どぼん どぼん どぼどぼ
わたしはね 16歳
家族は増えましたか
ええ すませましたもの
何をすませたのかしら
わたし子供ですから
子供ですからわかりませんか
幼児が一匹 幼児が二匹
あの子右目が落ちてもけ
らけら 笑ってる
すました三匹 血のない四匹 わたしたちは繁殖をしている ぴぽぱぽぴぽぱぽ血の味がしないんです 噛みますが 皮膚 血の味
昔のことでしょう
いいえ今のことです
どうぞ おめしあがれ
いま わたしが16歳の時のことです ほら また 幼児が降ってきて海に落ちていったでしょう
名無しの子たち いまはもうただ焼かれ幼児だけが落ちてくる世界で ブルー かすかにこちらへ響く燃えた青 とおく とおく
あなた 親になりますか
いいえ わたしはまだ子供ですから親にはなれません/なりたくないにきまっているでしょう
なりますか親に
繁殖
増えたあとの暖かさ
存在しない親を憎む 絵のなか
船を用意させました
そして幾千の星に焼かれ
あなたは親になるでしょう
なりたくないっていってるのに?(幼児が一匹 幼児が二匹 海に落ちてく 幼児が三匹 ふふ それは美しいです)
親はどこからくるのでしょう 名無しの子たちは やむことなく落ちていくのに親は一人もい
ない きれい と呟く
16歳だから わたし
ごめんなさい/ありがとう
自分のところに還ります
落ちていくのみてるだけ名無しの子たちが落ちていくの(本当は楽しみにシテルンデショウ/ねえ ねえ)みてる
だけ 言葉なんていらない
どぼんどぼんといらない子たちいなくなって
やがてすべてがいらなくなる いつかすべてをいいわけにしても ブルー それらは傷口からわいてくる 発熱するでしょう 最初の親から 最後の親まで
あの青が消滅してしまうまでは
いいわけにしてもいいでしょう?歩きまわる生 死ね
―消えてゆくものたちが燃えた青に流され どこにもゆけないのだとしても やさしい骨たちがわたしを抱いてくれる
わたしはまだ 16歳
ただわたしが親になれないだけ

2007/05/01 (Tue)

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