ホーム > 詩人の部屋 > トケルネコの部屋 > 廃線の鬼灯

トケルネコの部屋


[90] 廃線の鬼灯
詩人:トケルネコ [投票][得票][編集]


花ビラを敷き詰めた赤い道
父と手を繋ぎ見渡す限りの能面に
蒼い作り笑いを向けたとき
空は逆転したのでしょう


私は窓に飾りをつけて
赤子をあやす彼のズボンを繕って
花瓶にいつもの毒を含むとき
凍えるように唇を咬むのです


母は腫瘍を患って
父の遺影に唾を吐く
それは風下に咲いたホオズキの
つましい細やかな抵抗で
赤子の腹をつねる私は
ただ泣くしかないのです


誰もが夜とまぐわって
月と秘密を孕むなら
悲しい物語などいらないのでしょう
後ろに溢れる十字の背表紙は
開く者をただ白紙に還すから・・・


つめたい雨に髪を梳かして
花瓶の毒を飲んだなら

父の鼓動

母の裏切り

彼の盲目

赤子の無垢を

私はそっと懐かしむのです


空は白く
蝉はおそらく鳴いていて
開かない天窓に
無数の星が落ちてきて
あの夜を引き連れて
黒黒とした棺が開くとき
未明の血を撒き散らし
月も父も引き裂かれ
私はやっと眠るのです


薬指に刻まれた

リングの裏に隠したままの

裂けびとともに




2010/01/21 (Thu)

前頁] [トケルネコの部屋] [次頁

- 詩人の部屋 -