詩人:どるとる | [投票][得票][編集] |
扱い方次第では
触れただけで
壊れてしまう
もろいガラスのよう
心はビードロ
誰かの些細な言葉に
思いもしないほど
傷ついている自分に気づいて
ひとり 黄昏の中
赤く染まった夕空がそっとため息で曇れば
眼球のレンズ越しに淡い切なさが広がる
感嘆にも似た気持ちから流れる涙でにじむ景色は
まるで 水でぼかした 何かの水彩画のよう
ポケットから手を抜いて
うつむいていた
顔をあげれば
そこには涙で見えなかった答と目が合った
遠目に見えるだれたような疲れ果てた色で揺れる明かりに包まれた街がある
足どりも重く
恐る恐る
一歩一歩が
小さくこわごわだけど
少しずつ
少しずつ
明日に向かってる
夜明けに近づいてる
ガラスのように
砕けたもろい心は
何度 砕け散っても
原型をなくすことはない
ほら 破片を拾うように 一晩 眠れば
大抵は 元どおり
そうしなくちゃ いられないって こともあるけれど
ぼくはただ
また 砕け散った
破片を拾い
ケガしないように
ひとつに 重ね合わせ また 何事もなかったかのように使い古された愛想笑いとお世辞で世の中を泳ぐ
スイスイ…
そしてまた気を抜けば ビードロの季節は何度でもぼくの心におとずれる
悲しみのない季節などない
一瞬の隙でさえ
入り込む 余裕があるなら 悲しみは 容赦なく ぼくらを襲うから
どうか肩の荷をおろして安心するのも ほどほどに
何かと 気兼ねする
この世界
ガラス工芸のように
ぷくーっと膨らんで
苛立ち 隠せずに
いっそ たまには
壊れたい 壊れたい
そんな気持ちを必死に こらえて こらえて
ぼくという人間は割れそうで割れない冷たいガラスを抱いたまま生きる
何度でも同じような季節を行き交いながら
思い出にあたためられながら
冷やされたり
あたたまったり
せわしく 暮らすよ。