詩人:どるとる | [投票][得票][編集] |
夕暮れにふたつ
細長い影を並べて
8月も中頃になれば花火を買って帰る
夕飯のあと
家族みんなでやろうと毎年のように誰かが言うのです
振り返ればそれはまるで夢のように
花火が散るのと同じにおぼろげな記憶
どうでもいい過去は自ずと消え去り
大切な思い出だけが胸の中にいつまでも残り続ける
それとは逆だから
悲しいんだね
どうでもいい過去ばかりおぼえてて
肝心な記憶はなぜだか薄らぼやけているんだよ
今年も花火やろうか
言い出したのはぼくだったよ
年老いた父と母
そしてふたつ年下の弟
あの頃の思い出を思い出す
少しずつ 少しずつ
引いてゆく夏の暑さ
秋の風 吹くころはもう
夏の暑さは坂道を下るように坂道の下から見上げるような遠い過去だよ
まほろばの夢
花火の音 遥か
日はのびて
五時にもなれば
街は闇の中
暗い海の底
有明の星がまたたくように光る
そしてまた
耳をすませば
風鈴の音が聴こえる
懐かしい夏がよみがえるのさ。